はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 太陽の章 その48 立ち上がる女たち

2023年02月02日 09時47分51秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章
やがて、女たちの輪から、紺の衣裳に身をつつんだ女が進み出た。
その目の表情には決意があらわれている。
妓楼の若き元締めの藍玉《らんぎょく》である。

「『壷中』の仲間を探してらっしゃるとのことですが、まことでしょうか」
陳到は、何事をも見逃すまいとしている藍玉の、力強い双眸を受け止めて、うなずいた。
「まことである。先日は世話になった。このなかに医者もいると助かるのだが」
「おりますわ」
藍玉は、ちらっと女たちの群れを振り返る。

すると、ひときわ背の高い、男装した女が前に進み出た。
いかにも意志の強そうな、きつい美貌の女であった。
「嫦娥《じょうが》と申します。趙子龍どのの副将の陳叔至さま」
「おう、わたしを見知ってくれているのなら話は早い。
嫦娥どのとやら、貴女に診てほしい患者がいるのだ」
「あの女は、命を絶とうとしたのですか」

あの女とは、先日の夜に捕らえた人攫いの片割れであろう。
暗に陳到が、しっかり管理をしていなかったことを責めるような口ぶりであったが、陳到はそこで感情的にならず、首を横に振った。

「いいや、あの女はすこぶる元気だ。
でもって、いまも口を閉ざしたままだ。
診ていただきたいのは、別の男だ」
「斐仁《ひじん》ですね」
「よくわかったな」

陳到が、嫦娥を守るようにして立っている女たちの輪から、嫦娥だけを連れて行こうとすると、女たちが一斉に騒ぎ始めた。
「そのひとに悪いことをしたら、あたしたち、ただじゃおかないからね!」
「ほんとうにこのなかにけが人がいるのかい? 
じつは、このひとを罠にかけるつもりっていうのじゃないだろうね?」
「こっちは、あんたたちに頼まれたから、仕方なくやってきたんだ。
事情を説明するのが先ってもんだろう!」

道理である。
女たちを前に、陳到は端的に説明をはじめた。
「襄陽城から斐仁が帰って来た。
だが手違いがあって、いまは瀕死の状態なのだ。
しかし、斐仁は襄陽城に向かった軍師どのと、趙将軍の動向を知っている。
いま死なれては困るから、医者を探して居ったのだ」

だが、女たちはそれだけでは納得しなかった。
「斐仁なんて放っておけばいいじゃないか」
「そうだよ、そいつは、いやらしい客だった、死んで当然のやつだよ」
「斐仁にかこつけて、あたしたちを一網打尽にしようって魂胆じゃないだろうね」
「あたしたちの意地を見せてやろうか」

いまにもその手入れされた爪と、よく動く唇の下の歯で、バラバラにされそうな勢いである。
さすがの陳到もうろたえた。
だいたい、藍玉だけを呼び寄せるつもりであったのに、嫦娥とか、新野の夜の女とかがもれなくついてきたことの意味がわからない。

それに、女医と言うだけあり、学があるせいか、嫦娥は迫力がありすぎる。
年は二十代後半くらいか。
いまは男のなりなどをしているが、ちゃんと白粉を塗って紅をはき、髪を結って簪《かんざし》をさせば、どんな男も思わず振り向きそうだった。
背がいささか高いのが難だったが。

騒ぎ立てる女たちをしずめるため、陳到はさらに言った。
「おい、落ち着け。このひとをふくめ、おまえたちには決して害を為さぬ。約束しよう」
「本当かい? 最近じゃ、あたしたちの仲間も狗屠《くと》とかいうのに殺された。
なのに、あんたたちは何にもしてくれなかったじゃないか! 
いまさら信用できやしないよ!」

その言葉に、陳到はぎょっとした。
「おまえたちは、なぜ狗屠のことを知っている」
陳到の問いかけに、嫦娥が派手に鼻を鳴らし、つんと顎をそらして言った。
「わたしたちが金勘定ばかりしていると思っていなさるのでは? 
わたしたちとて、身体を張って生きている。世の中の動きには敏感なのです。
許都で何人も娼妓を殺している殺人鬼がいて、そいつが新野でも暴れたことくらい、みんな知っています。
なのに、お役人さまたちは、われらを守ってくださらなかった。
そのくせ、罠にかけるように、壺中の人間を呼び寄せようとする。
それであなたたちをすんなり信用できると思っておられるのか」

つづく


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さて、創作の進捗は、行ったり来たりといったふうで、さて、「太陽の章」が終わった後、連載できるかなー、という微妙な感じです;
でもって、昨日は夜なべして、「太陽の章」のラストシーンをすこし書き換え、さらには、番外編の最終推敲をしました。
なるべく出来の良いものをみなさんにお見せできるよう、がんばりますv
続編の制作も、がんばりますね(*^-^*)


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