はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 太陽の章 その73 陳到と嫦娥 その3

2023年02月27日 10時19分00秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章
「おそらく、このまま足を早めれば、じきに樊城の隠し村の手前にある胡家の別荘にたどり着くことができます。
そこが兵糧を運ぶ拠点となっておりますので、隠し村につく前に、兵糧を奪ってしまえばよい。
そして、輜重《しちょう》の列のフリをして、壷中の村に侵入する。
壷中の隠し村には、外敵にそなえ四方の望楼に兵が配置されております。
ですが、内側に入り込んでしまえば、あとは脆いもの。中には子供しかおりませぬ。
叔至さまより関将軍へ、この作戦をお伝えいただけませぬか」
「なぜ貴女がじかに関将軍につたえぬ」


嫦娥《じょうが》は、諦めきったような、どこか見るものを落ち着かせなくする笑みを浮かべた。
この女は、あまりに聡すぎて、人の三つくらい先を読んでしまう、損な性質らしい。


「女のわたしがたてた作戦を関将軍は喜ばれますまい。
いいえ、たとえ関将軍がよしとおっしゃっても、ほかの武将がたが納得してくださらなければ、作戦は破綻してしまう。
おわかりでしょう、いまはひとりひとりを説得している時間がないのです」
「わかった。貴女の言うとおりにわたしから進言してみよう。
兵糧を運ぶ輜重隊の規模や、胡家の別荘の様子はわかるか」
「輜重隊の規模はわかりかねますが、胡家には、何度か往診に足を運んだことがございます。
内部の見取り図なら、おおまかに書くことができますわ」
「ふむ。輜重隊を調べるのは斥候兵に任せるか」


陳到は、さっそく嫦娥の言葉に従い、関羽のもとへと足を向た。
日が落ちるまえに胡家に向かわねばならぬということもあり、陳到は関羽に策を説明した。
子供が犠牲になっているという話に怒りをおぼえていた陳到の熱心な説得もあり、嫦娥の言うとおりの作戦が決行されることとなった。









強行軍でへたばって落伍しかかっている兵卒たちの様子をひととおり見回ってから、嫦娥は、山道に分け入る。
それから、だれもほかに付いてきていないことを確かめた。
ざわざわと木立が風に揺れている。
初夏の光が、葉と葉のあいだに零れ落ち、影が地面にみごとな模様描いていた。


嫦娥は、すうっと息を呑み込むと、青葉しげれる森の中の精霊に呼びかけるようにして、声をあげた。
「ついて来ているのだろう。関羽の軍に突き出したりはせぬ、出て来い」
嫦娥の凛とした声に応じて、こんもりとした木々の茂みのなかから、禿頭の男がひょっこりと顔をあらわした。
夏侯蘭である。
「気づいていたか」
「あたりまえだ。陳叔至も気づいていたようだぞ。
あれはなかなか懐が広い。おまえを見逃していたようだ」


ばれていたと知って、夏侯蘭はいささか蒼くなり、陳到のいる方向へと顔を向けた。
もちろん、そこに陳到はおらず、ただ休憩している兵士たちの姿が遠くにあるばかりである。


「これから、わたしたちは樊城の隠し村の入口にある胡家の別荘を襲い、輜重隊のフリをして村に潜入する。
おまえは大人しく、あとからついてこい」
「しかし」
夏侯蘭が反論しようとするのを、嫦娥はゆるさなかった。
「武人の誇りが云々などと、くだらぬ話はよせ。
よいか、おまえはわれらが輜重隊に成りすますさいに、われらにまぎれて村に入るのだ」
「よいのか」
「狗屠《くと》を討ちたいのであろう」
「そうだ。しかし、どういうことだ」


「よいか、壷中は細作集団。
それに反し、狗屠というのは、闇に潜み、無辜の娼妓を殺しまわる殺人鬼。
両者は似て非なる存在だ」
「たしかに。俺の妻は、細作や、裏の人間とは、まるで関わりがなかった」


なつかしい妻の面影を思い出し、つい声が震える。
その様子を見て、嫦娥は顔をそらす。
だれであれ、苦しんでいる者を見るのは得意ではないようだ。


つづく

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だんだん温かくなってきて、いろいろ動き出したくなりますねー♪
あんまり浮かれすぎないように気を付けつつ、今年の春は楽しもうと思います。
コロナ禍もいくらか落ち着いてきましたし…
みなさまも、どうぞ本日もよい一日をお過ごしください('ω')ノ


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