白鑞金’s 湖庵 アルコール・薬物依存/慢性うつ病

二代目タマとともに琵琶湖畔で暮らす。 アルコール・薬物依存症者。慢性うつ病者。日記・コラム。

目次を読んだ猫(解決編)

2017年10月09日 | 日記・エッセイ・コラム

「喘息の発作に見舞われたところを見ると虚美氏はかなり熱狂的なミステリ愛好家だと言えるでしょう。もっともそこまで行かなくとも土屋隆夫「針の誘い」に目を通したことのある読者なら、簡単に気付いたに違いないことかも知れませんが。「針の誘い」の特徴として各章の冒頭ごとに欧米の古典的ミステリ作家の大御所が残した《格言》が引用してあります。土屋隆夫自身による本格ミステリ作家宣言と受け取ってみても構わないでしょう。土屋隆夫は本格ものが不当にも不遇な扱いしかされなかった’60~’70年代という戦後の長い歳月を支え続けた数少ない作家の一人でした。喘息発作を起こした虚美氏は当然そのことを知っていたでしょう。そこで珍しく土屋隆夫作品が書店の棚に並んでいるのを見かけた。感慨深いものを感じたでしょうね。同時に「針の誘い」に引用された幾つかの古典的《格言》にも思いを馳せたに違いありません。昨今の本格ミステリにも堂々と当て嵌まる《格言》です。知らないはずはない。そしてその隣りの並びには何と、土屋隆夫が引用した言葉の引用元に当たる文庫本が取り揃えてあるではありませんか。あたかも「これも一緒に読んでくれ」と言わんばかりの様相です。虚美氏は心の中で狂喜乱舞したことでしょう。こういう売り方があったか。ファンにとってはこたえられないと。全五章のすべての冒頭に引用されてある《格言》の引用元。ヴァン・ダイン「グリーン家殺人事件」、ジョン・ディクスン・カー「三つの柩」、エラリー・クイーン「Zの悲劇」、G.K.チェスタトン「見えない男」、アガサ・クリスティー「ゼロ時間へ」。計五箇所です。さて、もう一度現場を再現した写真を見て下さい。どうでしょう。何かが足りないということにお気付きでしょうか。そう、エラリー・クイーン「Zの悲劇」です。他の四冊がきちんとまとめて並べられているにもかかわらずエラリー・クイーン「Zの悲劇」だけが「抜け」ているのはどう考えても不自然に思われます。たった一点の欠落の影響でせっかくの書店の企画意図が破綻してしまっている。さらに虚美氏は恐らく、この不自然さにのみ反応したというわけではないと考えられます。あろうことか「抜け」ているのはほかでもないエラリー・クイーン作品である。それも代表作の一つ「Z」が欠落している。虚美氏は途方もないショックを受け、喘息の発作を起こして病院へ搬送されるという事態に至ったのでしょう。熱心なファンの熱心さゆえに発生した「悲劇」ならぬ悲喜劇だと言えるかも知れません」(’17.10.9)

BGM-A