阿部ブログ

日々思うこと

イギリス連合王国からのスコットランド独立問題

2013年04月11日 | イギリス
イギリスは「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」であり、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから構成される連合王国である。この連合王国を構成するスコットランドが独立の機運を高めている。

そもそもスコットランドは18世紀までは独立国であり、現在もスコットランド自治政府があり、独立した法体系を有する事は、あまり知られていないようだが、1999年に292年振りにスコットランド議会が復活し、2011年5月の議会選挙において、スコットランド独立を掲げるスコットランド・ナショナル党が第一党となってから、独立問題が俄然表面化する事となった。因みにスコットランド議会が復活した経緯は、トニー・ブレア労働党政権が推進した地方分権政策にある。この政策によりスコットランドだけでなく、ウェールズや北アイルランドでも議会が復活している。

何せスコットランド・ナショナル党(Scottish National Party、SNP)は129議席のうち、69議席を獲得し議席の過半数を超えている。この安定した政権運営が可能な状況で、党是を現実とする為、2012年10月15日、イギリス連合王国のディヴィド・キャメロン首相と、スコットランド自治政府のアレックス・サモンド首相が、2014年内に連合王国からのスコットランド独立の是非を問う住民投票の実施に合意するに至っている。

007のジェームズ・ボンド氏もスコットランド独立を強く支持している事は有名だが、イギリス連合王国下院のスコットランド問題担当委員会において、もしスコットランドが独立した場合の国防分野について調査を行っている。現状のスコットランド自治政府は、医療や教育では独立しているものの、外交と国防は連合王国に委任している。つまり独立するとスコットランドが国防軍を有する事になるからで、国防面での影響を心配するのは当然だ。

特に連合王国政府が気にしているのは、スコットランドにある国防関連企業BAE Systems、Babcock、Raytheon、Selex、Thalesなどへの影響だ。下院の推計では、2014年にスコットランド独立と言う事態に陥った場合、国防産業に従事する約15,000名の雇用と、20億ポンドの売上げが失われるとしている。

スコットランド問題担当委員会によれば、国防支出への影響は懸念する程無いとの見解だが、現在のイギリス軍からは大きく編制が変わる事は疑問の余地がない。イギリス軍の公式名称は、アームド・フォーシーズ・オブ・ザ・クラウン (the Armed Forces of the Crown)だが、最高指揮権は、イギリス連合王国の君主なのでHis/Her Majesty's Armed Forcesとも言われる。

イギリス軍の内、特に海軍への影響が大きい。長い伝統を誇る海軍艦艇主力はプリマス海軍基地やポーツマス海軍基地を泊地としているが、潜水艦基地はスコットランドに位置している。ファスレーンのクライド海軍基地でイギリス唯一の核戦力の本拠地である。

クライド基地は、トライデント弾道ミサイルを搭載する4隻のヴァンガンード級原子力潜水艦の母港であり、基地西岸にはカルポート弾薬施設もあり、当然ながら核弾頭を貯蔵管理している。トライデントD5潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を16発を搭載する戦略ミサイル原子力潜水艦ヴァンガード級(排水1万5980トン、全長149.9メートル)を イギリス海軍は4隻保有。

1号艦 S28 HMS Vanguard  ヴァンガード 1993年 8月
2号艦 S29 HMS Victorious ヴィクトリアス 1995年 1月
3号艦 S30 HMS Vigilant  ヴィジラント  1996年11月
4号艦 S31 HMS Vengeance  ヴェンジャンス 1999年11月

過去ブログ「イギリス 財政難から核保有を放棄するか」にも書いたが、2008年の金融危機への対応で膨張した国家債務を減らすため、大幅な歳出削減措置を実施中の中で、核戦力保有の是非も問われている。老朽化が進む原子力潜水艦を更新するには200億~300億ポンドの予算が必要とされ、国内を2分する形で議論されている。しかし、昨今の北朝鮮情勢をみたキャメロン政権は、原子力潜水艦の更新プログラムを実施するとしている。

しかし、スコットランドが独立を獲得すると、現在の平均年収と比較して年間500ポンド程度減収となる事から、単純に独立をスコットランド人が支持するとは思えない。

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