赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

①日本経済を衰退させる「コスパ病」

2024-01-10 00:00:00 | 政治見解



①日本経済を衰退させる「コスパ病」 :240110情報


ちょっと変わった「文化論」を見つけました。私たちが「安い物」に気を取られているうちに、「物」の奥にある本質、文化的価値をおきざりにしているのではないかという指摘です。大変に考えさせられる指摘ですので、この解説を書いた伊勢雅臣さんに特別の許可を頂いて転載いたします。



★「自損型輸入」とコスパ病 ~ デフレと地方疲弊の真犯人

外国の低賃金を武器にした「自損型輸入」が、コスパ病を蔓延させ、デフレと地方経済の疲弊を招いた。


■1.「1個100円の陶磁器」に国内市場を席巻されては

日経新聞がまとめた2022年のヒット商品番付は、東の横綱が「コスパ&タイパ」でした。「タイパ」とは聞き慣れない言葉ですが、「タイム・パフォーマンス」の略で、手作り感のある料理が電子レンジで数分でできる食品などが人気を集めています。

「コスパ」はおなじみ「コスト・パフォーマンス」、最低限の機能を徹底的な低価格で提供する商品です。100円ショップに行けば、コーヒーカップ、はさみ、靴下、爪切りなど、たいていのものが100円で揃ってしまいます。

「あらゆる商品の値上げが続く中で、費用対効果がより重視されるようになった」と日経は解説しています。このコスパに関して、『コスパ病: 貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』と題した本が注目を集めています。

著者の小島尚貴氏は福岡で中小企業の製品を海外に売り込む仕事をしています。しかし、この仕事に無力感を感じることがあると小島氏は言います。

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その無力感の原因は、私が輸出している地方の国産品よりも、はるかに安い価格で、類似の輸入品を日本市場に大量に持ち込む多くの「日本人の輸入販売業者」の存在です。例えば私が「1個1000円の陶磁器」を100個輸出しても、彼らが「1個100円の陶磁器」を1000個輸入すれば貿易収支は差引ゼロです。その激安陶磁器は日本で流行しているデザインや色を巧みに模倣しており、海外工場に対して仕様書の作成と原料の指定を行ったのは「日本人」です。[小島、p4]
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そもそも陶磁器の輸出などは、販路の開拓から、輸送、通関、売上げ回収まで、国内販売よりもはるかに手間がかかります。通常の中小企業では、なかなか手が出ないでしょう。なんとか販路を開拓しても、そこに「1個100円の陶磁器」で攻められたら、ひとたまりもありません。

小島氏は実務の世界でこうした問題に直面し、その問題の根本は自らを傷つける「自損型輸入」であり、さらにその原因をなしているのが、とにかく安さのみを追い求める我々日本国民の「コスパ病」だと見破って、この本を書いたのでした。


■2.数年で日本の産地を崩壊させた中国製い草

小島氏は、次の事例から自損型輸入に気がついたそうです。畳表に使われる「い草」は、かつては熊本県南部の八代地方が最大の産地でした。ところが、日本の一部の業者が、い草を中国で栽培し、畳表に製造して、日本に輸入する事を始めました。日本人のい草栽培技師が現地を指導し、また畳表を編む織機を中国に持ち込んで、製造させたのです。

八代の業界では、最初は中国産の品質の悪さを見て、「こんな粗悪品なら、日本人は買わないだろう」と油断していました。しかし、栽培法と品質管理を熟知する日本人の専門家が中国で指導を続けた結果、粗悪品は日本人消費者でさえ見分けがつかないほど改良され、八代の畳表はたった数年で土俵際に追いつめられてしまいました。

そもそも価格では、中国製の畳表は八代産の半額以下。値段で争う限り「ハナから勝負にならんかった」そうです。

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「日本人主導で、中国で生産されたい草による中国製の畳表」が、日本に大量輸入された結果、1990年には6580ヘクタールあった八代のい草栽培面積は2003年には1781ヘクタールと、たった13年でなんと72.9パーセントも激減しました。また、1990年の時点でい草栽培農家の数は5237戸だったそうですが、去年八代の農家さんに聞いたら「360戸ほど」ということでした。30年間で実に93パーセントが廃業した計算で、これは産地の「衰退」と呼ぶより「崩壊」です。[小島、p39]
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中国からのい草輸入を仕掛けた「自損型輸入」業者たちは、さらに巧妙な戦術をとりました。価格急落で破産・廃業した、い草農家から中古の織機を買い集め、中国の農家に売ったのです。売ったといっても、中国の農家には織機を買う資金はないので、業者はい草を買い取る価格を下げさせて、返済させるという手段をとりました。

熊本県では1990年から2004年にかけて合計7366台の織機が、老朽化で廃棄されたごくわずかの台数を除いて、日本人業者に買い占められ、中国に輸出されたそうです。


(つづく)




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