―四方のたより― この冬一番
<日暦詩句>-2
骨片は、飢えた海の光である。華やかな庭は鳥のやうに消え去つた。花を祝えば、橋は頬桁を歪めて一本の道を示す。花に膨れ上がつた一本の道は、墜ち凹み一本の道の中の一本の道となつて、安堵の霰を吐く。
――――
ひとかたまりの光は、少女から離れないであろう。筋肉のやうに。ひとかたまりの光は骨片の中に潜んでゐる。骨片を翳す少女は幸福なるかな。
―北川冬彦「光について」より-昭和4年―
零下1.0℃、この冬一番の冷え込み、奈良では―4.7℃だったという。
扇町公園の噴水には、うっすらと氷が張ったそうだ。
―山頭火の一句― 行乞記再び -135
5月21日、曇后雨、行程6里、粟野、村尾屋
今にも降り出しさうだけれど休めないやうになつてゐるから出かける、脱肛の出血をおさへつつあるく。
古市、人丸といふやうな村の街を行乞する、ホイトウはつらいね、といつたところで、さみしいねえひとり旅は。
行乞相はまさに落第だつた、昨日のそれは十分及第だつたのに-それだけ今日はいらいらしてゐた-。
今日の道はよかつた、丘また丘、むせるやうな若葉のかをり、ことに農家をめぐる蜜柑の花のかをり。
今日はよく声が出た、音吐朗々ではないけれど、私自身の声としてはこのぐらゐのものだらうか。
油谷湾―此附近―は美しい風景だ、近く第一艦隊が入港碇泊するさうだ。
今日の昼食は豆腐屋で豆腐を食べた、若い主人公は熊本で失敗してきたといふ、そこで私独特の処世哲学を説いてあげた。
どうも夢を見て困る、夢は煩悩の反影だ、夢の中でもまだ泣いたり腹立てたりしている。‥
※表題句の外、2句を記す
Photo/棚田から望む油谷湾の夜景
Photo/上空から捉えた仙崎の港と青海島
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