たれ たかさご
誰をかも しる人にせむ 高砂の
松も昔の 友ならなくに
詠んだ人・・・藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
詠んだ人のきもち・・・(年老いてしまった私は)いったい、だれを友人にしようか。
(年老いた)高砂の松でさえも、昔からの友人ではないんだなあ。
しる人・・・自分をわかってくれる人
高砂の松・・・兵庫県高砂市の松(松の名所)
たれ たかさご
誰をかも しる人にせむ 高砂の
松も昔の 友ならなくに
詠んだ人・・・藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
詠んだ人のきもち・・・(年老いてしまった私は)いったい、だれを友人にしようか。
(年老いた)高砂の松でさえも、昔からの友人ではないんだなあ。
しる人・・・自分をわかってくれる人
高砂の松・・・兵庫県高砂市の松(松の名所)
そで
うらみわび ほさぬ袖だに あるものを
恋にくちなむ 名こそをしけれ
詠んだ人・・・相模(さがみ 女性)
詠んだ人のきもち・・・(恋人の冷たさを)うらみ悲しんで
(涙にぬれた)袖が、かわくまもなく朽ちてしまいそうなのに
そんな恋のうわさのために
わたしの評判までが落ちてしまうなんて、残念なことですよ。
ほさぬ袖だに・・・うらみ悲しんで泣いてばかりいるので、涙をふく袖が
かわくひまもなく、ぼろぼろになってしまう、という意味。
くちなむ・・・すたれる。おとろえる。
名・・・評判。名誉。
ここでは、むなしい恋なのに、そのことをいろいろうわさにされて
落ちてしまう自分の評判、という意味。
をしけれ・・・惜しいなあ。残念だなあ。
(涙にぬれた袖さえ、朽ちていないのに、私の評判が落ちてしまうのがおしい。
とする説もあります)
い ささはら
ありま山 ゐなの笹原 風吹けば
いでそよ人を 忘れやはする
詠んだ人・・・大弐三位(だいにのさんみ 女性)
詠んだ人のきもち・・・ありま山から猪名(いな)の笹原に
(そよそよと)風が吹く。
そうよ、(そよそよと心がゆらぐのはあなた)
私があなたを忘れることがありましょうか。
(いいえ、ありはしません)
ありま山・・・有馬山(兵庫県)
ゐなの笹原・・・猪名川の川辺、笹のはえた野原
(兵庫県から大阪府あたり)
いで・・・まったく。いやはや。
そよ・・・それですよ。
人・・・ここでは、あまり会いに来てくれない恋人のこと。
ぐさ
かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしもしらじな もゆる思ひを
詠んだ人・・・藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)
詠んだ人のきもち・・・このようにあなたを恋しく思っている、とさえ
言えません。
さしも草がもえるように、
もえている私の思いがこんなに激しいのだと、
あなたは知らないのでしょうね。
かく・・・このように。
ここでは、
このようにあなたを恋しく思っている、という意味。
だに・・・~さえ。~すら
えやは・・・できない。
ここでは、言うことができない、という意味。
(「いぶき」と「いふ(言う)」を掛けている)
いぶきのさしも草・・・伊吹山の、もぐさ
さしも・・・これほどとは。
しらじな・・・知らないでしょうね。
くろかみ
長からむ 心もしらず 黒髪の
乱れてけさは 物をこそ思へ
詠んだ人・・・待賢門院堀川(たいけんもんいんのほりかわ 女性)
詠んだ人のきもち・・・あなたがいつまでも
私を愛してくれるかどうか、わからなくて
けさは、黒髪が乱れるように、思い乱れています。
長からむ心・・・いつまでも長く続く愛情
けさ・・・朝。ここでは、夜の間に恋人と会っていて、
恋人が帰っていったあとの朝。
物をこそ思え・・・ここでは、恋に悩むこと
たかさご おのえ
高砂の をのへの桜 咲きにけり
外山のかすみ たたずもあらなむ
とやま
詠んだ人・・・前中納言匡房(さきのちゅうなごんまさふさ)
詠んだ人のきもち・・・はるかな高い山に、桜が咲いたなあ。
人里に近い山のかすみよ、立ちこめないでほしい。
(花が見えなくなってしまうから)
高砂・・・高い山
をのへ・・・山の上
外山・・・人里近い山
音にきく たかしの浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
詠んだ人・・・祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのき 女性)
詠んだ人のきもち・・・うわさに高い、高師の浜のむなしい波は、
そでがぬれると困るので、かけませんよ。
同じく浮気者とうわさに高い、あなたのことは、
涙でそでがぬれてしまうと困るので、
気にかけませんよ。
音にきく・・・うわさ、評判に高い
たかしの浜・・・大阪府堺市あたりの浜
あだ波・・・むなしくうちよせる波
ここでは、心がわりしやすい浮気な男のおさそい、の
意味もかねる
もろともに あはれと思へ 山桜
花よりほかに しる人もなし
詠んだ人・・・前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん お坊さん)
詠んだ人のきもち・・・あなたをなつかしんでいる私といっしょに
あなたも私をなつかしんでください、山桜よ。
あなた以外に、わたしをわかってくれる人はいないのです。
あはれ・・・しみじみと心にしみて、なつかしい
山桜・・・ここでは、大峰山(おおみねさん 奈良県)に咲いている桜の花のこと。
行尊は、大峰山にこもって修行をしていた。
こぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
焼くやもしほの 身もこがれつつ
詠んだ人・・・権中納言定家(ごんちゅうなごんていか 百人一首をえらんだ人
藤原定家 ふじわらのていか )
詠んだ人のきもち・・・いつまでも来てくれない恋人のことを
わたしは身もこがれるほどに思っています
松帆の浦で焼いている藻塩のように
まつほの浦・・・淡路島の北にある海岸
夕なぎ・・・ゆうがたに、海が無風になる時間
もしほ・・・藻塩。塩のついた海草を焼いて、煮つめてとった塩
撰者の歌なので、ちょっとおしゃべり。
この歌、私は昔から響きがすごく好きだったんですが、今回調べてみて
これが百人一首を選んだ人の歌だったと初めて知った情けなさ・・・。
しかも女性の心情を歌ったものだったなんて。
本歌は万葉集にある、海女さんの少女の恋の歌らしいです。
来ない男。待つ女。
松帆の浦の藻塩を焼く風景。煙。潮の匂い。夕暮。
恋に身を焼く。胸をこがす。
主人公が女性だと考えて読むと・・・色っぽい!
他人の歌を99首も選んだ定家。
自分の歌をいっぱい入れたいとは思わなかったのかな。
唯一選んだ自分自身の歌がこれだと思うと
なんだか感慨深いものがありますね・・・。
なげけとて 月やは物を 思はする
かこち顔なる わが涙かな
詠んだ人・・・西行法師(さいぎょうほうし お坊さん)
詠んだ人のきもち・・・悲しめといって、月は私に恋の物思いをさせるのか。
いや、そうではない。
なのに月のせいにして、涙がこぼれてしまうよ。
かこち顔・・・かこつける(何かのせいにする)という意味。
ここでは、月のせいにする。