「海辺のカイン」樹村みのり(mimi 1980年6、8、11月号 1981年1、3月号)
「カッコーの娘たち」 (mimi 1978年4、6月号)
華やかな「りぼん」の世界から、急に地味な画風になりますが。
あっちとこっち、私には両方の世界が大切でした。
母親から思うような愛情をかけてもらえず、そのために自分自身の存在も、なかなか受け入れられない展子。
海辺の町をふらりと訪れた彼女は、年上の女性デザイナーとの出会いを通して、自分のアイデンティティを獲得していく。
これが「海辺のカイン」。
もうひとつ「カッコーの娘たち」のほうは、やはり母親からの愛に飢えた少女ビリーを軸に、三人姉妹が彼女たちなりに世の中を渡っていく物語。
どちらの作品も、たぶん母親は悪くない。母は母なりのやりかたで、ちゃんと娘を愛していた。
そしてどちらの物語も、母との葛藤だけを描いているわけではなく、親子を超えた人間まるごと、人生まるごとを描こうとしている。
甘くない余韻。
それでいて感じる、深い人間愛、人生観。
それを描き出す表現力、つまり画力と文章力。
文章力と書きましたが、萩尾望都さんや大島弓子さんをみてもわかるとおり、良いマンガの条件は台詞がすばらしいってことですね。
文が苦手だから絵、ではなくて、そのまま本にしてもおかしくないくらい、台詞だけでも読み応えがあります。
画力についてはデッサン力や顔の表情は当然ですが、たとえばこれ。
これはカインの冒頭ですが、俯瞰、人物、波、はだしの足元、脱いだスニーカーときて、わかりにくいですが左下は町並みの絵です。
これで彼女が海でくつを脱いじゃうような少女であること、海から町に移動したことがわかるわけ。
文字で説明してもいないのに、映画みたいなカメラワークでちゃんと伝えてるんですよね。
しかし・・・樹村みのりさんのウィキを確認してみてびっくり。
この2作を描いた年齢が、まだ30歳前後だなんて。
シリアスだけじゃなく、アットホームなコメディもお上手ですが、すでに円熟味を感じます。
私なんか50代になっても円熟の片りんもないっつーのに、プロはやっぱりちがうのね・・・。
おそるべし、花の24年組!
つづきます