あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

堕胎

2017-05-07 20:35:35 | 
わたしたちは生まれることなく、死ぬのだろうか。
この地球が、ひとつの胚盤胞であったことを、わたしは想いだした。
海は羊水であり、海と繋がる臍の緒を通してわたしたちは母の栄養を吸収している。
わたしたちの母は誰なのか、わたしたちという生命を宿す母はきっとわたしたちに似た形の巨大なる生命であるはずだ。
それは何故かと言うと、仔猿は針金だけで作られし母猿像よりも柔らかい毛で覆われたあたたかい体温のあるぬいぐるみの母猿像のほうを母親と認識するからである。
つまりわたしたちの母親は、わたしたちに似た存在でなくてはわたしたちに母親と認識することは不可能なのである。
わたしたち生命は確かに一つの胚から成長したが、わたしたちの形は様々だ。
どの形のわたしたちであっても、母はわたしたちに母親とわかるような姿であることを望むのはわたしたちではないだろうか。
わたしたちにとって、母であることをわかる母が、まさしく母だ。
わたしたちはまだ母の胎内におり、まだ生まれることを知らない。
まだ生まれてもいないのに、わたしたちは次々に死んでゆく。
母の胎内で、息絶えてゆく。
わたしたちの死の間際の悲しき声を、母が聴いていないことがあるだろうか。
何故わたしたちは生まれるまえに死に絶えてゆくのか。
生まれるまえに死ぬこと、それはわたしたちの母による堕胎ではないだろうか。
どうか生まれることなく死にゆくわたしたちと共に悲しんでください、愛する母よ。
わたしたちは皆、あなたの御顔を見ることも叶わず朽ち果ててゆくのです。
わたしはあなたの腕に抱かれる日を夢見ながらあなたに堕ろされる日が見える。
それはわたしという生命の、本当の絶望なる終末である。










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