あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第六十一章

2020-08-25 19:49:30 | 随筆(小説)
”生きた者”を食してこなかった者たちの堕ちる穴、Deatholeに、手を差しのべる神、エホバ。
MotelのParking Lotに、危険物を載せたKENWORTHの赤と白のタンクローリートレーラーが駐車し、エンジンを切る。
時間は3:00 AMをとっくに過ぎていて、彼女はバイトをしているGas standを閉めて、男の運転するトレーラーに乗ったのは少しまえだった。
彼女はいつにもまして無口な彼の右側で言った。
「このタンクローリー、イカすじゃないか。何処で捕まえてきたの?」
すると彼はちいさな溜め息を吐いて彼女に顔を向け、哀しげに言った。
「ケンワースの車庫に突っ伏して独りでじっと止まっていたんだ。Dangerousなモノを積んでね。」
彼女は眼を輝かせて言った。
「きっと爆発物を積んでるんだ。ダイナマイトと一緒に。」
彼は寂しそうに微笑んで首を横に振りながら言った。
「大丈夫だよ…。ちゃんと点検したから。」
「何処に行く気なの?」
彼はかすれた声で咳払いをしながら言った。
「8:00 AMには、出発してなくちゃならないけど…それまできみと一緒に此処で休めたらと想ったんだ。」
彼女は疲れ果てている彼を心配して顔を覗き込むようにして言った。
「いま以上に鬱になる話をしてやろうか?」
彼は力なく笑い、うんうんと頷いて彼女を透明な眼差しで観た。
彼女は黒光りする丸い眼で言った。
「ほんとに聴きたいの?」
彼は優しい顔で彼女に向かって微笑んだ。
「もう何を言われても、ぼくは驚かないよ…。それにきみがフィクションを話しているとはぼくは想っていないし…。」
「フィクションかフィクションでないかを、君は拘っているの?」
「…ううん…。」
彼は目を伏せたあと開けた左の窓枠に肘を載せ、並んだMotelの暗いドアを眺めた。
「部屋で話さないか?」
彼は彼女に向き直って言ったが、彼女はメーターパネル下にある車内温度計32.4℃の表示を観て言った。
「いや、此処で話したい。すこし暑いが…。」
彼は彼女に請うような眼をして言った。
「今夜は、どんな話なの…?」
「新型ウイルスの話さ。」
「新型ウイルス、キリガミネの話?」
「そうだよ。」
「この新型ウイルスは、人為的に開発され、”闇の者”たちによって故意にバラ撒かれているものなんだ。」
彼は深く息を吐いて言った。
「やっぱりそうなんだね…ぼくもそうじゃないかって想ってたんだ。世も末なんだって…。」
「でもそれは、人口削減”だけ”の為ではないんだよ。」
彼女は彼の眼をじっと見つめて言った。
「地球はこのまま行くと確実に壊滅的になって大量絶滅が真に起きるけれどもね、そんな地球で、生き残らなくちゃならない”者”たちの為にね、食糧を確保しておかなくてはならないだろう?」
「植物は…?生えていないの…?」
「いや、植物は絶滅しないよ。でも植物は食べないんだよ。生き残らなくちゃならない者たちは、植物を食べて生きられないんだよ。」
「だったら…何を…食べるのさ。」
彼女は、真剣な眼で見つめ返す彼に向かって、下唇を甘く噛んだあとに、微笑を浮かべながらちいさな声で言った。
「ロングピッグさ。」
「長い豚…?」
「そう。身体が長い豚たちだよ。」
「ロングピッグたちは、何処にいるの…?」
「この世界に、たくさんいるよ…。家畜として。」
「知らないよ。身体が長い豚なんて、見たことないな。」
「”人間”のことだよ。君。」
彼は涙を真豚に浮かべて彼女を見つめて言った。
「Really...Awesome...」
「新型ウイルスに感染して死んだ人が、何故、葬儀を行うことすら許されずに火葬されてしまうか知ってる?」
彼は首を力なく横に振った。
「実はまだ生きているからさ。」
「……。」
「生きているうちに、つまり心臓が止まらないうちに、解体し、血を抜かねば、肉が不味くて食べられたもんじゃない。それは動物の家畜のと殺(屠畜)方法とまったく同じだ。だから、だから、死んでないんだよ。まだ死んでないのに、連れてかれるんだ…。」
彼は青褪めた顔で言った。
「どこへ…?」
「地下都市へ…。そこに、人間を食糧として解体する大規模な食肉処理場があるんだ。そこで人類は…ロングピッグたちは気絶処理のあとに素早く解体され、骨だけにされて、骨だけを地上世界で火葬しているんだ。かなりの頻度で、解体している際にロングピッグたちの断末魔が聴こえる。この解体を行っている者たちは、実は人間じゃない。死者を呪術によって動くようにした自動人形だ。詳しくは、「チベット永遠の書」を読むと良い。人間であっても、非人間であっても、確実に、絶対的に殺すその瞬間までの気絶に成功させるなんて不可能なんだ。動物の家畜たちとまったく同じに、食肉にされる人間たちもまた、自分が解体されているときに、目を醒ましてしまうことがある。そのときに、彼らは、実におぞましく、悲しい声を上げるんだ。その声を、聴きつづける者は、最早、堪えられない…。死者を蘇らせた、”魂”の無い者たちだけが、それに堪えられる。かつて死者であり、今も、死者である、”まだ死んでいる”者たちだけが、それに堪えることができるが、そうして生きた人間を解体して骨から削ぎ落として冷凍保存し、Grocery Store(グロサリーストア)のMeat Counter(精肉売り場)に綺麗に並べられ、ぼくたちは、それを手にしてホッとするんだ。大丈夫だ…まだまだ、たくさんあるんだ…ぼくたちの食べ物はたくさんあるのだから…。生き残った人類が、動物を殺し、その死体を食べて、ロングピッグ(長い豚)として生まれ変わって(転生して)きてくれる限りは…。ぼくたちは、生きてゆける。」




















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