肩幅ほどの木道は、ミヤコワスレや水引草の花群の中にある。太い幹の欅が数本、古民家を被うように枝を広げていた。入口に続く煤けた軒下を通ると、カラカランと陶器の風鈴が来客を告げた。
アヤは十六歳。
青いタンクトップに白い半パンを着て、キャンバス地の鞄を背負ってきたことに少し反省をした。なぜか場違いな感じがしたからだ。長い髪を手で梳き、身を正した。
「ごめんください」
細めに引き戸を開ける。静寂が黒い柱と漆喰の壁と大矢石の床を支配していた。
「あのう……」
奥に人の気配を感じて声を掛けた。つま先を擦るようにゆっくりと進んで行くと、床より少し高い位置の黒い台に女が横になっていた。薄いドレスの中に足先が見て取れた。もう一人は仰向けになって膝を抱いている。瞑想の中にいるようだ。
「母の代わりに来たのですけど」
それに答えるように、壁際のバイオリンを構えていた少女が弾きだした。何の曲か思い出せないが聴いたことがある。その側にいた、白い古代の衣を着た一人の女が唄いだした。
「ひるがおのきのふに続くけふにあり」
「解くにとけない縁かなしや」
もう一人が続けた。それは聞き取れないほどの声だ。
木壁に勾玉の首飾りが何連も掛けてある。
出口近くにいた女性が、皮の紐を通した灰紫色の勾玉を差し出した。
「来て下さったお礼よ。勾玉を……お忙しいお母様に宜しくお伝えしてね」
芳名簿を開けた。常陸野、藤袴と記してある。次の行に住所を書き、母の名前の下に娘 アヤと書いた。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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