「埋め立て地だから、このくらい掘って土を入れ替えないと、とても、根付かないんだ」
造園業の足立が、油圧ショベルを操作しながら俺に説明した。
植え付ける予定の陽光桜は三本。道路に面して五メーター間隔に、一メーター四方で深さも同じくらいの穴を掘る。ソメイヨシノと違って陽光桜の枝は横に張らない。だから離すのはこれくらいでいいと言う。
「お前行ってきておくれよ」
そう言われて親の代理で地域主催の植樹祭に出てきた。児童公園の入口に立って、他の住人の来るのを待っていた。出足が鈍い。頼まれた日を間違えたのかと不安になってきた。
「もう集合時間を過ぎていますよね。自治会長さんもみなさんも来ませんね」
足立はチラリと俺の顔を見たが、それには答えずに三カ所目の穴を掘り出した。
「このまま掘り進んだら何処へでるんだろう。ブラジル辺りかな」
足立は真顔だ。
「なぁに言っているんですか、足立さん。アハハハぁ……。ブラジルまで届くほど掘ってくれたら、俺滑って降りて行こうかな」
「あっちでは穴から飛び出すことになるさ」
俺は、コーヒー畑の穴から飛び出す自分を想像した。
「ちょっと、穴の深さを見てくんない」
足立が穴の方を指さした。
俺は穴の淵に立って覗いた。途端にショベルのエンジンが全開して轟音を発した。頭の後ろから冷風が背中を伝わって足に抜けた。
一メートルの深さが何倍にもなって見えた。自分の体が吸い込まれて落ちていきそう。
「うわぁーっ」
俺は穴の淵から飛び退いた。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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