「あのう、ステタイルームってご存知」
女性の声が私の耳の側でした。振り向くと、駅舎の明かりに照らされ、若い女性が微笑んでいる。ジャケットの襟を立て、パンツがピタリと股に添った長い足。
「詳しくはないですけど、堤防から下った道らしいですよ。宜しかったら、ご一緒にどうぞ」
女性の問いに答えてから、二十五歳くらいに見えるけど、三十になる姪ぐらいかもと、観察をする。旅行用バッグは重そうだ。
女性は決して横へは並ばず、数歩後ろを歩いて無言だ。
私はインターネットで調べた道順を頭の中に描きながら歩く。堤防の右側は国道に続き、左側の坂を下ると地図にはあった。細い道を遠くの街灯を頼りに進む。
『ステタイルーム』の電光案内看板が見えた。
「あ、あそこですね。ありがとう」
女性は私を追い越し、その先を歩いていた女高生らしい制服姿も追い越していく。
私は看板の明かりで口紅を引き直した。
『異色旅行』の案内には「棄てたいものをご持参下さい」とあり、『ステタイルーム』は女性専用の宿泊施設で、最近人気急上昇中だとあった。
入口のブザーを押す。応答はない。何度も押した。先ほどの女性と制服姿が入って行ったばかりだから、誰もいないはずはない。
扉を引いてみた。鍵は掛かっていない。外から明かりが見えたのに中は真っ暗だ。
「あのう、予約してあった者です」
「いらっしゃい」
しわがれた低い声が答えた。
一歩入った途端何かに足を掬われた。体が回転しながら急速に闇の中を落ちていく。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句・めいちゃところ」
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。お待ちしています。太郎ママ
↓こちらへどうぞ
https://haikumodoki.livedoor.blog/
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・>