星屑の砂浜に、二十歳前後の男女が打ち上げられた。陽はすでに高くなっている。
女は眉を寄せて、薄く目を開けた。男は女の気配で気が付いた。
二人を取り巻いていた大勢の若い男女が、気が付いたのを見ると、「ようこそ、ようこそ」と、声を上げた。
「入国手続きを。あなたの忘れ物を書いてください」と、早速ノッポの若い男がペンと用紙を持ってきた。
「忘れ物ですか」
二人はおかしなものを書かせるなと、顔を見合わせた。
女は『もう一人の息子』と書き、男は『父と弟』と書いた。
取り巻いていた若者たちは、「これでこの国の住人さ」と囃し立てた。ブーゲンビリアの向こうから、一斉に音楽が鳴り出した。誰とはなしに踊りの輪が広がり、果てしなく続いて行った。
女は女の館に住み、男は男の館に寝起きをした。みんな何の欲も持たず、平和な日々が過ぎて行った。
西風の強い日が続いた。
星屑の砂浜に両義手と両義足が打ち上がった。少し離れた所に、赤い運転免許証が打ち上がり、それにはターシャ、ノヤマ、六十歳とあった。そして、それより北に百メートル行った所に、身体障害者手帳が砂にまみれていた。手帳には障害一級。ジミー、ノヤマ、十歳とあった。ノッポの男が、椰子の葉で作った袋に拾い集めると、「これはもう必要ない」と言って持ち帰った。
貝殻のような、同じ形の爪をした二人は、永遠の若さの代わりに、『もう一人の息子』と、『父と弟』を暫くの間、忘れることにした。
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