紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★68 そら似

2024-12-21 07:36:49 | 「と・ある日のこと」2024年度


 私が乗る帰りの電車は、混む。なるべく空いた車両に乗ろうと、この日は後ろから三両目に乗った。思惑通り直ぐに座れた。右隣の中年男性は、スマホの縦書きの小説らしい画面を見ている。向かい側には、左腕を三角巾で吊った詰襟の男子。その隣は松葉杖一本を抱えた老人。腕を負傷した孫と祖父かな? 

 男子は眠っているようだ。持っているスマホが今にも手から滑り落ちそうだ。眉毛の形が隣の老人に似ている。祖父と孫だろうか? 男子は腕だけの負傷なのか、それとも、祖父らしい人物の抱えている松葉杖も使うような怪我なのだろうか? 三角巾の汚れ具合は時間の経っているのを物語っている。 

唇の形も似ている。血のつながりが無いとすれば、同じ民族と言えそうだ。などと、想像しながら見るともなしに見ていると、「ガシャドン」と音を立てて、スマホが落ち、男子の足元より遠く、私の方向へ滑り落ちた。隣の老人は、どうしようかと男子の顔を見る。男子は気づかないで眠っている。

私は、カートが滑って移動しないように左手で抑えながら、スマホに手を伸ばして拾った。そして、男子の手に持たせようとしたが、完全に眠っているようで、反応が無い。老人がスマホを受け取り、男子の膝を叩いた。男子は、半分夢の中のようなぼんやりとした表情で受け取ると、外の景色を眺めた。どうやら流れる風景で今現在の電車の走っている位置確認をしたようだ。間もなく某駅に着くと、男子生徒は、老人へ顎を引くような挨拶をして下りていった。

 祖父と孫の連れとばかり思っていたが、赤の他人ようだ。それにしても、似たような顔だった。次の駅で老人が、松葉杖を抱えたまま下りて行った。

 車窓から、夕焼けを背景に富士山の黒いシルエットが見えた。



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