「見てくれって言ったって、俺には分からないよ。専門家に見て貰った方がいいよ」
「このミシンであんたの塾代を稼いだんだから。まだまだ使いたいわ」
日曜日の朝だ。お袋が頬を膨らませて言う。最近、和服を洋服にリフォームしているらしい。
俺が幼稚園児だった二十年前、既製服の見本縫いをしていたお袋が買ったミシン。
金属同士が引っ掻き合うような音は、ミシンの内部からする。ゆっくり動かせば鳴らなかったものが、直に激しい音をさせた。
連絡後すぐに修理屋が来た。
「今、この種のものは製造していないですよ。大事に使えば、三代は使えるものです。修理代は一万円位です」
と見積もり額を言うと、ミシンを台から外して持ち帰った。
一週間後。修理屋がミシンを台に取り付けた。
「音がねぇ。一応は見たんですよ。ひとつずつ分解していけば悪いところに行き着くのでしょうが」
お袋が布を用意して電源を入れた。スタートボタンを押す。間をおかず凄まじい金属音。
「長年この仕事をしてきて、大抵のことは直してきましたけど。今回は何処がどう悪いのかさっぱり分からないですね。申し訳ない」
修理屋は手数料も取らずに帰って行った。
「残念だけど、粗大ゴミってことね」
お袋が溜息混じりに言った。
「テレビ、冷蔵庫、パソコン、卓上ミシンなど、大型廃棄物をお引き取り致します」
通りから聞こえる。お袋が走って玄関を出た。
リサイクル屋の大きな声が聞こえてきた。
「あっ、おばさんは引き取れません。えっ、ミシンなの? 卓上ミシンでなきゃあ、駄目」
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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