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「ねぇ、ね、ねっねっ」
休日の午後。俺は一週間の仕事疲れを取ろうと昼寝をすることにした。
寝入り端に呼ばれた。女の声だ。目を開けようとしたが、面倒くさい。聞こえないふりをした。目を閉じたまま声の主を考える。
お袋ではない。買い物に出かけているから。
祖母にしては若い声だ。
親父は土曜出勤だし、あんな艶っぽい声を出したとしたら気持ちが悪い。
「ねぇ、もう眠ってしまったの? まぁだ、お話してないじゃない」
俺は耳をそばだてた。
隣家との境からか、通りに面した庭からか、北東に開いた天窓からか、床暖房の吹き出し口からか、それとも……
耳にだけ神経を集中させる。百メーター先の線路から電車の通過音。少し前に起きた脱線事故を思い出す。百七人の犠牲者。マンションに巻き付いた車両。泣き叫ぶ遺族の声。花、花。目を伏せた謝罪の顔。
兄の病死に繋がった。胸が六年前の痛みを呼び起こした。
――嗚呼、眠ろう。来週は遠出の仕事が重なる。体力の充電をしなくちゃ。
「興味ない? 私に?」
その声は諦めぎみに言う。
部屋の隅の机に意識が辿り着く。
毛布を剥ぎベッドから下りる。
パソコンを開けた。
メール画面に未開件名が濃く並んでいる。
デートサイトからの誘いが続く。迷惑メールだ。試しに一件、クリックする。
「舞衣子で~す。遅いじゃな~い。あなたの返信をまっているわ」
「うわっ、こ、これだったのかぁ」
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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