170810 研修医のあり方 <研修医自殺 労災認定 「月残業209時間」>を読んで
昨夜NHKスペシャル「帰還した町で」を一部見ました。福島第一原発事故から7年目。避難指示がようやく解除され、自宅に帰ることが行政上はできることになりました。帰還できる、いや、帰還することが求められるような雰囲気ができあがりつつありますね。でもほんとうに帰れるのか、それに支障となるのは放射線汚染の危険性だけではありません。
野生生物が街の中に居着いているのです。イノシシの親子が闊歩しているのです。人を見ても逃げようとしないのです。私自身、竹林のタケノコが全部採られる被害を受けてきましたが、それは真夜中の出来事です。一度もイノシシを見たことがありません。朝方見るのは、イノシシが掘り返した後の畑であったりするのです。それがまるまるとしたイノシシがのしのしと明るいうちから堂々と歩いているのです。
全員避難して誰もいなくなった家々は彼らにとって格好のえさ場であり、ねぐらでもあったのでしょう。そして何世代もすでにその「都市生活」を暮らして、新世代のイノシシには人を怖がらないDNAが根付きつつあるのでしょう。逆に人間の方が怖がってしまいます。
イノシシだけではありません。ハクビシンやアライグマも、調査すればもっとたくさんの種類が各地ではびこっているのでしょう。先日はヒアリなどの特定外来生物を取り上げましたが、内発的外来種?とでもいいましょうか、人が住んでガードしてきたゾーニングがもろくも消えてしまうと、そこには闖入者の生息域となるのは当然かもしれません。
彼ら闖入者との棲み分けが今後本格的に実施されないと、ますます帰還することが困難となり、人の住めない新たな生息空間になるかもしれません。アライグマやハクビシンは外来種でしょうが、元々福島には生息が確認されないほどだったと思うのですが、人が生活しなくなると、イノシシだけでなく、外来種が侵入し急速に増大することは確かでしょう。
個人的な駆除ではなく、行政的対応が求められると思います。わが国固有の野生生物もきっとその生息空間を脅かされていると思います。そして、ますます福島への帰還が困難になる人々への思いやりも不可欠かと思うのです。
話変わって本日の話題に入ります。毎日朝刊<研修医自殺労災認定 代理人弁護士「月残業209時間」 東京の病院>は、研修医の過酷な「労働」現場の実態を明らかにしています。
<東京都内の総合病院産婦人科に勤務していた30代の研修医の男性が2015年に自殺したのは、長時間残業で精神疾患を発症したのが原因だったとして、東京労働局品川労働基準監督署が労災認定したことが分かった。>というのです。
2年前の自殺ですね。それが弁護士が労災申請してようやく認定されたということでしょう。
<労基署の決定などによると、直前1カ月の残業は約173時間で過労死ライン(直前1カ月100時間)を大幅に超えていた。>というのですから、異常としかいいようがないですね。
<弁護士によると、電子カルテへのアクセス記録などを集計したところ、直前2~6カ月の残業は月約143~209時間だった。>というのですから半年の間、異常事態が常態化していたことになります。
実際のところ、<産婦人科の医師は約10人いたが、長時間残業と休日勤務が常態化していて、男性は直前6カ月で5日間しか休んでいなかった。月に4回程度の当直勤務のほか、連続30時間以上拘束されることもあった。病院近くの寮に住み、妊婦の急変などで休日に呼び出されることも頻繁だったという。>というのですから、それを勤務記録では残っていなかったのでしょう。だから電子カルテへのアクセス記録で解析したのでしょう。
<両親は弁護士を通じ、「息子は激務に懸命の思いで向かい、業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとした」「医師も人間であり、労働者。労働環境が整備されなければ、不幸は繰り返される」とコメントした。>というのですが、まさに医師が人間であり、病院という世界の中では実質、労働者的側面を持っているわけです。人間性、労働者性を無視した管理が問われるべきでしょう。そのような肉体・精神を酷使して、ほんとうに患者のために、人間味ある対応ができるようになるでしょうか。
むろん産婦人科の仕事は、とりわけいつお産がはじまるかわからない、また異常が起こるかもしれません。その意味で、陣痛促進剤や無痛分娩など患者のことを配慮しつつも、医師側の論理で選択される医療手法も普及してきたのかもしれません。しかし、それは正当な選択といえるか、検討されるべきではないかと思うのです。それにしても、研修医がその長時間拘束の犠牲になる事態は回避されるべきでしょう。
研修医は酷使されるものとか、自由がないのが当たり前といった考えで、こき使う昔ながらの医療体制があるとすれば、それは厳しい批判にさらされるべきだと思うのです。
電通は、いま労基署だけでなく、社会から厳しい指弾を受けています。医師は、働き方改革の残業規制で例外扱いとなっていますが、そのことにより今回の異常事態が無視されてよいはずがありません。
<病院の管理課長は取材に「何も話せない」と答えた。>ということですが、それは医師という、患者を人として対応することが求められる重要な職業の一つであるにもかかわらず、人間性を無視した取り扱いを研修医に対して行っているわけですから、人間を育てる組織として失格ではないでしょうか。
昨年の記事では<研修医自殺病院に是正勧告を 夫、新潟労基署に申し入れ /新潟>の中で、問題の病院は<09年度、36協定で定めた上限を超える時間外労働があったとして、同労基署から是正勧告を受けている。>にもかかわらず、<今年1月に新潟市民病院(新潟市中央区)の研修医の女性(当時37歳)が「過重労働」のため自殺した>のです。
そして<30代の夫が13日、新潟労働基準監督署に対し、長時間労働がまん延しているとして、同病院に是正勧告するよう申し入れた。
申告書によると、市の情報公開制度で取得した2015年6月分の電子カルテの利用履歴から、同病院の研修医35人に月80時間を超す時間外労働があったと指摘。労使間で結んだ特別条項付きの「36協定」で定めた上限(80時間)を超えるとして、同労基署に労働基準法に基づき是正を勧告するよう求めている。>
私たち弁護士も、和解働き盛りの時、徹夜など過労の連続で、病気となったり、病死したりして、働き盛りに命を落とした仲間も少なくないですが、彼らはまだ自分の意欲や気力でやっていったという自負があったのではないかと思うのです。しかし、少なくとも研修医はその自由な意思でそういった過酷な労働を甘受していたかというと、それは自由な意思を一方的に擬製するものであって、病院管理者側の勝手で一方的な判断でしかないと思うのです。
ぜひとも将来のある、意欲的な研修医の過労死や病気による断念などを回避する方策をしっかり取り組んでもらいたいものです。そのような配慮をしていない病院管理者は厳しい責任を問われるべきではないでしょうか。