たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

企業の力と魅力 <シャープ JDI再建「国内連合で」 戴社長、支援に意欲>などを目にして

2017-08-11 | 企業運営のあり方

170811 企業の力と魅力 <シャープJDI再建「国内連合で」 戴社長、支援に意欲>などを目にして

 

今朝の毎日朝刊は一面トップで<東芝赤字9656億円、国内製造業最大 延期の決算発表>と東芝が期限切れ寸前の決算で約1兆円の赤字決算と報じた上、2面、3面では<東芝監査法人と玉虫色決着 決算「限定適正」><東芝「限定付き適正意見」監査限界浮き彫りに>との見出しで詳細に報道しています。

 

そして<内部統制については「不適正」とし、決算にも「一般に公正と認められる基準に準拠しない」との意見>といった「限定付き適正」といった摩訶不思議な結論でようやく上場維持となったものの、なお綱渡り状態です。

 

その東芝、日立、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して124月に設立されたジャパンディスプレイ(JDI)は、赤字続きで、昨日の毎日では<有機EL転換遅く サムスンに押され>で、東入来会長が<「ラストチャンスだと思って構造改革をやり切りたい」>と会見で決意を示し、<今回の構造改革では、主力だった液晶パネル事業に代わり、有機ELパネル事業を経営の軸に位置づけた点が大きな変化だ。東入来会長は「有機ELなくしてスマホビジネスの将来なし。戦略的にかじを切った」と方針転換を強調した。>というのです。

 

しかし、ウィキペディア情報では<スマホなどの小型端末向けの有機ELディスプレイは、サムスンディスプレイのシェアが2016年時点で97.7[12]と、ほぼ独占している。韓国のLGのほか、中国最大手のパネルメーカーである京東方科技集団なども2014年に携帯端末向けパネルの量産を開始したが少量生産にとどまり、サムスンのようにパネルを外販するには至っていない。2016年現在では中国・韓国メーカーの高級スマホを中心に有機ELディスプレイの採用が進んでいる。>というのですから、この段階でどういう具体的な市場戦略があるかを示さないと筆頭株主が官民ファンドの産業革新機構ではきちんとコントロールできないおそれがありますね。

 

ここまでが前置きです。ここで見出しの記事が登場です。

 

<シャープの戴正呉社長は10日、経営難に陥っている液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)の再建について、「シャープが主導すれば自信はある。黒字化でき、技術流出もない」と述べ、支援に強い意欲を示した。液晶の主要技術を国内に保持するために日本企業で連合を組み、業界首位の韓国メーカーや台頭する中国勢に対抗したい考えだ。>

 

シャープ、そして背後の鴻海という企業は、次々と企業・事業結合ないし提携という打ち出の小槌を降り続けています。東芝の半導体事業の買収参画もまだ続いていますね。シャープの買収はまだ一年しか経っていないですね。こんどはJDIの事業に参画しようというのでしょうか。市場支配力への飽くなき戦略でしょうか。むろんどんな企業体でも大なり小なりこれがないところはないでしょうが、鴻海は別格のようにも思えます。

 

いや、昔の日本企業もそうだったと回想にふける暇はないでしょうね。東芝も事業拡大を求め続け、現在は迷走しているわけで、綱川社長の留任について有力なステークホルダーの意見も厳しいのは当然でしょう。

 

ではシャープの戴正呉社長は、この一年間でどのようなシャープ改革を行ってきたのでしょうか。ちょうど毎日が3日間の連載でその一端を取り上げています。

 

シャープ変転/上 鴻海流「信賞必罰」浸透 太陽電池、総出で営業

シャープ変転/中 液晶、世界へ再挑戦 8K前面に独自路線

シャープ変転/下 人材確保、再建の鍵 買収1年、問われる真価

 

買収したシャープについて、<経営状況を調べた鴻海の郭台銘会長(66)は「清の皇帝のようだ」とあきれた。成功体験をひきずり、経営が傾いても高コスト体質から抜け出せない姿を、3世紀続いた末に衰退した中国最後の王朝に重ね合わせたのだ。>と手厳しいです。

 

その象徴がシャープの太陽電池事業ということで、撤退も検討されたそうですが、<「ぜひ商品の良さを知ってもらおう」。奈良県天理市の研修施設に昨年12月、設計や品質管理といった太陽電池に関わる社員数十人が集まった。3カ月は通常の業務を離れて、太陽電池のセールスで販売会社社員と一般の住宅を回った。関西地区の営業を統括するシャープ子会社の三島広史さん(43)は「それだけ追い込まれていた」と振り返る。信賞必罰を旨とする鴻海の傘下となり、危機意識が早くも浸透していた。 >とセールスのあり方の変更を社員全員が真剣に取り組んでいます。

 また、<割高だった原材料購入契約の見直しもあり、太陽電池事業は17年3月期に3年ぶりの営業黒字を確保した。>のですから、やはり変化は明確に現れたのですね。

 

でも<国が普及を目指す省エネ住宅「ゼロ・エネルギー・ハウス」向け機器の販売に力を入れ始めたが、“太陽電池バブル”崩壊後の需要減から国内外で抜け出せておらず、依然として厳しい事業環境は続く。>これだけで<鴻海流「信賞必罰」浸透>という風に理解できるかはまだなんともいえませんが、事業の赤字状態を黒字化したという客観的事実は、短期的には事業化に関わる担当社員の意識改革の結果ともいえるでしょう。ただ、それ自体はたいていの企業が心がけているわけで、それがシャープの場合清国の末期のように張り子の虎状態だったかどうか、もう少しみないと的確には評価できないように思うのです。

 

2に取り上げたのは8K路線の選択です。<有機ELでLGに後れを取ったシャープは、優位性がある8Kを戦略の中心に据えたのだ。>もう有機ELではサムソンに勝てないとあきらめているように見えるのですが、それがよくわからないのです。たしかに液晶の成功体験にこだわってその事業拡大に邁進した結果シャープは鴻海に身売りしたのですから、将来性のある事業選択をどうするかは最も重要です。

 

<「有機ELは韓国勢が先行している。郭会長から『追随はしたくない』という話があった」と明かす。>というのですが、それは合理的な判断といえるのでしょうか。

 

私にとっては4Kだろうが8Kだろうがあまり大きな違いがわかりませんし、それぞれに魅力を感じるほどの尺度をもっていないので、その選択の合理性を判断するだけの材料がありません。ただ、記事は次のように疑問符的な問いかけをしています。

 

<普及に向けた鍵になるのは、放送局のスタンスだ。国内では18年12月に衛星放送で4Kと8Kの実用放送が始まり、それに合わせてシャープが8Kテレビを発売する予定だ。だが、NHKと各民放が参加する4Kに対して、8KはNHKだけ。4K放送は既に世界的な潮流となっているが、より大きな投資が必要になる8Kには多くの放送局が二の足を踏んでいるからだ。>

 

そして<それでも鴻海は世界的に需要が伸びると判断して、中国や米国で8K向け液晶工場の建設に突き進む。米ウィスコンシン州の工場建設は先月、ホワイトハウスでトランプ大統領と郭会長が並んで発表した。そこで作った液晶でシャープがテレビを生産する。シャープが経営危機に陥った主因は、液晶への過剰投資。「シャープを変える」と乗り込んだ鴻海が頼りにしたのも、やはり液晶だった。もう失敗は許されない。>

 

第3はさらに疑問符が大きくなっているようにも思えます。

 

<東京・新橋のビルの一室に、2016年11月に設立されたベンチャー企業「Team(チーム)S」の小さなオフィスがある。社名の「S」は、シャープの頭文字と同社の創業理念「誠意と創意」に由来する。メンバーは8人全員がシャープの元社員で、うち4人は液晶への過剰投資で経営危機に陥った頃に辞めた。

 「スマートフォンと“下敷き”をつなぐ通信の新しいアイデアを思いついた」。今月2日、オフィスに集まった5人が開発中の製品について意見を交わした。下敷きと呼ぶのは、B5サイズほどで湾曲する厚さ数ミリのシート。無線でつながったスマホの表示画面をそのまま映し出して、指で操作できるユニークな製品だ。さまざまな企業と連携して開発を進めており、19年春にも世に出る予定だという。>

 

山椒は小粒でもぴりりと辛い、とはよくいったもので、元シャープ社員のメンバーは少数精鋭の魅力を遺憾なく発揮しているように思えます。

 

上記のチームSのリーダーは<入社した1984年ごろ、社員の平均年齢は27歳前後で「『とにかく何でも挑戦してみろ』という自由な社風が好きだった」と振り返る。希望退職を経て、現在の平均年齢は43歳を超えている。>と問題を指摘しています。

 

この連載は最後に、<台湾の鴻海精密工業がシャープを買収して12日で1年。鴻海流の徹底したコスト削減と、時代を先取りするユニークな製品を生み出す「シャープらしさ」は両立していけるのだろうか。鴻海の郭台銘会長(66)は「数字(利益)さえ上げれば文句は言わない」(シャープ幹部)という。再び成長軌道に乗り、輝きを取り戻せるか。シャープが真価を問われるのはこれからだ。>と数字の拡大を目指す企業家精神とシャープが本来もっていた自由で闊達な雰囲気で作られた独創的な商品の魅力と折り合うか、将来の行方を注視しています。

 

そして鴻海の郭台銘会長が有機ELをシャープの事業戦略から外す一方で、見出し記事ではシャープの戴正呉社長がJDI再建支援を発表しています。<JDIは再建の柱に有機ELを据え、2019年の量産化を目指す構えだ。シャープとしては、JDIと「日の丸連合」が組めれば、有機ELが強化でき、世界的な競争力を確保できるメリットが期待できる。>

 

Kと有機ELの二兎を追う者は一兎をも得ずということになりはしないか、誰もが不安を感じるのではないでしょうか。いや、鴻海全体ではちゃんと制御できているというのでしょうか。

 

その巨大な力、それを支持する資本マネーの流れは、グローバル社会では当然かもしれませんが、その企業が本当に魅力的な存在であり得るのか、社員にとって、またその商品を選択しようか考える消費者にとって、思案する問題かもしれません。

 

今日はこのへんで終わりとします。