170826 医療の未来と適正さ <さい帯血転売業者逮捕へ 無届け治療加担疑い>などを読みながら
iPS細胞など再生医療への期待は高まっており、難病など治療が困難な患者家族にとっては夢の医療かもしれません。ただ、その内容が簡単に理解できない部分もあり、専門家と標榜する医師などに不用意に信用したり期待してしまい、かえって信頼性を失うことにもなりかねない危険を内包しているような事件が起こっています。
私自身門外漢などで、よくわかっていません。たた、ここ数日の毎日記事などを通じて、わからない部分を私の頭の中を少し整理する意味で手短に書いてみようかと思います。
最初に目についたのは<さい帯血無届け投与、本格捜査へ 800人分流出 厚労省、近く刑事告発>という記事です。その発端が破産手続きの中で起こったという点に着目したのです。
問題の「さい帯血」は<出産時に出るへその緒や胎盤に含まれる血液。造血幹細胞が豊富で、白血病など血液疾患の治療に有効とされる。2014年施行の「再生医療安全性確保法」は、他人のさい帯血を使って再生医療を行う場合、厚生労働省認定の審査会で安全性などの意見を聞いた上で、治療計画を同省に提出することを義務付けている。>とされています。
このさい帯血は<液体窒素で凍結して保管する>必要があるのですが、公的機関だけでは十分対応できなかったようで、民間バンクの代表者とされる<女性は筑波大教授(故人)らの協力を受け、1998年に親族と共に民間バンク「つくばブレーンズ」を設立。02年11月から一般市民から預かったさい帯血の保管事業を開始。1人分あたり10年間で30万~36万円の保管料を受け取った。>とのこと。
<液体窒素を使った凍結設備の購入や施設建設に多額の費用がかかり、投資ファンドなどから出資を受けるようになった。それでも経営は好転せず、債権者の申し立てを受けた水戸地裁土浦支部は09年10月、破産手続きの開始を決定。当時、病院から無償提供を受けた約500と、預かった約1000の計約1500人分を保管していた。>
破産管財人や裁判所としても、<液体窒素で凍結して保管するさい帯血は返還しても一般家庭では保管ができない>のですから、このさい帯血の保管とその処理をどうすべき難しい問題になったはずではないかと思います。
ところが、<10年初め、一部の債権者が設立した企業が保管先に選定された。病院の提供分は1人分3万円ほどで譲渡され、預かり分も1人分10万~20万円の追加保管料を徴収し計約1000人分が移されたという。>ということは、わずか数ヶ月で債権者設立の企業に譲渡されたというのですから、当然、申立債権者と設立に関わった債権者はそれを見込んでいたとみられても仕方がないように思います。そして裁判所や申立代理人、破産管財人も、その債権者指導で事が進められた可能性が推測できます。
さい帯血の保管や譲渡といったことについて、破産手続きを取り扱った法律実務家の間で知見があればいいのですが、当時はなかったのではないかと疑います。
<その後、この企業がブローカーなどに販売したとみられる。・・・つくばブレーンズから流出した約800人分が京都市のクリニックなどを介して販売され、東京や大阪など複数のクリニックで無届け投与が行われたとみている。>というのです。
<愛媛、茨城、京都、高知の4府県警の合同捜査本部が今年7月、松山市の民間医学研究所を運営する男(70)を医師法違反などの容疑で逮捕。・・・今年4月には再生医療安全性確保法違反容疑で関係先を家宅捜索。厚労省も同法に基づき今年6月、がん治療や美容を名目に、患者から百数十万~数百万円を受け取り、無届けでさい帯血を投与したとして、全国11のクリニックに対し治療を一時停止させる緊急命令を出していた。>と大変な事件になっているのです。
ところで、「再生医療安全性確保法」といっても知っている人は少ないのではないかと思います。近畿厚生局の<再生医療等の推進と安全性確保等に関する情報>に<再生医療等の安全性の確保等に関する法律について>でその概要が書かれていますが、ざっと見たくらいではなかなか理解するのが大変です。厚労省の<再生医療について>の中で法令が紹介されていますが、平成25年11月交付で1年後に施行されています。
同法は再生医療が不適切に行われている現状を踏まえて、規制対象を明らかにして、一定の場合届出義務を課し、無届出行った場合に処罰する制度を導入したわけです。
破産裁判所でさい帯血が問題になったとき、当該法律もまだ国会で議論されていませんし、されていたとしても直ちにその譲渡や保管自体が問題になるとは限らなかったわけですから、法律実務家としても法的には的確な対応が困難だったかもしれません。
さい帯血治療について、<転売業者逮捕へ 無届け治療加担疑い>の記事ではその販売ルートを図式化しています。そして<逮捕する方針を固めたのは、茨城県つくば市のさい帯血販売会社の代表や、同社からさい帯血を購入しクリニックなどに転売していた福岡市の医療関連会社(解散)の代表と京都市の医療法人の関係者ら数人。捜査本部は医療機関が無届けの再生医療を行うことに加担したとして、同法違反に問えると判断。治療行為をした医師についても今後、刑事責任を追及する方針。>とあり、無届け治療した医師だけでなく、転売業者も責任を追及する姿勢を示しています。
ところで<同法は、他人の幹細胞を使った再生医療をする場合、事前に国に届け出るよう義務づけているが、乳がんや悪性リンパ腫など特定の27疾病を治療する目的の場合は、届け出は原則不要としている。>
当然、問題の医師は届出義務のない特定の27疾病以外の治療目的でさい帯血治療を行った疑いでしょうから、それが事実なら同法違反というのは当然でしょう。ただ、販売業者ないし転売業者がなぜ同法違反になるのか、その説明がすっきりしません。
記事では<関係者によると、さい帯血販売会社の代表は東京のクリニックなどに対し、27疾病以外の美容目的の投与であっても27疾病の治療をしたことにするよう助言していたという。>この助言をもって、無届け義務違反の共犯と解釈するのでしょうか。行政規制で共犯概念をそこまで緩めることが可能か疑問を感じます。
とはいえ、販売業者が売りたいがために積極的にうそのカルテや診療報酬請求書の記載を勧めたのとしたら、共犯として責任追及されても当然と考えても、社会通念と逸脱しているともいえないでしょう。むしろそれを見逃したら検察・警察の怠慢と批判されるかもしれませんか。
まだ整理できていませんが、一時間以上かかったので、この辺で終わりにします。