180601 日本版「司法取引」 <『“司法取引”運用開始 冤罪の危険性と対策は』>を少し見た感想
昨夜久しぶりにプライムニュースを少しだけ長く見ました。キャスターが反町氏から松山氏に代わって、なにか議論が今ひとつパンチがないというか、原稿通りの流れのように思えて今ひとつ突っ込みが感じられないという印象です(偏見かもしれませんが)。登場する人物に大きな違いはないように思うのですが、反町氏がゲストに振るタイミングや、突っ込みの調子が私にはいい感じに見えたのでしょうね。
昨夜は以前から話題の司法取引がテーマで、ゲストは<山下貴司 法務大臣政務官、高井康行 弁護士、今村核 弁護士>と、前2者は検察官出身、今村氏は無罪判決獲得が14件?とかすごい弁護士です。
私も以前から弁護士会からの情報で、改正刑事訴訟法により司法取引の導入が6月1日から始まるということは知っていたのですが、なかなかその内容にまでは関心が及ばなかったのです。それで、参考にするためこの番組を一部見ました。というのは概要を聞いている限り、今回の改正による合意制度だけでは、なかなかスムーズに使われるかどうか怪しいなと思ったからです。
司法取引と言えば、すぐ思い出すのは、90年頃に見た映画“Wall Street”のクライマックスシーンですね。場所はセントラルパークだったでしょうか。そこに主人公2人が登場します。ウォール街を我が物のように自由に操り、インサイダー取引、情報窃取、株価操作などあらゆる不正な手段を使って超富裕層になったゴードン役のマイケル・ダグラスが見事なほど悪役を演じていました。もう一方は、その片腕のごとく活躍してのし上がり、父親が長年まじめに勤めていた航空会社をゴードンの餌食に提供してしまった若きトレーダー役(名前を失念)のチャーリー・シーンです。チャーリーはFBIかSECかの依頼で、隠しレコーダーで、ゴードンの悪行をしゃべらせて録音するのですね。それでゴードンは逮捕され、チャーリーは軽い刑?あるいは起訴猶予?だったように記憶しています。
当時、日本ではインサイダー取引規制が始まったばかりで、あまり関心がない状況でしたし、株式市場もバブル全盛期で、対岸の火事のように思えました。ただ、株式取引の闇を暴くには、こういった司法取引も効果的な手法かなとそのとき思ったぐらいでした。
さて、今井氏は、多くの刑事弁護専門家と同様に、そもそも検事側証人が十分にテストを繰り返して作られた証言をするおそれがある中で、それに輪をかける危険など、批判的な視点で問題を指摘していましたが、推進派の山下氏は当然ながら積極論を論じていました。他方で、高井氏は推進派ではあるものの、最近の検察不祥事などから検事の能力衰退を指摘して、この合意制度を安易に使う危険を指摘してより補強証拠を固める必要を指摘しつつ、弁護人の立場から過った認定にならないよう制度を活用することの利点を述べていたように思います。
それにしても適用対象が限定されていること、検事側と弁護人側の合意した量刑が裁判官の判断を拘束するものではない点など、必ずしも実効性の点でどの程度効果があがるのか懸念されることも指摘されていました。
当該制度は刑事訴訟法350条の2本文で次のように規定されています。
「第三百五十条の二 検察官は、特定犯罪に係る事件の被疑者又は被告人が特定犯罪に係る他人の刑事事件(以下単に「他人の刑事事件」という。)について一又は二以上の第一号に掲げる行為をすることにより得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、被疑者又は被告人との間で、被疑者又は被告人が当該他人の刑事事件について一又は二以上の同号に掲げる行為をし、かつ、検察官が被疑者又は被告人の当該事件について一又は二以上の第二号に掲げる行為をすることを内容とする合意をすることができる。」
他人の刑事事件について情報提供を求めるものです。
被疑者または被告人が求められる行為は次の行為です。
「一 次に掲げる行為
イ 第百九十八条第一項又は第二百二十三条第一項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること。
ロ 証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
ハ 検察官、検察事務官又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすること(イ及びロに掲げるものを除く。)。」
検察官が提供するものはというと
「二 次に掲げる行為
イ 公訴を提起しないこと。
ロ 公訴を取り消すこと。
ハ 特定の訴因及び罰条により公訴を提起し、又はこれを維持すること。
ニ 特定の訴因若しくは罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因若しくは罰条への変更を請求すること。
ホ 第二百九十三条第一項の規定による意見の陳述において、被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること。
ヘ 即決裁判手続の申立てをすること。
ト 略式命令の請求をすること。}
当然ながら、公判手続では、裁判官の事実認定や量刑判断は専権事項ですから、それを合意対象とはしていません。検察官が独占している公訴権や訴因の変更が主たる内容です。ただ、293条に基づく論告求刑の意見陳述において、特定の刑を科すべきことを合意できるとしていますので、裁判官の量刑判断に大きく影響することは間違いないでしょう。
ただ、私の狭い刑事弁護の経験から言えば、覚醒剤密売事件などのような事案では、決して背後の組織の名前はいいませんね。甘い汁を与えると違うかというと、彼らはまず組織を怖れていますね。また、出所後は声がかかることを期待しているようにも見えます。それ以外のことはすらすらしゃべりますが、大量に販売しているのですから、販売元をよくわかっているはずなのに、そこは口が堅いですね。ま、私は弁護人ですので、当人の更生のため、組織から脱するためにも話すことを説得するのですが、無駄骨ですね。
同様に、グループで行う詐欺犯も似ています。犯行内容はすらすらと話しますが、その組織のボスを含む構成員の名前はいいませんね。反省しましたとは言うのですが、やはり組織を壊滅するような情報提供はなかなかないですね。今回の合意制度でそれが変わるかどうか、私もまだ勉強していないので、なんともいえませんが、簡単ではないと思います。
今日は別の話題を考えようとしていたのですが、どうも整理できず、安直に昨夜ちらっと見た番組を思い出し、書いてみました。お粗末様でした。また明日。