六月 六日(火) 雨/曇り
予報通り雨が降っている。
昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。
「テントの準備は昼から雨が上がり次第取り掛かるので、今トラックに積み込み中です」
との連絡が入った。
午前中には上がりそうな小雨だ。明日の式典は足元は多少悪くても天気は大丈夫だろう。
昼の状況を見て、せめて来賓客の靴が軟弱な土に埋まり込まない様に、足代板を敷くかどう
かを判断しよう。
昼から社内検査があるので、昨夜途中でやめてた書類を再び何とか『恰好を付けよう』と
チェック項目のバックデータとなる写真とか試験表、成績表、計画書等をファイル別にして整理をした。
捺印迄したら真実性のある?様な書類となった。
しかし、建物を創るのにこんなに書類が必要なものだろうか?他のゼネコンさんも監理書類
を作り、安全を気にしながら、こんな事を各現場で毎日行っているのだろうか。
『監理書類』
といって建設現場にて書類を作らせて、支店でまとめて本社へ提出し、それで終わり。
正直に書くと本社に見せられない内容になる部分は支店でカットするだろうし、我々も
問題になりそうな事は隠す。
隠した部分に意義、難問が潜んでいるのに、表面ズラの良い部分ノミを提出して
『報告書です』
と言うこの悪い体質をまかり通しているのは何故なのだ!?何なのだ?
昔、日本帝国が敗戦敗退にもかかわらず「勝って勝って………」
と国民放送したのと、工程が遅れてかなり苦しい時でも
『大丈夫です』
と報告するのと、どの位違っていると言えるのだろうか。
設計部長の検査はA設計事務所に対しての《提出書類関係》全てに目を通して頂いた。
打ち合わせ簿の中でも後日問題になりそうな所は別紙報告書としてお互いの確認印を
取っておく様に言われた。
確かに設計事務所から『お願いされた工事』は追加工事又は変更工事としての、はっきりと
した指示、図面で頂けるモノは余り無い。
「明らかに追加指示したもの以外はサービスだ」
という含みを持った設計事務所との打ち合わせが、近年特に多く感じられる。
はっきりさせておく事は『商業取引の原則』だと私は認めるけれど、建築屋さんは商売人で
なく技術屋(職人のモトジメ)だから《ゼニ儲けに走る》なんて言うよりも、
『いい仕事をすること』
だと自負しているのは、立派な考えか、肩肘張った『見栄』か《ハッタリ》なのか・・・。
これも仕事の内だけれども、やっぱり現場は大きなプラモデル作製途中の子供の気持ちと
同じく『純粋』なものだ。徐々にでも出来上がって行くのが楽しくてしょうがないのだ。
「工事途中にミスがないか?」
のチェックはあり難い事だし、素直に受け入れた人が、
『いい仕事が出来たねと振り返られる物が創れる』
というのは建前だけれど、本音を言わせてもらうと―――今日はよそう。
四時頃支店から式典確認の電話が入った。
「テント出来ましたか?支店長も出席になりましたので………式の後、近隣挨拶を・・・」
(バッカ野郎、テメエの目で現場見て来いってンだ、式典迄は工事人の出る幕じゃあねエ)
と言いたいや、言いたいよ。
「支店長も出席」の一言にカーッと来た。(出席して当然だヨ)
自分の上司が来るので自分の都合だけ考えていて、不安になって現場へ電話を入れる。
大事な物事なのに何で自分の目で確認しないンだ。
支店からそんなに離れている訳でもないのに何故、何故動かないのだ。
(これが建築会社の上級事務担当者のいう事なのか)
と思うとあまりにも情け無くなってしまった。
起工式の後はKビルの安全パトロールが控えているという『気ぜわしい身』なのに・・・。
五時半、日没寸前にM店舗へ行った。
営業担当の岡田君が辺りを掃除してくれていた。これには感謝し、又、感心もした。
一応現場状況を確認しておくのと、式典の準備で忘れモノがないかをテントの中で今一度
チェックした。
「所長、急で悪かったね」
「いつもの事でネ、慣れているサ、もう……」
と軽い冗談だ。
喫茶店でコーヒーでも飲もうと誘った。
「ここの現場を取る(受注)迄にはねえ・・・」
と苦労話、ウラ話を聞かせてくれた。(営業も楽じゃないんだ……)
と言えばそれ迄だけれど、岡田君の顔には、
「俺が取ったんだから責任があり、これからも責任は続く」
という自負が伺えて頼もしく思えた。
「四ヶ月の突貫工事だけれど仲良くやろうよ」
と約束した。
あわただしく時間を追っかけた様な一日だったが、最後に岡田君との出会いで落ち着いた気分
で仕事を終える事が出来た。
明日からは本当の『掛け持ち仕事』開始となる訳だナ。頑張ってみよう・・・。
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