六月 五日(月) 曇り
兼務先の現場名は『M貸店舗 新築工事』請負金7,500万円。鉄骨平屋建てだ。
テナントはブティック入居がもう決定していて、Kビルからは2㎞以内の所であった。
起工式用草刈りの打ち合わせもその他の連絡先も、全てKビルからの発進FAXである。
「所長のことだから出来るよ、心配しなくても……」
なンてお上手を言うのも親方の営業なのだろうか。
今はとにかく時間が無いのだ。
(この2日間で終わらせるのだ)と私は色々と手を打った。
悪いことに明日は雨の予報だ。
今日中にやるしかないので、テント張る部分の草を手で刈る予定を急遽変更してミニ
ユンボをリースして、一気に敷地全体を鋤(すき)き取る事にした。
三時頃にはセイダカアワダチ草がここに生えていたなんて思えない位(草の根は多少残って
たが)になっていた。
乗用車が乗り込めるように道路からスロープも作ったけれど、鋤き取った分だけ地盤が軟ら
かいので、何度も通れる様な地盤ではないが3時半にはもうダンプで式典用の砂を入れた。
なんとかこれで明日雨が降ってもテント張りは可能な状況には仕上げられた。
テント張りと式典準備は専門のリース業者に発注してある。
5時半頃にKビルに戻ってみると、
「明日支店からKビルの『社内検査』に秋田設計部長が来られます」
とN子の書いた小さなメモが机の上で威張っていた。
(こんな時に―――こんなメモなんか風で飛んで行ってよ……私は知らなかった)
と言い訳をしたいものだった。
もう……もう涙も出ないという気分になってビールを飲んで落ち着く事にした。
何だか気分だけが焦っていて、浮わっついているのが自分でも分かる。
とにかく今日、一つはやる事をやって来たのだから・・・ね。
「コンクリート打ちは予定通りなのかね?何か困った事はなかったかネ?」
Kビルを見渡しながらF君に訊たが、きっとキツイ言い方をしたのではないかと反省する。
彼自身も責任をもって(持たされて?)の1階の型枠・鉄筋工事が完遂しようとしている。
後は上手に生コンを手配し、打設出来ると、2階から最上階迄は彼自身も《ペース配分》が
出来る様になると思う。
とにかく良く頑張ってくれている。
もうひと踏ん張りだよF君。
後の仕事としてはA設計事務所の『配筋検査立会い』が残っていた。
打設日は既に連絡済なので明日の午後には来られると思うが、確認の電話をしておいた。
「現場ではこういう風にチェックしました」
という自主検査チェックリストを提示するつもりだ。
それに明日は社内検査として支店設計部長のチェックを受ける。
その結果報告も書き加えておくと内容の濃いチェックリストになるだろう。
「自分でチェックしたらダメでした」
という報告書になる事はないだろうけれど、鉄筋工まかせでなくて
『我々で監理しているのだ』
という姿勢も必要だと思う。
梁筋は完了しているが、まだスラブ筋の組立が残っている。
私はスラブ型枠へ上がって見たけれども、後一日半の仕事だと思えるし、水曜日の午後からは
2階の準備にかかれる。
明日はM現場は式典テント張り、周辺掃除、Kビルは鉄筋工はスラブ筋とさし筋組、
大工は返し壁、階段の段板取り付け、通り直しだ―――とF君と確認した。
明日もKビルはF君にまかせっきりになって、彼が現場を取り仕切る時、迷わなくて済むよ
うに2~3ポイントを指示しておいた。
もう1本ビールを飲む。
今からでも明日の検査受入れ態勢としての書類を整理しておこう。
しかし(このクソ忙しい時に)とついついグチってしまう。
これも私の現場の為だと分かっていても、私自身の為だと分かっていても『素直』になれない
のはどうしてだろうか。
検査とか試験とかに対して『構えて』しまうからだろうか。
別にイイ所をみせなくて、当たり前の所を評価して頂きたいのだが、着工から今までの工事の
中で、忘れている監理項目がないか、手配ミスが起きそうな所は今から手を打っておく意味の
チェックでもある。
工事写真も中間出来形検査をしておいて、役所へもサッと提示出来る様にアルバムに整理して
おかねばならない。
明日迄には間に合わないけれど、今日現在の土間工事完了分迄はビシッと決めておこう。
ズルイけれど《今日の明日》では日々の監理不充分だと言われれば、
「スミマセン忙しくて」とでも答えるか、不本意ながら・・・。
十時を廻って、やってもキリがないので帰宅した。
六月 六日(火) 雨/曇り
予報通り雨が降っている。昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。
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