建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

再パトロールを要すと

2023-04-25 07:46:00 | 建設現場 安全

七月  三日(月) 雨   

『全国安全衛生週間』真っ只中でのM店舗の安全パトロール日だ。          

                     

あいにくの雨で職人はいない。
開店休業の所へ6名来られた。
ここの現場事務所はモービルハウスといってトラックで運んで置いただけのハウスだから6名
も来られたら、机の一つも外へ出さないと全員座れない。

雨さえ無ければ外で打ち合わせも出来るけれど、今日は何ともならずだ。
現場の第一印象としても良くないのは分かる。
小さい現場だし後60日で終わり(引き渡し)だ。

それを宝物でも見つけたかの如く《言いたい事を言う》パトロール隊だった。
片付けが悪い、書類の不備、看板類は少ないし記入漏れもあり―――ぬかるみの中を歩いた
その印象の悪さで、雨対策及び通路の整備も出来ていない現場だと受け取られてしまった。

安全靴の靴底にドロをくっ付けながら、のぞいて見ただけでの言いたい放題でもあった。
「再パトロールを要す」
と解釈付きの69点で評価はCだ。(Dはない、つまり最低点だ)

掛け持ちだからと言い訳はしない。
Kビルは良くてココが極端に悪いのは私も反省している。
だが、ここへ来る職人の安全意識はKビルの職人とは《気持ち》からして違う。
請負った金額も条件も悪いのだ。

現場が大でも小でも安全意識に変わりはない」
と井上部長の一言。

確かにそうだ。
しかし、子供のお使いで、20円30円のモノを買うのに一万円札を親は用意するだろうか?それ
なりのお札、お金を渡すのも常識ではないのかと私の『屁理屈』が出る。

 同一条件で仕事をしているのではないのに、安全監理だけは大も小も同じだとの理論が決し
て悪いとは言わないけれど、安全関係の予算でも格差があるのだから、全現場を同一視するに
は(疑問符)が付く……という事を私は言い返してしまった。

「再パトロールを要す」
と記入された書類の控えも、当然店内の各部署へ回覧し捺印されるのだ。
事情を知らず報告書だけを見る上層監理者(つまり上役)は、
「何だこの現場は?・・・何やってんだ?―――バカったれ!!」と思うだろう。

多分『呼出し』がかかるだろうが、それよりももっと《安全の直接教育》を誰かがしない事
には、危なっかしくて見ていられない。(安全担当者として、私だとおっしゃいますか?)

 現場としてはオーナーを集合させて安全協議会を行ったけれど、
『忙しい』『そんな事やっとれん、代わりの者を行かす』『都合が悪い』
等の理由で集まったのは4社だけだった。

4社以外の(さらに小さい業者)へはどうやって私が《安全教育をしろ》って言うのだ。
小さい現場でも、協力業者を育てるという大義名分で困るのは所長、現場だ。
 これで工期に遅れるな、安全にさせろ、書類を出せとはどういう神経をしているのだろうか?

 私は小さい協力業者の職人さんが、毎日現場にやって来る事を首を長くして待ち、足まで引
っ張られ、バランスの悪いスタイルのオッサンになってしまったようだ。

今日のパトロールは私が所長として経験した中では最低点。
この為あえて記録を残しておきます。

        七月  六日(木) 晴れ

朝現場を一廻りして現場事務所に戻ったら、
「支店の稲田建築部長へ至急電話して下さい」
と不安そうにN子が言った。

悪い予感だ。コーヒーを一杯飲んで心を落ち着けて電話を入れた。

「何だヨM店舗の安全パトロール報告書は!―――こんな内容を書類に書かれて、黙って認め
たのか?……現場は何してたんだ・・・!」
「・・・(やっぱりこの事だったか)・・・」
「こんなの支店長に出せないので、もう一回早急にパトロールを行かせる。その前にF工事部
長と対策を考えて、支店に説明に今日中に来い!」

(てやンでェ、現実がその通りなンでェ、どうなるモノでもないゼ、イマサラ・・・)
と言えば首が飛ぶだろうか。

「はい、工事部長と連絡取ります」ガチャン。
工事部長には先日パトロール内容をFAX送信してあったけれど、
《そこまでは言わないだろう》との返事だった。

「そうか、それなら、一応説明に行こう、2時にT工事事務所へ来てくれ、対策を考えよう」
と工事部長は以外と落ち着いておられた。

現在、M店舗は地中梁の配筋中である。
半日で様子が違って来るほど現場は小さい。
午前中に鉄筋工三人、午後から型枠工が来るという綱渡り的工程でも
(たったの一日でコレだけも出来たの?)
という程、目に見えて違って来る。

 しかし、安全の整備をするのにこんなに後手を踏むとは思わなかった。
協力業者(K店のNさん)に『まかせっきり』ではなかったのだけれど、ついつい現場の急
ぐ所に追いまくられて『取り敢えずの安全』になってしまっていた結果だ。

あと1ヵ月半で竣工だが、一週間は確実に工程表から遅れている。
私が常駐していないので、工事打ち合わせも確認連絡もスムーズに行かないのは覚悟してい
たが、実際の現場の流れを完全掌握してないのでは
『私の力不足』
と言われても仕方ない。

ともあれ、T工事事務所へ現場対策を打ち合わせる為に伺った。
労務部パトロール報告書の控えがFAXで建築工事部からも再び届いていた。

訂正事項、確認事項を記入する為の手配を再チェックした。
現状ではそんなに大危険が迫っている訳では無いのだが、M店舗での職人さん達は、
今まで通りにやっているのに、この現場で急にダメと言われても……それなら○○建設の
現場へ行って仕事をした方がまだマシだぜ・・・)
と顔に書いてあるのが目に浮かぶが、とにかく指摘事項には手を入れておいた。

そして支店へ行った。
もう支店長のデスク迄『報告書』は届いていた。

でも、関係者の中から『大変なのだから手伝ってあげよう』とか『協力業者の応援を差し向
けようか』と言う会話のカケラさえ出て来なかった。

結局F工事部長と私が、
《一切の責任を任されて安全に作業をすすめ、なお且つ工期も厳守する事》
を念を押され口頭で約束となった。       

                    

 帰途、F工事部長曰く。
「今からあれだと鉄骨が建った時にパトロールが来たら《心臓止まる》でヤツらは……きっと
『作業中止させろ』なんて事を言い出すよ、きっとネ―――」
と冗談とも本気とも取れる会話があった。

これから先が一気に危険な仕事になるので、安全作業にするにはチェック項目が有り過ぎる
事を、今日の事で尚更痛切に感じた。

 ズルズルと行っておれば必ず事故に繋(つな)がるだろう。
これを鉄骨工事の前に一発気合を締め直す意味だと考えれば、パトロールの《助言・指摘》が
無駄にはならないだろうし、無駄にしてはいけない問題として心しておこう。

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