…………………………(赤字の工事予算書)…………
「今度はこの現場に行ってくれ」
この一言によって、新しい現場を任されたものの、噂によれば無理をして受注にこぎつけたので、工事期間の問題よりも《赤字の現場》だろうなあと悪い予感がよく走ったものだ。
こんな事のカンは外れて欲しいものだが、入札時の状況を営業から聞かされたので、工事予算書を見るのも気の重いものであった。
入札結果が見積り金額より数%少ない程度なら許せるが、
ネット(原価)割れである。
赤字になるのが分かっていたなら受注を取り止めればいいものを、
何でか知らないが会社は請け負うし、世間は(赤字で請け負う筈はない)と思い込んでいる。
仕事そのものが激減している中で、天を仰いでいて仕事が口に届けば、
飲み込まざるを得ないのが、今の建設業界全体なのであろう。
「遊ばしておくよりもイイか……?」
が分からないでもないが、協力業者まで首を締めるのも覚悟の上で
受注する場合もある。
赤字覚悟で落札しても、工事部門としてはそのまま赤字で終わらせるわけには行かず、竣工精算時にはせめてネットまで戻さねば現場で苦労をした意味が無い。
その為には必ずどこかにしわ寄せが廻って来るし、所長としては何とかせねばならない。
「こんな予算では、出来ませんよ……」
と何度も言いたいのだが、言えば工事受注の部門・部署とイヤミの山が膨らむだけだ。
予算が無くて一番苦しいのは協力業者に発注する部門である。
店内の購買部は協力業者からの見積り金額がどれもこれも予算書内に納まらず、契約を結ぶ時期が迫っても未契約のままの時もある。
そんな状況でも現場としては自分の希望する親方と直に(下打合せ)をしてでも工事を進めて行かねば工事は全く止まってしまうのだ。
「銭・金じゃない!先ず仕事に手を付けて…そのうち店(購買部)と契約になるだろうから」
と協力業者と阿吽の呼吸が多くある所長ほど、当然、現場はスムーズに進む。
月末の〆による協力業者からの請求書が現場に届く頃になっても、
まだ請負契約が締結出来ていない話はよくある事だ。
親方の見積り金額がそのまま請負契約になるとは御互いに思っていないにしても、何とか契約をしたいし、購買部から言われた金額では到底無理だと言う場合も多々ある。
「金額が合わない上に、あの所長さんの現場ですか…。今回は降ろさせて頂きます」
と算盤勘定を素早くして赤字の予想が付く現場から身を護る社長も一人や二人ではない。
「まだ、下請と契約出来てないのですか?」
と購買部へ注文を出す所長さんに限って、
「(あんたが要望している下請にも逃げられて…)もう少し待ってよ……」
としか答えてもらえない現場を、よく耳にしたものだ。
工事協力業者会員として会費を納め名を連ねている以上、会員の中から下命するつもりでも金額の折り合いがつかず、一度辞退した業者をどうしても使わざるを得ない場合もある。
そうなると業者は見積り金額に近い値段まで首を縦に振る仕草をなかなか見せないもので、腹のサグリアイによる値段交渉に再度突入だ。
その間、時間と工期は進んでいるのに、
「契約をしてから、工事をさせること(商取引の原則だ)」
と支払い金の延期理由と一緒に、経理部門からイヤミの電話が来る話も伝え聞いている。
さて、私の現場に話を戻しましょう。
予算書が工務部門から届いたので―――、
《赤字工事の予算書2へ続く》
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