建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

建物からも息吹を・・・

2024-04-15 08:12:46 | 建設現場 安全

十一月  一日(水) 曇り  

 月初めは気分的にもスッキリと仕事を行いたいものだ。
今日は東面の足代解体を行う。
昨日の雨でタイル貼り面が少し泥ハネを受けているので、弋も土工も私も皆で雑巾を持って
出て、タイルに着いた汚れと雑巾跡を拭き取った後、足代解体の指令を出した。

場内放送でも、
「足代解体を行います。南、西面の出入口を使って下さい。東、北面は封鎖します」
とかなり連呼した。
朝礼の時も言ったのだけれど、やっぱり見物したがる職人もいる。

人の仕事を眺めるだけの余裕?もないのに、トイレに行ったり、車へ荷物や道具を取りに出
入りする度になんとなく見上げて、なんとなくウナづいているものだ。

 今日は通行人、特に第三者には関係ない所なので、ガードマンも場内の職人達を見ていれば
いいのだから、随分と気楽そうに立入禁止のロープ前を、行ったり来たりして旗を振っている。

時折カラカラカラといって小石かモルタルのガラかが落ちて来る音が聞こえる。
昨日掃除していた分、大きなゴミは落ちて来ないので、弋工も気分良く足代解体を進めている。

足代解体も二日目となると、私もつきっきりで見ている必要もなくなった。
今日で足代解体は丁度半分が片付いた恰好になった。

今月の中頃に本設のエレベーターが動く様になれば、足代解体を全て行える。
荷上げもその
6人乗りエレベーターでクロス、カーペット類を運ぶ事としよう。

仕上げ材料の決定が遅れているものは、早急に結論を出して手配確認だ。
折角決めた物がM店舗の様に《製造中止》では洒落にもならないので、明後日迄には手配を
確認しメーカーへ直接話をしてみよう。

とにかく今月の主要工事としてはタイル貼り、ピアット解体、ガラス、軽量天井下地組、天
井ボード貼り、左官工事それに足代の最終解体だ。
以上は全て確実に完了させるつもりだ。

11月末で出来高目標は95%だ。
10月度より1ヵ月当たりの仕事量はダウンだが、足代解体が完了しない事にはかかれない
仕事も全工事の一割はある。

室内工事は100%完了のつもりで頑張るけれど、床工事は十二月中旬の竣工検査直前を完了
としよう。
簡単に工程表と安全大会の資料を作ってみた。

昼休み時間に月例の安全大会を開催した。
朝礼の時に集まりが悪くなっている現在、職人一同が顔を揃(そろえ)るのも、こういう催物の時
位だろう。
昼食の休憩中には各自の車に入ったり、喫茶店へ行ったり、各階で日なたぼっこをしてウトウト
とするる人もいて、仕上げ工事の人々の休憩時間は《孤独を好むスタイル》が多く感じられるネ。

私も屋上へ行って一人『フルート』を吹いている事もあるこの頃だし―――躯体時期のあの
汗臭さの中での喧騒(けんそう)が、懐かしいものと感じられてきた。

安全大会の中で、
「今までの無事故無災害記録を継続しよう」
と皆で確認しシュプレヒコールを上げた。

足代上の仕事がなくなるので、重大災害の発生率は下がるのだし、ここまで来て横着作業
火災事故を起こす事は絶対にしてはならない様に、皆で確認を行った。

 十一月  四日(土) 晴れ  

「今日は天気がいいのでお爺ちゃんとお婆ちゃんを連れて、現場を見させてもらいに伺いたい
のですが、如何でしょうか?」
とオーナーから連絡が入った。

オーナーのご両親はかなりの御高齢だが、お元気だ。
現場の中をゆっくりと見て頂いた。
昔建てられた時のマンションと比べられては、
「良くなったものだ、良くなったものだ」
と感心される事しきり。そして外の景色を眺めては、
「いい所だ、いい所だ」
と自画自賛されていた。

「昔わしらが子供の時分、ここら辺はなーんにもなくて、イモ畑のなかを駆けずり廻っていたも
のよ。もう80年も前の話だがね。変わったなあ―――。ここに鉄筋コンクリートのKビルを建
てるなんて、考えられもしなかったもんだ・・・」
Kビルの最上階から窓越しに、景色を眺めてそう言われた。

テナント入居者さんが仕事に間が出来たり、お客さんと話が途切れたら、眺めの良いビルから
道路を走る車を見て
いても結構楽しめる。
(ここの交差点は事故も多いので、目撃者にもなれるよ。)

足代解体して建物が見えている部分では、じっくり眺められて、
「いい色だね、綺麗にタイルは貼ってあるし気に入った。これで入居者が決まればめでたし、
めでたしだネ」と言われた。

「1階と2階はどうしてまだ仕上げてないのかネ?」
これはオーナーがその説明をして下さった。そして、
「ええか、シロウトが口を出してはイカン、余分に銭を出してでもいいもの創ってもらえよ、
ええナ○○!」
と、お爺ちゃんがオーナーに言われているのを聞いて、
(全くだ、その通り!)
 私はそう叫びたい心境だった。

 お歳の分だけ苦労も多かっただろうし、言われる事もマトを射ていられて私の緊張もほぐれ
始めている。

何だか好きになれて話が合いそうな雰囲気になって来た。

「建物の『定礎』の文字をお父さんの直筆で
とお願いした。

「その通りに石に文字を彫り込みますから、この位の用紙に書いて下さい。後日頂きに参りま
すから」
と私も久々にスマイル気分だった。

 黒御影(くろみかげ)石に文字を彫り込むのだが、一応の既製品はあるものの、やはり建物に
関係のある方の直筆が記念になって良いものだ。

「もう人に見せられる字が書けないし、残しておくものは建物だけで結構ですから、看板はそ
ちらで作って下さい」
と申し出られた。大変残念だったけれど、
「それでは・・・」
と承った。
確か90歳は軽く越えているとお聞きしていたが『元気だなあ』と感じ、恐れ入ったものでした。


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