『アラビアのロレンス』 モーリス・ジャール楽団
”Lawrence of Arabia” Maurice Jarre 【YOUTUBEより】
1963年制作、デヴィッド・リーン監督による同名のイギリス映画の主題歌です。
映画は第一次大戦中に砂漠の英雄と呼ばれたトーマス・E・ロレンスの波乱万丈の生涯を描いた長編作品です。
デヴィッド・リーンとしては『戦場にかける橋』に次ぐ超大作なのですが、彼に長編を撮らせるといつも竜頭蛇尾な
作品に陥ってしまって全編を通じて一貫した訴えが感じられません。
前半ではロレンスが砂漠で脱落したアラブ人の部下ガシムを灼熱の砂漠に戻って命がけで救出、底辺の小さな命の
大切さを強く感じさせることで大きな感動を呼び起こしました。またその一連の映像美に感嘆したものです。やがて
ロレンスの率いるアラブ軍はトルコ軍の重要拠点アカバの攻略に成功して英雄に祭り上げられます。
この前半までの作品としては見事な出来栄えといっても過言ではありません。
しかし、後半になるとロレンスがあたかも狂人のように様変わりし、戦線を指揮しながらトルコ兵を皆殺にし、まるで
殺人鬼のごとく血糊のついたナイフに陶酔、前半であれだけ命が大切かを語った後だけにあまりの落差に観る側に
虚しさと強い不快感を与えてしまいました。
『アラビアのロレンス』はロレンスの真の人間像を描いた映画だという見方もありますが、それならば殺人狂に化した
ロレンスを英雄扱いにすることに大いなる疑問を抱かずにはいられません。
デヴィッド・リーンは『戦場にかける橋』においても、無理やりこじつけたようなラストシーンで作品を台無しにしており、
この『アラビアのロレンス』も前半で打ち止めていたら作品価値としてはかなり高いものであったと思っています。
主題歌の『アラビアのロレンス』はモーリス・ジャールの作曲によるもので、壮大なスケールにロマンの漂う序曲に
仕上げて映画音楽家として一世一代の大仕事を果たしました。
なお、サウンドトラックはモーリス・ジャール指揮によるロンドン・フィルハーモニー・オーケストラによるものでした。
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