台風×噴火の恐怖〜雲仙・普賢岳とピナツボ山の教訓に学べ!
今月11日に噴火が始まった新燃岳では、1週間後の17日を最後に噴火が観測されていないが、火山性の地震や微動の観測から、6年前と同規模の爆発がいつ起こってもおかしくない状況だ。折しも、強大な勢力を持つ台風21号が日本に接近中だが、条件によっては火山の被害がさらに大きくなるおそれがある。過去の事例を学ぶことから最悪のシナリオに備えたい。
今年8月末から9月にかけてカリブ海諸国を襲ったカテゴリー5のハリケーン「イルマ」。北大西洋に面したモントセラト島は、イルマ、マリアと続いて発生したハリケーンの大打撃を受けた。北米の気象学者や地質学者はこの間、同島のスーフリエール・ヒルズ火山の活動に、熱帯低気圧がどんな影響を及ぼすか憂慮していたという。
標高915メートルのスーフリエール・ヒルズ火山は、1995年に300年ぶりに噴火して以来、活発な活動を続ける火山だ。’97年の大噴火では火砕流が発生し、火山灰に覆われたプリマスは首都機能を喪失、首都移転の憂き目にあった。以後も2003年、’06年と大噴火を起こしており、’13年以降は不気味な静けさを保っているものの、しばしば噴煙が観測されている。
米マイアミ大学の大気学者デビッド・ノーラン氏や、バッファロー大学の地質学者トレイシー・グレッグ氏は、「ハリケーンの中心が、ピンポイントで噴火中の火口上空を通過した場合、超高温のマグマの熱や熱風(火災サージ)が熱帯低気圧の勢力を強める可能性はゼロとは言えない」と言う。
さらに興味をそそるのは、熱帯域にある海底火山の噴火によって海水温が温められ、熱帯低気圧の発達を促すというユニークな説もある。
これらの説はいずれも「偶然が重なった場合」の「仮説」にすぎない。むしろ現実的に警戒すべきは土石流の発生だ。噴火で噴出した岩石や火山灰が堆積しているところに、台風やハリケーンで大雨が降ると、数ミリ程度の雨でも土石流や泥流が発生しやすくなり、高速で斜面を流れ下り、下流に大きな被害を引き起こす。
1991年6月にフィリピンでピナツボ山が噴火した際は、台風の襲来と重なったために、軽石や火山灰が激しい泥雨となって降り注ぎ、家屋の屋根に堆積して多くの建物が倒壊、800人近い死者を出した。噴火活動自体は1週間ほどで終息したが、山麓部に堆積した火砕物と降雨が引き起こした泥流や洪水によって、空軍基地が使用不能になって撤退する結果となった。
また同じ1991年に噴火した雲仙・普賢岳では、梅雨時期と重なったことから、土石流が水無川で立て続けに発生したことも記憶に新しい。
すでに新燃岳の周辺の高原町を流れる複数の河川が、火山灰によって水の色がセメント色に濁るなどの影響が出ている。鹿児島大学の火山学者、井村隆介准教授は「今回の噴火で噴出した火山灰の量はまだ少ないが、その下には6年前の噴火時に噴出した土砂が残っていることを忘れてはいけない。火山灰を大量に含んだ川は、軽石を簡単に押し流し、不安定な状態だ」として、今週末の台風と大雨への警戒を呼びかけている。
今年最後の台風 何も怒らなければよいですね