八人のミューズがささやく八つの物語。とてつもなく甘美で、けっこう怖い…絶品短篇小説館。
江國香織、小川洋子、川上弘美、桐野夏生、小池真理子、高樹のぶ子、高村薫、林真理子、
という豪華女性作家さん八人のアンソロジーです。
特に面白かったのは小川洋子の「巨人の接待」ですね。
小川さんのお話を読むのは初めてですが、とても心地よいお話でした。
で「カワイイ、アナタ」高村薫、でございますが……。
「なんだ~、このタイトルは」でございましょ?
信じられないですよね、「カワイイ、アナタ」ですよ?
昨年あの難解な「太陽を曵く馬」を発表し、先日は朝日新聞で「小澤幹事長の不起訴」について写真入りでコメントを載せ、すっかり硬派なイメージの高村薫が「カワイイ、アナタ」ときたか~。
で、冒頭読めばわかりますが、このお話は「小生」から「貴兄」に送った手紙でございます。
カンの鋭い高村ファンならおわかりですね、
「小生」とはあの合田雄一郎であり、「貴兄」とはもちろん彼の想い人(えっ違う?)加納祐介でありましょう。
手紙の内容は、「小生」がまだ若かった頃に、先輩警察官から聞いた話し……なのです。
ここで、問題なのは、合田がなぜ『多忙すぎて人間をやめているだろう』義兄にそんな手紙を送る必要があったのか、ということなのではないでしょうか?
本人も認めてますが「あまり笑えない夜話」なのです。
ということでわたくし必死に考えました。
結論!!
つまりですね、わたくしの考えるところとしては、
これは先輩の話しなどではなく、合田自身の話、なのではないか?ということでございますのよ。
以下ネタバレ&妄想ですので、ご注意!
突然何の相談もなく大阪に行ってしまった義兄を想い、もんもんとした日々を送っていた合田の目の前を、少年が横切り(ついでに財布を落す)足早に人ごみを駆け抜けていくのであります。
その少年が義兄によく似ていたことに驚き、合田はその少年を追いかけたのでございます。
もちろん見失うのでございますが(刑事のくせに)、以来、その少年のことを思い出しては戸惑う合田。
そして仕事の帰り、フッラッと視線をやった靴屋のショーウィンドーに、
少年に似合いそうな靴を見つけ、買ってしまうのです。
押し入れの中に押し込んだその靴を、出しては入れ、出しては入れ、
二度と会うこともないだろうその少年を想い、と同時に遥か遠くに赴任した義兄を思い出し……。
そんな煮え切らない日々を過ごすうちに、とうとう堪え切れなくなり、
意を決して義兄に手紙を送った、というわけです。
つまりあの手紙の意味するところは、「おまえに似合いそうな靴を買ったのでいらないか?」
ということでございます。 (おいおい……)
返事次第では、靴を口実に義兄に会いに行ってもよし、義兄が仕事のついでに寄ってくれたら、もっとよし……。
きっと聡明な義兄のこと、合田の原稿用紙何十枚にもわたる夜話の真意に気付いてくれるでしょう。
ところで合田くん、最近ではメールという便利なものがあるのはご存知でしょうか?
君とわたくしはそう年も変わらないはずです。
使いこなしてはいかがなものでしょう?
こんな分厚い封筒を受け取った加納が、一瞬眉ひそめた姿が容易に想像できます。
ま、それはそれでかわいいのだけど。
ということでもっと結論!「カワイイ、アナタ」とは加納義兄のことです!!
以上「カワイイ、アナタ」を十倍楽しむ方法でした。
cochiさんの妄想力怖ろしすぎます!
まさかあの短編でそんな話を考えてしまうなんて!さすがです。
でもでも、私も色々考えてしまいました。
ちょっと怖いのだけど、「すべて合田の妄想説」&「手紙は投函されていない説」なんていかがでしょう?先輩も少女(少年でもOK)も全部合田の作り話で、合田は確かに加納に宛てて書いているのだけど、元々読んでもらう気もなくて、自分の狂気や執着を紙にしたため続けているという(笑)
二人が別れた切っ掛けは、結局合田は加納の望むようには身体を与えられなくて、焦れた加納は合田を諦めようと大阪に。離れたら離れたで加納に対する愛憎が止まらない合田君。一人になった頃から精神のバランスを崩し始めたのではないかしら~。なんせ「カワイイ、アナタ」だし。で、お馬さんに至ると。
人さまのコメント欄に長々と失礼しました~。
ふふふ、面白かったです!
yoriさんの「手紙未投函」説もいいですね。充分ありえます。
合田の死後(勝手に殺すな!)押し入れを開けると、義兄に宛てた手紙の束が雪崩のように崩れ落ちるんですね?
そしてそれを加納の手ずから棺に納める……う、美しい。
しかし、加納との愛憎がお馬さんに至らせるとは、さすがyoriさん、しっかり妄想してますなぁ~。
わたしたち、りっぱに同人誌出せるんじゃないでしょうかね?(笑)←読む人がいるかは別にして