「ロゴスの市」に続いて、乙川優三郎の現代物。
図書館の棚で見かけて、短編なので読みやすいかなと。
14のそれぞれの人生。
太陽は気を失う
震災で被害を受けた常磐線のふるさとの町。亡くなった同級生は障害を持っていた。私は、夫と離婚し、介護が必要な母と暮らし始めた。あの日の午後、太陽は気を失ったような気がする・・・・
海にたどりつけない川
死病を得て、かつて結ばれなかった恋人のその後を訪ねる。場末のバーを娘と営んでいたが、持っていった小切手は破り捨てた・・・
がらくたを整理して
旅行会社を夫と営んでいたが、夫は不誠実な男で・・・がらくたとして整理して新しい人と始めることにする。
坂道はおしまい
夫は亡くなり、苦労して夫の家業のハゼ釣りの浮子づくりを継いできた。2回の離婚歴がある同級生が寄ってきて・・・・
考えるのもつらいことだけど
翻訳で細々と生活している。友だちはアメリカ人と結婚してUSAに暮らしているが、乳癌と闘っている。そして、私にも乳癌が見つかった。帰国した友だちと温泉へ行くが・・・・
日曜に戻るから
定年し田舎暮らしを始めた。奥さんはそれを嫌って着いてこなかった。散歩では詩を書くご婦人と言葉を交わすが・・・・
悲しみがたくさん
売れない絵描き。妻と暮らす高齢者向け住宅で舞台女優と出会い、肖像を描くようになるが、彼女の人生を知り最期を見送ることになり、自分たち夫婦は海外へ向かうことを決める。
髪の中の宝石
新橋芸者の生き残り。パトロンの旦那は家だけを残してこの世を去り、友人も病に倒れ、それでも・・・・
誰にも分からない理由で
帰国して出た叔父の法事。作業場でもあった古い家も訪れる。家業は木釘づくりであった。叔父の息子は叔父に似ていない。美しい叔母は木釘づくりを跡継いでいるが・・・・
まだ夜は長い
退職して仕事に替わる生きがいを探す男。友人の画家の個展を訪ねる。自分には何もない。バーで酔い潰れるが妻が迎えに来てくれる。
ろくに味わいもしないで
地方を廻るジャズシンガー。音楽学校時代からの友人は離婚し、その資産で一緒に店をやることになる。
さいげつ
旅行会社に勤めて働いてきた。恋人にプロポーズされたが、実家の事情で一緒にメキシコへ行くことなどできなかった。彼のこどもを産み、また旅行業界で働く。新しい人にプロポーズされアメリカで暮らすことになり、ビザ申請に大使館を訪れるときかつての恋人に遭遇する。
単なる人生の素人
官僚として生きてきた男、天下りで巨額の資産を得た。上司の紹介で得た美しい妻とは意思の疎通はない。愛人も彼から離れていく。それに腹を立てているとき、妻も海外での慈善事業のために去っていく。
人生の意味を失い、どこで間違えたかもわからない。これからの日々が侘しく、恐ろしい。
夕暮れから
料亭に嫁ぎ女将として働いているが、時勢は料亭や芸者の需要はなくなっている。父の葬儀からもトンボ返りする。夕暮れから気合いを入れてお座敷にまた集中する。
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幸せな結婚生活も、充実した職業人生も、小説の題材にはなりにくいのだろう。
分かれた男と女。うまく行かない仕事。それでも人生は続いていく。残り少なくても。
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それぞれに心を揺すられる話だが、短編集の弱み。
ひとつひとつの話は記憶に残りにくい。
で、記憶のよすがに書き留めてみた。
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