ある業悪なる者
(これは、たいした事ではないが、こんな事を実行している人間が私の身近にいるのである)
昔々、ある黒井という業悪な男がいました。昔、といっても、これはキリスト教が世界に広まってからのことです。黒井は自分が救われる事にのみ考えをついやしている、ずるがしいこい男です。黒井はキリスト教の神こそ本当の神だと思っていました。したい放題の事をして救われる方法はないものか、黒井は歩きながら考えました。そんな黒井に聖書の、ある比喩が目にとまりました。それは、ぶどう園のたとえ、です。朝からせっせと働いていた人間も、夕方、もう仕事がおわる頃に雇われた人間も神は同額の銀貨を与え、飢えから、救いなされました。これを読んで黒井は、しめた、と思いました。これなら悪人でも死ぬ前に悔い改めれば救われる。しめしめと、黒井は思いました。その後、黒井は、すきかってに生きました。人を傷つける悪口、人を人とも思わない扱い、怠惰な生活を送りました。聖書には、兄弟に向かって、ばか者、という者は愚か者である、他、諸々の教えが書かれてあり、それは黒井も知っています。しかし黒井には腹黒い計算がありました。それは、ぶどう園の喩え、です。
長い年月がたち、好き勝手に生きてきた黒井も老人になりました。黒井が自分の計画を実行に移す時がきました。黒井は洗礼を受け、教会に通い、敬虔なクリスチャンになりました。
さて、黒井に死が訪れ、神の前で、裁きの時がきました。黒井は神に言いました。
「主よ。私はあなたの裁きに従います」
主は言われました。
「黒井よ。お前は生前、好き勝手に私の教えを無視して生きてきた。しかし、老いて心から悔い改めたな」
黒井は、「はい」と答えました。
主はしばし黙っていた後、その重い口を開きました。
「黒井よ。お前を神の国に入れる事は出来ぬ」
主は突き放した口調で言いました。
黒井は食いつくように言いました。
「主よ。何故です。私は悔い改めました」
主は怒鳴りつけるように言いました。
「愚か者。お前が、ぶどう園のたとえを利用した事はわかっている。お前は私をも欺けると思っているのか。ぶどう園の喩えで、日が暮れて雇われた者は、その日、一日中苦しみ悩んでいたのだ」
主は続けて言いました。
「黒井よ。お前は神の国に入ることは出来ぬ。ゲヘナで嘆くがよい。黒井よ。聖書の言葉を自分のために利用する事は最もいやしい事なのだ。お前は私をも欺くつもりなのか」
こう言った後、神は後ろを向き、霞の中に、その姿を消していきました。
(これは、たいした事ではないが、こんな事を実行している人間が私の身近にいるのである)
昔々、ある黒井という業悪な男がいました。昔、といっても、これはキリスト教が世界に広まってからのことです。黒井は自分が救われる事にのみ考えをついやしている、ずるがしいこい男です。黒井はキリスト教の神こそ本当の神だと思っていました。したい放題の事をして救われる方法はないものか、黒井は歩きながら考えました。そんな黒井に聖書の、ある比喩が目にとまりました。それは、ぶどう園のたとえ、です。朝からせっせと働いていた人間も、夕方、もう仕事がおわる頃に雇われた人間も神は同額の銀貨を与え、飢えから、救いなされました。これを読んで黒井は、しめた、と思いました。これなら悪人でも死ぬ前に悔い改めれば救われる。しめしめと、黒井は思いました。その後、黒井は、すきかってに生きました。人を傷つける悪口、人を人とも思わない扱い、怠惰な生活を送りました。聖書には、兄弟に向かって、ばか者、という者は愚か者である、他、諸々の教えが書かれてあり、それは黒井も知っています。しかし黒井には腹黒い計算がありました。それは、ぶどう園の喩え、です。
長い年月がたち、好き勝手に生きてきた黒井も老人になりました。黒井が自分の計画を実行に移す時がきました。黒井は洗礼を受け、教会に通い、敬虔なクリスチャンになりました。
さて、黒井に死が訪れ、神の前で、裁きの時がきました。黒井は神に言いました。
「主よ。私はあなたの裁きに従います」
主は言われました。
「黒井よ。お前は生前、好き勝手に私の教えを無視して生きてきた。しかし、老いて心から悔い改めたな」
黒井は、「はい」と答えました。
主はしばし黙っていた後、その重い口を開きました。
「黒井よ。お前を神の国に入れる事は出来ぬ」
主は突き放した口調で言いました。
黒井は食いつくように言いました。
「主よ。何故です。私は悔い改めました」
主は怒鳴りつけるように言いました。
「愚か者。お前が、ぶどう園のたとえを利用した事はわかっている。お前は私をも欺けると思っているのか。ぶどう園の喩えで、日が暮れて雇われた者は、その日、一日中苦しみ悩んでいたのだ」
主は続けて言いました。
「黒井よ。お前は神の国に入ることは出来ぬ。ゲヘナで嘆くがよい。黒井よ。聖書の言葉を自分のために利用する事は最もいやしい事なのだ。お前は私をも欺くつもりなのか」
こう言った後、神は後ろを向き、霞の中に、その姿を消していきました。