官能作家弟子入り奇譚(1)
由美子が彩子を誘って本格的作家になりたいといったのは由美子の方からであった。由美子は大学を出て、ある宗教団体の雑誌の編集部に入った。が、そこでは由美子は、もっぱら編集の仕事ばかりで、たまに書かせてもらえることといっても教団賛美のことばかりで、もっと自由に自分の思いを書きたいと思ったからである。彩子も由美子と同期で、この雑誌の編集部にいたが、やはり由美子と同じ思いだった。二人はそのことを編集長に話した。作家として世に出るにはいくつかの方法がある。一番いいのは何かの文学新人賞に応募して当選し名が知られることである。が、由美子は、それまで、小説らしい小説を書いたことはなかった。編集の仕事をしているうちに、だんだん自分も書いてみたいと思うようになったのである。情熱はあっても方法を知らない。そこで何とか、どうしたら作家になれるか、編集長に忌憚なく話してみた。すると、編集長は、「よし、わかった」と言った。「作家になるには並大抵のことではできない。何かの文学賞をとるのが一番の早道なのだが、おまえたちはまだその段階ではない。作家になるもう一つの道に名のある大家の弟子になる、という方法がある。売れてる作家は超多忙だから、傘下に入って、取材や、対談の記録などを書けば、確実におまえたちの文が大手の雑誌にのり、名前を売ることができる。それをきっかけに文筆の道へ入るという方法だ。どうだ。やってみるか」と、言うので、二人は、にべもなく、「はい」と答えた。「よし。俺の知人で大家がいるから、紹介してやろう」二人は、「あ、あの。何という名前の先生なのですか?」と聞くと、編集長は、ニヤリと口元をくずし、「団鬼五先生さ」と言う。「えっ。団、鬼五?」二人は顔を見合わせて、キョトンとした。知らなかったのである。「あ、あの。どのようなものをお書きになる先生なのですか?」由美子が、不安を感じて聞くと、編集長はニヤリと笑い、「ふむ。まあ、あれは、何と言ったらいいのかな。まあ、ミステリーロマン、とでも言うべきかな。最近は将棋関係のものも書いているようだが」二人は、ミステリーロマン、と聞いて、ほころんだ。大家と言っても、自分たちには、ハードボイルドや時代物は、ちょっとむかない。ロマンスがあってリアリズムのある現代小説なら、自分たちの傾向にもピッタリである。氏のアシスタントをするかたわら、ミステリーロマン小説の書き方の秘訣、なども教えてもらえれば、これに勝る喜びはない。二人は、「よろしくお願いします」と編集長に言った。編集長は、鬼五に電話で連絡をとり、二人は鬼五の家への地図を渡された。二人は肩を組んで、「わーい。やったねー」と無邪気に喜んでいる。加えて嬉しかったのはイヤな編集長の伸と別れられることである。自分の気に入った若い女にはやたら絡みつく様に言い寄って食事に誘う。断わると仕事で難クセをつけてくる。由美子も彩子もその標的になり、いいかげんに嫌気がさしていた。気の強い由美子は、一度、伸に対し決然とした態度をとったため、伸は由美子にだけは手が出せなくなった。その伸と別れられるのである。二人は子供のように肩を組んで無邪気に喜んでいる。そんな二人を伸は薄ら笑いを口元につくりながら冷ややかに眺めていた。 ☆ ☆ ☆翌日、二人は地図を頼りに、鬼五の家へ行った。ミステリーロマンを書くような人だから、いったいどんな人なのかしら、想像の翼を伸ばして、奔放なことを大きなスケールで、書く人は、本人は、おとなしい、静かな、やさしい人、という傾向があることを二人は、語り合って、キャッキャッ、と修学旅行の女子中学生のように、はしゃぎあった。(さあ。これから、はじまるんだわ。私たちの人生が。すばらしい青春が・・・)屋敷につくと、大柄な男が庭を掃除している。表札には確かに「団鬼五」と書いてあるから、間違いなく、自分たちのこれから師事する作家の家であるはずだ。しかし、屋敷は、新築の大邸宅であるが、周りは、樵の大木が鬱蒼と茂っていて、何か、妖気が漂っているといった感じである。由美子が、おずおずと、その巨漢男に問いかけた。「あ、あのー。ここは、ミステリー作家の団鬼五先生のお宅でしょうか?」と言い、自分たちは作家志望で、鬼五先生を紹介されて、やってきたいきさつを語った。この時、二人は、何か予期せぬ恐ろしさに顔を見合わせて不安を感じ出していた。男は女達をギロリと観察するように、しばし無言で眺めていたが、重い声で、「先生は奥だ」と言った。男に案内されて、大座敷の中を見た二人は、はじめて鬼五をみた。中背で太っ腹に浴衣を着て、黒ぶちの眼鏡をかけ、ムスッと黙っている。ロマン作家というよりは、現実を見据えた実業家、というようなカンロクがある。あるいはヤクザ社会の黒幕。さらには単なるシガラキ焼のタヌキ。巨匠の作家の家というからには、さぞかし著作や蔵書の山というバクゼンとしたイメージをもっていたのだが、戸棚には将棋の駒の模型に、床の間には、何やら値のありそうな日本刀が厳かに飾られている。「先生。作家志望の女性をお連れしました」と言われると、鬼五は、もどかしそうに敷居の前で並んで立っている二人をよそに、「おお。大池。ちょうど退屈していたところだ。一局いこう」と言って、将棋盤に駒をならべはじめた。大池は、弟子志望という重要な用件で来ているのに、声もかけてもらえないで、狼狽している二人に、チラと同情の一瞥を向けたが、親分の言うことにはさからえない。将棋盤を間に対座すると、自陣の駒をならべはじめた。駒がならびおえると、鬼五は意気のいい声で、「よっしゃ。一局十万でいこう」と言う。どうやらこれから賭け将棋をするらしい。十万というコトバが効いたのか、大池の全関心は目前の勝負に吸い寄せられ、哀れな二人の女のことは関心の外へ追い出された。ピシャリ、ピシャリ、と勝負の駒が進められていく。「ふふ。その手でくるか。ならば」と鬼五が一駒指すと、大池も、「なかなか、面白いことを考えますね」と口元をほころばせる。二人は、もう完全に勝負の世界に没入して、将棋のわからない者には、立ち入ることのできぬ、見えざる結界が、二人の周囲にはられている、といったフンイキである。鬼五が煙草を取り出して一服したので、大池も胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。敷居の外では、由美子と彩子が、寄り添うように、うつむいて、困惑した視線を床に落としている。由美子は、自慢の小粋な、かわいい、ハンドバッグを思わずキュッと握った。その中には、今日、読んでもらおうと持参した彼女の自信作の短編が一つ入っていた。由美子は、「これ、私が書いたんです」といって、恥ずかしそうにそれを差し出し、一心に読まれた後、「うん。すばらしい作品じゃないか」と、言われることを期待していた。いや、必ずしも弟子入りがまだ決まっていないので、相手を見てから、見せるか、どうか決めようと思っていた。別に必ずしも、読んでもらえなくてもいい。由美子にとって、この作品は、お守りのようなものであった。それがこんな予想もしないようなことになろうとは。勝負が中盤戦に入り、さて、これからどう展開するかと、一思案に鬼五が入った時、大池が、「先生。彼女達、困ってますよ」と、さりげなく合図した。鬼五は、やっと気がついた、かのように、はじめて彼女らの方へ顔を向けると、「ボサッと立っててもしようがないだろう。弟子入り、したいというのなら、わしは別にかまわんよ」と、そっけない口調で言って、再び将棋盤に目を戻した。二人は顔を見合わせた後、積極性の点で勝ってる由美子の方が、「あ、あのー。おじゃましてもよろしいでしょうか」と、おそるおそる聞いた。鬼五は、振り向きもせず、うるさいハエを払うような口調で、「そんなこと考えんともわかるやろ」と、つっけんどんに言った。二人は、おずおずと敷居をまたいで、部屋に入ったが、「あ、あの、座ってもよろしいでしょうか」と聞きたくも思ったが、何か言うと、しかられそうな気がして、こわくて、はやくも目に涙を浮かべて立っていると、「ボサッと立っとらんで座ったらどうや」と、いらついた口調で鬼五に言われ、二人は、おそるおそる膝を折って座りこんだ。並んで正座しながらも、二人は、わっと泣き伏したいような不安に何とか耐え、由美子は、お守りの入っているバックをすがるようにギュッと握った。由美子は艶のあるストレートで、彩子は、多少のナチュラルカールがあるがストレートの髪型で、二人とも上下そろいのスーツだった。由美子が、おそるおそる、「あ、あの。お茶をお入れいたしましょうか」と、言葉をかけると、鬼五は、うるさそうに、「いらんわ。よけいな気を使わんでよろし」と、ピシャリと跳ね返す。形勢不利のため虫のいどころが悪いのか、わからないが、ともかく、もう何を言うのも怖くなってしまって、俯いている二人の目からは、はやくも涙がポタリと、おちはじめていた。二人には将棋は全くわからなかった。ただバクゼンとした印象で、頭の回転がものすごく早く、鋭く切れる頭脳を持った男が、日常で使いきってる頭脳でも、まだ有り余った分を余裕で投入している将棋指し、というものが何か、とてつもなく、小説を書き上げることに四苦八苦している自分たちを、言わず威圧してくるような感覚をもたらすのであった。それはプロとして認められるようになれる作家になれるかどうか、と悩んでいる彼女達にとって、世間という壁のようにも見えた。だが、どうやら勝負が見えはじめてきたようで、大池が口元をゆがませて、「へっへへ。先生。どうやら、決まりですな」と言うと、鬼五は、それに答えて、「チッ。大池。おまえは、中盤までは、勝てそうな気を起こさせることもあるのに、詰めは絶対やぶれない。お前には麻薬性がある。お前とやるとストレスがたまる一方だ」と言って、財布から十万出し、大池に手渡した。そして「あーあ」といって、大あくびした。大池は、いかにもつまらなさそうに背もたれに寄りかかっている鬼五をみて、やっと勝負が終わって、鬼五の秘書的役割でもある自分を取り戻すと、あわてて二人の来客を紹介しようと、どなるような大きな声で鬼五に向かって言った。「先生。さっきからお客さんが待ちくたびれていますよ。作家志望で、先生に師事したいと、わざわざ遠方から来られた方ですよ。友、遠方より来るアリ。又楽しからず哉。と、孔子も言っているじゃありませんか」「わしは孔子は好かん。わしは西鶴が好きなんじゃ」「先生。西鶴は哲学者ではありませんよ」「おお。大池。お前も理屈っぽいことを言うようになったのう」そう言って鬼五は豪放に笑った。大池に促されて、ふいと視線を横へ向けると、そこには憔悴した表情の女が二人、さびしそうにうつむいて端然と並んで正座している。鬼五は、やっと気づいたかのように、そっけない口調で、「ああ。あんたらのことは電話で聞いている。わしは別にかまわんよ。たいしたことはしてやれないけど、それでいいならね」と言った。はじめて声をかけてもらったうれしさから、かなし涙が、うれし涙にかわるほどの思いだった。「あ、ありがとうございます。未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します」由美子は、両手を前にそろえて、深く床にこすりつけんばかりにお礼の頭を下げた。気の弱い彩子は、由美子の後ろに隠れるようにして、同様にお辞儀した。「君達。何で僕なんかの弟子になりたいと思ったの?」この忌憚ない質問の言葉は彼女達の心の緊張を解き、リラックスさせた。由美子は陽気にしゃべり始めた。「はい。先生はミステリーロマンの巨匠と聞きまして、きっと心温まるヒューマンファンタジー的なものをお書きになっているのだと思い、すばらしいなって思い、私達も雑誌の編集をしているうちに、何か小説を書いてみたいと思うようになったのですが、情熱ばかり嵩じても、いったい自分たちが、どういうものを書けるのかもわからず、ミステリーロマンときいて、一も二もなく押しかけてしまいました」と言って、口元に小さな微笑をつくった。由美子は、「ねえ」と相槌を求めるように振り返って彩子を見た。すると彩子も小さな声で、「はい」と微笑して答えた。ミステリーロマンというコトバから彼女らがイメージしたのは、火曜サスペンス劇場で見るような推理もの、だったのである。彼女らの言葉にうそはなかったが、もちろん政府が発表する、あらゆる白書のように、長所はくまなく述べても、失策は絶対かかない、人間の常の法則は当然あって、名のない作家志望者が文壇に認められるようになるのは至難の技であって、たとえ小説を完成させたとしても、それを大手の出版社に持ち込んでも、投稿原稿は、まとめて捨てられる、というのが出版界の現状なのである。ともかく作家の知名度がある、ということが絶対的な前提条件であって、名のある作家について、対談を書いたりして、自分の名を世間に売るというのが、裏口入学的な一つの方法なのである。いったん名が知られて、コンスタントに書けるポジションを手に入れられたら、むさくるしいオッサンなどは、どうでもいい、利用してポイ、という現代の若者が持つしたたかさを微笑の裏に隠していることは、年のいったオッサンには気づかれない演技ができるという十分な自信は持っていた。が、相手は海千山千の、波瀾にとんだ人生を送ってきて、人間の本心など一瞬で見抜いてしまう鋭い眼光の現実家であるということを彼女らは知らない。小説家というのは、自分のロマンの世界に浸っていて、実社会のかけひきには疎い、という傾向がある、と、たかをくくっていた。彼女らの心は、もうすでに、この老練な現実家によって見ぬかれている。後は体である。彼女らにしてみれば、面接官をだまして、内心舌を出している応募者の心であっても、客観的には釈迦の掌上の孫悟空、というか、すでにクモの巣にかかっている蝶なのである。「君たち、僕の本読んだことあるの?」と鬼五がとぼけた口調で聞くと、由美子は元気よく、「はい。何年か前に、先生の御著書を数冊、読んで、失礼なことですが、タイトルは忘れてしまったのですが、読んだ後、感動で胸が一杯になったことは、はっきりと今でも覚えています」ねえ、と言って、由美子は、隣の彩子に目をやると、彩子もうれしそうにうなづいた。鬼五は口元をニヤリとゆがめた。「あんたたち、作家になるには、よほどの決意が必要だよ。作家なんてものは、自分をすべてを人にさらすようなもんだからね。ある作家が、言ってたけど、街中を裸で歩けるくらいの神経がないと、恥ずかしいだの、何だの、言ってるようじゃ作家にはなれんよ」由美子はキッと真剣な表情になり、「はい。その覚悟は自分なりにしているつもりです。オーバーかもしれませんが、決死の覚悟はできているつもりです。作家になれるのであれば、いかなる難行苦行をもいとわないことを誓います」と決然とした口調で言った。「よし。そのコトバ気に入った。弟子にしてやろう。それと、小説家になるには、感動的なことが起こるのを指をくわえて待っているようではダメだ。どんなことでも進んで体験してやろうという積極さ、が、なくてはダメだ。それと、若い時の苦労は買ってでもしろ、というが、あれは作家には特に当てはまる。そういう覚悟はあるか」鬼五の黒縁の眼鏡の奥からのぞく鋭い視線から少しも目をそらすことなく、由美子は、「はい」と力強く答えた。由美子の頭には、中学の時、教科書で読んだ芥川龍之介の杜子春の弟子入り、のところが意識することなく、思い出されていた。鬼五は、しばし弟子入りが許されてニコニコしている彼女たちをじっと観察するように見ていたが、ついと立ちあがって、書棚から数冊、本を取り出して、「あんたたち、ウソ言っておだててくれんでもいいよ。オレはこういうもんを書いてきた」と言って、彼女たちの前にドサッと放り投げた。なにやら女の顔が妖しい暗いタッチで描かれている表紙である。それは二人にとって、全く未知の種類の本だった。うろたえている彼女達に、鬼五は、「みててやるから、よく見てみろ。お前たちには、わからんだろう。オレはこういうものしか書けんし、こういうものなら、誰にも負けん自信がある。おれは、こういうものに価値をみとめていて、美しいと思っている。お前たちがどう思うか知らんが、イヤなら別についてきてくれんでもいいよ」と言って、傍らに置いて一升瓶の酒をコップに注ぎ、将棋の本を手にして読み出した。二人は、おそるおそる、その未知の雑誌を開いてみた。「あっ」彼女達は思わず絶叫した。表紙をめくると、そこには、グラビアの写真として、一糸まとわぬ裸の女が、後ろ手に縛り上げられ、さまざまな奇態な格好に縛られている写真が、彼女達の目の中に飛び込んできたのである。ヌード写真ならわかるが、これはいったい何なのだろう。江戸時代の拷問のようでもあるが、やたら、愛とか美とかいうコトバがちらかっている。薄暗い部屋で、柱を背に、両脇から黒子のような男が、毛筆で女をくすぐっている写真、天井の梁から吊るされている写真、足を大きく広げさせられている写真、女をあらん限りの方法で屈辱の極地におとしめようとしている、のが、この写真の意図ではあるまいか。二人の顔は紅潮し、同時に得体の知れぬ恐ろしさが二人をおびやかしはじめていて、項をめくる手は震え始めた。さらに彼女らをいっそうおどろかせたことがあった。それは、こういう写真をとられに来る女の心の不可解さ、であり、中には、目を閉じ、はっきりと恍惚にうちふるえている表情の女もいることであった。「ゆ、由美子さん。こわい」内気な彩子が、耐えきれず、由美子の腕をにぎった。由美子とて同様であった。由美子は、この時、はじめて、「いい先生を紹介してやるよ」といった時の編集長の口元が妙にニヤついていた意味を理解した。「グフフ。どうだ。感想は。失望したか」鬼五は、コップ酒を一杯グイと飲み干すと、黒ぶちの眼鏡の奥から、蛇がすくんでうちふるえている獲物を観察するような目で、目前でワナワナ打ち震えている二人に判断を求めた。「と、とても神秘的で、人間の心の奥に潜む闇の部分を追求した、読者をひきつける魅力ある、すばらしい世界だと思います」と、由美子は自分の思っていることと正反対のことを自信に満ちた口調で、きっぱり言った。どんなことがあっても、作家になると決意した自分に言い聞かすように。「お前達は、こういうものを美しいと思うか」鬼五は、将棋の本をおいて、駒をピシャリと将棋盤に打った。「は、はい」由美子は一瞬迷ったが、きっぱり言った。だが、その声は少し震えていた。「よし」というと、鬼五は大池にめくばせし、大池は部屋を出て行った。しばしして数人の男女が大池に連れられて入ってきた。「あっ」と言って、二人は目をみはった。男たちはどう贔屓目にみても、ジェントルマンとはいいがたい、角刈りや、ポマードをふんだんにつけたオールバックで、ヤクザっぽいジャケットに身をつつんで、くわえタバコという姿で、女は、チューインガムをクチャクチャかんだり、「タバコは二十歳になってから」という標語など、せせら笑うかのような感じで、タバコをふかしてニヤニヤしている。髪を染め、ピアスにマニキュアの大原則はもちろんのことである。「な、何なのですか。この人たちは?」由美子は、ヤクザに取り囲まれたような不安から、声を震わせて聞いた。男女共に三人で、ねばつくような視線で、ニヤニヤしながら、楽しそうに、おびえる二人を鑑賞するように、眺めている。咄嗟に由美子は、膝を寄せ合わせ、腿に手をのせた。「何なのですか、だとよ」と男の一人が言うと皆がどっと笑った。彼らはドッカと腰をおろすと、男の一人が、ささやきかけるように鬼五に言った。「先生。たいした上玉じゃありませんか。こりゃ、面白い見物になりそうだ」「上玉。見物」不吉な言葉に、由美子は想像を超えた恐ろしいことが、自分たちの行く手にあるような気がしてきて、カタカタ体を振るわせはじめた。(そ、そんな。まさか。自分たちは作家の弟子入りにきたのだ)由美子は何度も自分にそう言い聞かせたが、不安は募る一方である。彼らは柿のピーナッツやスルメイカをおつまみにコップ酒をあおりだした。「あんたら、作家になるには、どんな試練にも耐えると言ったな」と鬼五に言われて、由美子は消え入りそうな小さな声で、「はい」と答えた。「じゃあ、二人とも、その場で着ている物を全部脱いで裸になってもらおうか」「えっ」由美子は一瞬、我が耳を疑って声をもらした。「な、なぜ、私達が裸にならなくてはならないんですか?」由美子は鬼五に向かって激しく問いかけた。「作家になるには、裸で街を歩くくらいの覚悟が必要で、それはできている、苦労は買ってでもする、って、あんたらさっき言ったじゃないか。あれはウソだったのかい」鬼五はとぼけた口調で、眼鏡をふきながら言う。「そ、それは、精神的な意味の覚悟という意味で言ったつもりです」「だから精神的な覚悟ができていれば、裸になることは何でもなかろう。裸になれないっていうのは、精神の覚悟ができていないってことじゃないか。そういうハンパな精神から決別するためだ。役者の養成学校では、羞恥心を捨て去るため、入学者には皆、裸踊りをさせるそうだぞ」由美子は気が動転していた。「いやです」とは言える立場ではなかったし、そう言ったら、もう来なくていいよ、と、門前払いを受けるだけだ。明らかにこれは意図のある取引である。今、いやだ、と言えば恥をかかないですむ。彼らもまさか襲いかかるようなことはしないだろう。「ゆ、由美子さん」彩子が不安そうに由美子にすがりつく。これは鬼五がつきつけてきた取引だ。今、自分たちが、彼らの酒肴の供覧にたいするならば、大手にのる文章を書かしてやり、作家への道へのチャンスは、作ってやろう、というかけひき。しばし迷った末、ついに由美子は覚悟を決めた。確かにこれは作家になるための煉獄であり、自分は、いかなる苦難からも逃げないくらい、自分の情熱は強いのだ、という自負心が膨らんでいき、由美子は決断した。「わ、わかりました」(2)
そう言って由美子は上着を脱ぎ、ブラウスのボタンに手をかけた。観客達は思わず生唾を飲み、刺すような視線が由美子のおぼつかない手の動きに集中する。それを感じとって由美子の手はカタカタ震え出した。ブラウスのホックを外し始めた時、「待った」と鬼五が大声で制した。垂唾の欲求がまさにかなえられる直前でいきなりさえぎられた欲求不満を訴える視線が、反射的にいっせいに鬼五に向けられた。が、鬼五のいわく有りげなしたたかにゆがんだ口元をみて皆は意を解した。女を辱めることにかけては天才的な鬼五のこと。もっと念の入った方法を思いついたのだろう。「伊藤君。あんたの、作家になろうという志が本物であるということがようく分った。わしはそれを知りたいためにテストしてみたのだ」何はともあれ、由美子はほっとして胸をなでおろした。だが一度脱ぎかけた服をあわてて着直す醜態を見られることもはばかられ、手のやり場に困っている。そんな由美子を後にして鬼五の合図で饗宴は散会となり、皆はゾロゾロと引き揚げていった。「由美子さん。怖かったでしょう。でももう大丈夫よ」温かみのある言葉とともに由美子は背後からジャケットをはおわされた。由美子は、はずしかけたブラウスのボタンをはめ直してから、振り向いて、声をかけてきた少女に軽く会釈した。「あのおじさん。いっつもあんなイジワルして困ったものね。でもあれは言葉の上のイタズラであって本気じゃないから安心して大丈夫よ。今まで本当に脱がされた人なんて一人もいないわ。でもあなたの本気の覚悟には感心したわ。あれほどの覚悟があるのなら、あなたは間違いなく立派な作家になれるわ。ガンばってね」少女の温かい言葉に由美子の心は一瞬のうちに希望で満たされた。心を許せる真の友達をみつけたよろこびから、由美子は少女に取りすがって泣きたい気持ちだった。「あ、ありがとう。無理してやせ我慢してたけど、本当はもう限界だったの。ご恩は一生忘れません。あの、お名前はなんおっしゃるの?」「銀子よ。恩だなんて大げさだわ」少女は快活な口調で笑った。そしてポンと由美子の肩をたたき、「さっ。今日はもう遅いから泊まっていきなさいよ。お部屋に案内するわ。行きましょう」銀子に促されて由美子はハンドバッグをとって、彩子と一緒に大座敷を出た。弟子入り志願初日に泊まることになるとは思ってもいなかったが彼女の心遣いを無にしたくない気持ちでいっぱいで瑣末なことは頭から抜け出していた。それに今度来た時にこの少女が居てくれるかはわからないし、彼女が居るうちに出来るだけ彼女と親しくなっておくのが得策だと思った。案内されたのは六畳の畳の客室だった。きれいに敷かれた布団の上には糊の利いた浴衣があり、旅館に泊まりに来たような感じを起こさせた。由美子のとなりで黙ってモジモジしている彩子をみて、由美子は今日はひとまず帰るよう促した。弱気な彩子には今日の刺激は強すぎた。自分がまずしっかり弟子入りして、彩子の性に合うものかどうかを知った上で誘えばいいと思った。銀子は由美子の手を取って屋敷の中を一通り案内した。洗面所には「由美子さん用」とマジックで書かれた歯ブラシがあった。ダイニングには夕食が一膳用意されていた。昼から何も食べていなかった食欲が急に出てきて腹の虫がグーとなった。思わず赤面した由美子に銀子はことさらクスッと笑って友達の戯れをかけた。「お腹へったでしょう。足りなかったら冷蔵庫にいろいろあるから何でも食べていいのよ」ためらっている由美子の心を慮って銀子は思いやりの語を次いだ。「私、お風呂に入ってくるわ。食器はそのままにしておいてくれればいいわ。何か分らないことや、困ったことがあったら何でも聞いてね」「銀子さん。本当に何から何までありがとうございます。本当になんてお礼を言っていいか・・・」銀子は笑顔を向けて、「由美子さんてすごく礼儀正しくて真面目なのね。友達の間柄でそんな丁寧な言い方してたら疲れちゃうわ。もっとくつろいでいいのよ。自分の家と思っていいのよ。でも初日だからしかたないのかもしれないわね。でもすぐに慣れるわ」銀子の姿が見えなくなるや、押さえきれない食欲から用意された夕食をムシャムシャ食べた。膳を流しで洗ってから歯を磨き、客間にもどった。糊の利いた浴衣に着替え布団に入った。銀子の優しい笑顔が何回も瞼の裏に現われてきて、寝つきのいい由美子をてこずらせた。外では庭に潜む蟋蟀が静かに秋を奏でていた。 ☆ ☆ ☆翌朝、すがすがしい気分で由美子は目を覚ました。銀子に誘われて、いっしょに食事をしながら、「あ、あのー。先生は?」と、申し訳なさそうに聞くと、何か将棋関係の親しい友人に東京に会いに出かけたらしい。「本当にあの人、将棋か相場のことになると他のことは頭から消えちゃうんだから。由美子さんもテキトーにやっていいのよ。いくらか知らないけど、お金も十分あるらしいし。今は趣味で好きなことをやってる身分なんだから」作家の弟子入りというものを徒弟的なもののようにイメージしていた由美子は肩にかかっていた緊張感がまた取り除かれた思いがして笑顔を銀子に向けた。二人は少し談笑していたが、銀子が思い出したように、「あっ。そうそう。昨日の大座敷に行ってみましょう。ちゃんと片付けてあると思うけど念のため」銀子に促されて由美子は笑顔で立ち上がった。新築の豪邸はすべて和式で、廊下は美しい光沢をもち、広い庭には筧まである。だが、銀子に招き入れられて座敷に入った由美子は思わず、「ああっ。」と悲鳴に近い声をあげた。確かに昨日のあわやの悪夢の酒宴は跡形もなくきれいに片付いている。しかしそのきれいな座敷の中央に、かなりの大きさのある、頑丈そうな得体の知れない不気味な木製の器具が、どっしりと根を張るように据え置かれていたからである。それは、四本の脚をもった人の背丈ほどもある大きな木馬の形をしていた。木馬、とすぐに連想されたのは、そうイメージされるよう、馬の首から顔までの部分を示す丸太が、それらしく見えるよう取り付けられていたからである。四本の脚は横木でしっかり固定されており、材質も檜と思われるほど凝ったつくりである。「ぎ、銀子さん。こ、これは一体な、何ですか?」すがるような口調で由美子は聞いた。が、昨日見せつけられた雑誌の写真から、きっと不吉なものに違いないということは十分想像がついた。銀子はクスクス笑って、「わからない?これ、拷問用の木馬よ」「な、何でそんなものがここに置いてあるのですか?」おびえる由美子の質問をそらすように、銀子は木馬を笑顔でいじりながら、「そうね。きっと昨日の宴会で、由美子さんが去った後、あの先生が人に持って来させて、小説を執筆してたに違いないわ。あの先生、小説を執筆する時には、こういう責め具を置いといて、いろいろ空想するんだって。そうすると気分がわくからって。責められる女をかく時は、自分がその責められる女になりきるために木馬に跨いでアヘアへ喘いだりするらしいの。全く変態ね」銀子は木馬のスベスベした背を笑いながら撫でていたが、ふと思いついたように、不安げにおどおどしている由美子に振り向いて快活な口調でいった。「由美子さんは真面目過ぎるわ。由美子さんの強い意志なら、きっと立派な作家になれると思うわ。でも一つ気になることがあるの。あの先生、公式的マジメ人間を嫌ってて、そういう人には冷たく当たるの。あの先生、SMが人類を救うなんておかしなこと言うほどSMに愛着を持っているの。SMって先天的なものでしょうけど由美子さんにはそれがないでしょ。SMが分らないとか、嫌っているとか思われたら由美子さんに不利だわ。逆に、そういう話題が出た時、笑って相槌を打つとあの先生すごく喜ぶの。単純なのよ。それで今思いついたんだけど、ちょっと二人でSMごっこしてみない。SMなんて子供じみたふざけっこよ。はじめ由美子さんが裸になって木馬に乗るの。そのあと、私が裸になって木馬に乗って由美子さんにいじめられるの。どう。やってみない?」この突然の突拍子もない提案に由美子はどう答えていいのか分らず、手をモジモジさせながらおそるおそる木馬の頭に手をのせている銀子を見た。笑っている銀子と目が合うと、とたんに恥ずかしくなってうつむいた。「裸になって」という言葉から裸になって木馬を跨いでいる奇矯な自分の姿がイメージされたのだ。だが無下にことわるわけにもいかない。昨夜からさんざん親切を受けている銀子の、自分のためを思ってくれての提案である。SMという未知の世界に対する恐怖は、ひれ伏してしまいそうなほど怖かったが、ことわって銀子の親切を無にすることは出来なかった。それに銀子のいうことももっともだと思った。昨日あれだけの覚悟をしておきながら、一日たったら跡形もなく消え去ってしまっている精神の弱さも恥ずかしいくらい情けなく思えてきた。幸い、自分たち以外には誰もいないし、相手は思いやりこの上ない銀子である。「由美子さん。作家になるには裸で街を歩くくらいの覚悟がなくてはならない。の精神を誰にも知られず、密室の中で実践できるまたとない好機じゃない?」銀子の言葉にはいつまでもためらっている由美子を叱るような強い語気がこもっていた。由美子の決意は揺るぎ無く固まった。「わ、分りました。やります」由美子は勇気を振るって力強く言った。銀子は由美子の決断を祝福しているような目で微笑した。「何も怖がることなんかないわ。裸になって木馬に乗るだけじゃない。私が先に裸になって乗りましょうか」銀子は木馬の頭から手を離し、ブラウスのホックをはずし始めた。とたんに由美子はあわててそれを制した。いくらあか抜けて、おおらかな性格の銀子とはいえ、恩人にそのような事をさせてしまう原因が自分の怯懦な性格であると思うと良心がとがめた。「ぎ、銀子さん。いいです。私が先に乗ります」そう言って由美子はブラウスのホックをはずし始めた。ブラウスを脱ぎ、あわててスカートも脱いだ。だが気が動転しているため、手が震えて動作がぎこちなくなり、ギクシャクしてブラジャーの後ろのホックを外すのにてこずっている。遊びを真剣に取り組もうとしている人間の滑稽な姿をみて、銀子はクスッと笑い、「由美子さん。マジメ過ぎておかしいわ。おちついて、もっとゆっくり脱いだら。そうだわ。一度休んで深呼吸してみたら」「は、はい」言われて由美子はブラジャーのホックをとの格闘を一次中止して、銀子に言われたように何度か大きく深呼吸してみた。すると確かに気が落ち着いて、ブラジャーを外せた。風呂に入るようなものだと自分に言い聞かせ、パンティーも勇気を出して「えい」と脱いだ。だが、目を上げて銀子と視線があったとき、由美子は思わず赤面して顔をそむけた。その視線は猥雑な好奇心に満ちているように思われたからだ。由美子はその視線から逃げるようにあわてて木馬に駆け寄った。そっと木馬を跨ぐと、由美子は思わず反射的に、「ああっ」と声を洩らした。木馬の高さは爪先がギリギリ床につくだけで女の一番敏感な部分に気色の悪い感覚で木馬の背がめり込んできたからだ。銀子はいきなり由美子の華奢な腕をグイと掴んで、後ろへ回し、カッチリと後ろ手に縛り上げた。「あっ。ぎ、銀子さん。な、何をするの」銀子は答えず、由美子の足元に屈み込み、木馬の背がめり込む気色の悪い感覚から逃れようと必死でつま先立ちしている由美子の右の足首をいきなり持ち上げて、はずれないようにしっかり足首を木馬の横木に縛りつけた。そして、あまった縄尻を木馬の下を反対側に投げて、くぐらせ、左に廻って左の足首も、同様に木馬の横木に縛りつけた。縛り終えると銀子は立ちあがって、手をパンパンとたたいた。由美子は今にも泣きそうなような、すがるような視線を、質問しても答えてくれない銀子に向けている。銀子はクスッと笑って、「こうすれば身動きとれないでしょ。木馬に乗るときは、こうやって手と足を縛るものなのよ」そう言って銀子は木馬の前に腰を降ろした。由美子は全身をブルブル震わせながら、黙って俯いている。「素晴らしいわ。由美子さんて理想的なプロポーションだわ。ウェストも見事に引き締まっていて。何かスポーツしているの?」「テニスをす、すこし・・・」由美子は赤面して答えた。「やっぱりねー。私なんてスポーツなんて全くしないで、甘い物ばっかり食べていたんでブヨブヨに贅肉がついちゃって。うらやましいわ」と言って銀子は自分の腰に目をやって、由美子と比較するように自分の脇腹の肉をつまんだ。「由美子さん、恥ずかしがってるでしょ」「い、いえ。」「ふふ。ウソついても分るわよ。体がカチカチじゃない。それにずっと親指を隠すように、握りしめているでしょ。極度に恥ずかしがり屋の人は例外なくそうするわ」由美子は真っ赤になって黙っている。「由美子さん。夏、海には行くの?」「い、いえ。行きません」「どうして。由美子さんほどの人が水着姿を披露しないなんてもったいないわ」銀子はさかんに由美子の肉体を賛辞する。木馬に乗れば最低限を隠せるという思いもあったが、まさか縛られて、じっくり鑑賞されることになろうとは。これなら木馬になど乗らないほうがずっとましだったと由美子はつくづく後悔した。スラリとした美しい脚を木馬の横木に固定され、体を保つため、量感ある臀部の割れ目を、割り裂くようにグロテスクにめり込んでくる木馬の背に身を委ねるしかすべはないのだ。由美子の心は恐怖と不安でいっぱいだった。銀子が縄を解いてくれなくては、この惨めな状態から自由になることは出来ない。昨夜から、親切にしてくれる銀子。その銀子が嘘をついたり、人を裏切ったりするような人間なんかじゃない。約束通り、これは遊びで、すぐに自分は自由になれるのだ、と思っても、銀子に対する不信感を消そうとするには、苦しい努力が必要だった。自分の銀子に対する不信感は、銀子のような、あけすけな性格の人間は、自分には理解できないからだ、とも思おうと努力した。「人を疑うことほど卑しいことはない」という信念が由美子の良心を苦しめた。そんな由美子に頓着することなく、銀子は笑って、「木馬の由美子さん、て、とっても素敵だわ。「美」ってこういうものをいうのね。女ながら惚れ惚れするわ」「お尻も見事だわ。ボリュームがあって、張りがあって。ウェストの引き締まりも素晴らしいわ」などと、自由の利かない裸の由美子の体をさかんに賛辞する。「ああっ」由美子は思わず悲鳴を上げた。無防備の尻にいきなり手が、張りつくようにあてがわれたからだ。銀子はクスッと笑い、「ゴメンなさい。いきなり触ったりして。由美子さんの引き締まった形のいいお尻をみているうちに、どうしても触れて、その弾力を確かめてみたくなってしまったの」触手はしばらく無動の状態を続けていたが、気づくといつの間にか尻から離れていた。由美子はほっとした。が、それも束の間だった。「あっ」突然の刺激に由美子は声を上げた。「ぎ、銀子さん。な、何をするの?」悲鳴に近い声だった。いきなりピタッと乳房の下半部に、ブラジャーのように吸いつくような触手があてがわれたからだ。銀子はクスッと笑って、「へへ。ゴメンなさい。由美子さん。由美子さんの形のいい、張りのある大きな乳房を見ているうちにどうしても触ってみたくなっちゃったの」そう言って銀子はゆっくり乳房を揉みしだきだした。時々、いきなりキュッと乳首をつままれた時は思わず「あっ。」と悲鳴を上げた。胸といわず、引き締まったウェストや腹、スラリと伸びた大腿に銀子の触手が伸びてくる。「ぎ、銀子さん」「なあに」「こ、こわいの」「何がー」由美子は憐れみを乞うような目で銀子を見た。「ぎ、銀子さん。と、解いて下さるわね」蚊の泣くような声で由美子は、すがるように言った。銀子は相変わらずの無邪気な笑顔で、由美子の肩に手をかけ、「由美子さんてみかけによらず、すごく心配性なのね。これは同意しあった上での遊びじゃない」銀子は、木馬に縛りつけられている由美子の背後に回った。「ゆーびきーり、げーんまーん、うーそつーいたら針千本のーます」銀子は背中で交差されている由美子の小指を自分の小指とからめて指きりゲンマンを子供のように歌った。が、それはひどく一方的な指きりゲンマンに見えた。(これは遊びなんだ。すぐに自由になれるんだ。単なる遊びなのに、それを本気だと感じて、恐れてしまう自分の硬すぎる性格がいけないんだ)由美子は鳥肌の立った体を震わせながら必死に拳を握り締めて、何度もそう自分に言い聞かせようとした。しかし、どう努力しても心の芯に根をはっている生理的な嫌悪感はガンとしてその無理な説得を拒否するだけだった ☆ ☆ ☆その時チャイムが鳴った。銀子は愛撫の手を止めた。「誰かしら。たいへん。たいへん。つまらない何かの勧誘だったらいいけれど、大事な用のお客さんだったらたいへんだわ。すぐに縄を解くわ。考えてみれば、昼間っからこんな変な事してるのバカみたいね。もう終わりにしましょう。万一、人に見られでもしたらたいへんだわ」と言って銀子は木馬の横木に括り付けられた由美子の足首の縛めを解こうと手をかけた。うーんと腕に力を入れているが、なかなか解けない。「困ったわ。しっかり縛っちゃったもんだからなかなか解けないわ。どうしたらいいかしら。由美子さん」縄との格闘に困惑している銀子を見て、由美子の心に余裕が生まれ、クスッと笑って適切なアドバイスをした。「解くのは後でも出来るじゃない。それより先に早く、ともかく訪問者を待たせちゃわるいわ。大切な用件かもしれないじゃない。留守かと思って帰っちゃうかもしれないじゃない。ともかく先にお客さんを見に行って、その後、解いてね。気持ちが動転していては解けるものも解けないわ」由美子の口調は少し誇らしげだった。緊急時に動転する者に対して冷静沈着な者が感じる優越感だった。「そ、そうね。由美子さんて冷静で頭がいいのね。私って何かバカみたい。こんなきれいで頭のいい人にヘンなことしちゃって。私、何かすごく恥ずかしいわ。これから由美子さんにあわす顔がないわ」じゃ、すぐ行って来るわ、と言って銀子は急いで玄関に向かった。銀子がいなくなって大座敷の中にポツンと一人残された由美子は姿のみじめさとは正反対に、勝ち誇った心地よさの中にいた。これからは銀子と対等に、いや、むしろ自分のほうが上のような雰囲気でつきあえる。SMなんて気持ちの悪いものとは二度と関わらないですむ。そう思うと、時の氏神の来訪者に感謝したいように思った。来訪者とのやりとりが終わったらしく、銀子が戻ってきた。何かソワソワしている。「どうしたの。銀子さん」「由美子さん。言いにくいんだけど・・・」銀子は指をギュッと握りながら立ちすくんだまま言いためらっている。「どうしたの。お客さん誰だったの」落ち着き払った口調で問いただした。「あ、あの。由美子さんの知人で、由美子さんに会いたいっていうの」「な、何ですって」思わず仰天して、悲鳴に近い大声をあげた。「ま、待ってもらって。その間にすぐ縄を解いて」由美子は大あわてに言った。「ええ。応接室で待ってもらっているの。でもすごく熱心で、すぐにでも上がってきそうな様子なの」「な、縄を解いて。すぐに縄を解いてちょうだい」由美子は縛められた体をバタつかせながら叫ぶように言った。銀子は言われて木馬の前に屈みこんで、足首の縛めを解こうとしはじめた。「はやく。はやく」気が動転している由美子が、叱るように命じる。その時、大座敷の襖が開いて大柄の男が無遠慮にズカズカ入ってきた。男はあの、いやな元編集長の伸だった。「やあ。由美子君。ひさしぶり。といっても二日ぶりだが。しかしすばらしい格好じゃないか。はっはは」と、居丈高に笑った。気が動転しているため、どうして伸が何のためにやって来たのか考えるゆとりはなかった。だが、ムシズが走るほど嫌いな相手に、裸で縛められている奇矯な姿を見られることには耐えがたく、ブルブル体を震わせながら背をそむけようと苦しく体をよじろうとしている。一、二分たった。伸は何も言ってこない。顔をそむけていると、一糸まとわぬ裸を伸がニヤニヤ笑いながら、なめまわすような視線で眺めている姿が浮かんできて、激しい羞恥の念が起こってきた。「み、みないで」言っても無駄であると分っていてもつい言葉が出てしまう。だが言って後悔した。かくして、かくせるものではないし、相手は苦しい抗いを見せれば、それを一層楽しむアクドイ性格の持ち主である。由美子は観念して背をよじるのをやめた。見ると仁王のように立ちはだかっている伸の隣に、銀子が、仲良く並ぶように手を後ろに組んで立っている。「しかし、銀子。よくここまで出来たな。よっぽど抵抗しただろう。それとも睡眠薬でも飲ませて、そのスキにやったのか」「ううん。由美子さんの方が自分から木馬に乗りたいって言ったの」「はっはは。そんなことあるまい。お前のワル賢さも相当なもんだ。まあ、ともかく約束しといた礼金二十万円だ」と言って伸はジャケットの内ポケットから二十万の札束を銀子にわたした。「いいの。こんなにもらっちゃって」「夢のような事を現実にかなえてもらって二十万では少なくてすまないくらいだよ」「ぎ、銀子さん。あ、あなたって人は・・・」由美子は腹から搾り出したような激しい恨みの声でキッと銀子に恨みの目を向けた。「ゴメンね。由美子さん。でも善悪って簡単に決められないことじゃないかしら。芥川龍之介も、善と悪は同じものだって言ってるわ」罪悪感のザの字も感じられないあっけらかんとした態度である。「ぎ、銀子さん。う、うらみます」由美子は怒髪天を突くほどの怨念のこもった目を向けた。が、銀子は呑気そうな、あっけらかん顔である。銀子はパタパタと小走りに部屋を出て行き、籐椅子を持って戻って来た。そしてそれを裸の由美子が乗っている木馬の前にドンと置いた。「じゃあ、伸さん。私はこれでおいとまするわ。水入らずの邪魔をしちゃわるいわ」伸に、おう、お役目ご苦労、大儀だったな、と言われて銀子は部屋を出て行った。部屋は伸と縛められた全裸の由美子の二人きりになった。伸はしばし無言で由美子を眺めていたが、抜き足差し足でそっと襖を開けて部屋の外を見た。万一、銀子が外で聞き耳を立てていないか確かめるためだった。銀子がいないのを確かめると伸はほっとした表情になり、ホクホクした顔つきで木馬の前に戻ってきた。(3)
「へっへ。とっぷり楽しませてもらうぜ」と言って伸は由美子の前に用意されている椅子にドッカと座ると、芸術品を鑑賞するように淫靡な視線を由美子の体に投げかけるのだった。伸は、「ふっふふ。いい体してやがる。腰もよくくびれてる」とか、「手を触れることもできなかった君の体を見れるとは男冥利につきる」とかの野卑な言葉を投げかける。が、由美子の両方の足首は木馬の脚の横木に括り付けられ、両手は後ろに縛られているため、身動きが取れない。以前、由美子は伸に食事に誘われたこともあったが、キッパリ断った。いっつも絡み付くような態度で言い寄ってくる伸に、いいかげん腹を立て、上司とはいっても公私のけじめをきっちりつけ、公では従っても、私では決然とした態度をとっていた。それが今では覆うもの一枚ない丸裸で、木馬を跨がされるという惨めな格好を淫靡な視線の前に晒しているのである。由美子は、悔しさ、と、惨めさで口唇をキュッと閉じ、手をかたく握りしめていた。伸は椅子から身を起こし、由美子の間近に屈みこむと、スラリと伸びた由美子の大腿にスッと手を触れた。「あっ」と反射的におぞましい嫌悪が電撃のように全身を走り、「や、やめて」と言って、触れられることから避けようと自由のきかない脚をむなしくバタつかせる。伸は罵詈に頓着する様子も見せず、口元をゆがめて笑い、桃紅色のペディキュアの施された足の踵をつかんで、鑑賞するように、しばしじっと眺めていたが、いきなり足の股を開いて薬指を口に含んだ。おぞましさに、「あっ」と言って由美子は眉を寄せ、顔をしかめて首を振った。伸はついと立ちあがると彼女の真後ろで木馬に跨り、由美子の肩をつかんだ。「や、やめて。変態!!」「ふふ。その気性の激しさも好きなのさ。しかしどこまで持ちこたえられるかな」「だ、誰があなたなんかに」と言いつつも由美子の声はかすかに震えていた。伸は由美子の肉体をこころおきなく楽しむように、くまなく手を這わしてから無防備の胸をそっと手で覆った。粘っこく弄ばれる屈辱は、いきなり暴虐的に揉まれるより辛かった。「ふふ。いつまでガマンできるかな」と言って伸は由美子の胸を徐々に揉みしだきだし、時々、乳首をキュッと摘んでみたかとおもうとまた静かにピッタリ胸の上に手を載せた。「こんなにやさしくしてやってるのになかなか立ってこないな」伸は由美子の反応を調べるような野卑な揶揄のコトバを独り言のようにうそぶいている。由美子はその都度「ううっ」とうめき声を洩らし、首を振った。(いけない。感じてはいけない)と自分に言い聞かせつつも、女のかなしい性がそれと反対の反応を起こしているのを由美子は気づき始めていた。伸は胸から手を離し、攻撃の矛先を女の最も敏感な茂みの部分へと右手を這わせていき、その部分に到達するとまたピタリと覆って、毛をつまんだり、肉をつまんだりした。「どれ。湿り具合はどうかな」と独り言のように言って、茂みの下へ手を伸ばそうとしたので由美子は「あっ」と言って、反射的に腰を引いた。当然、今まで木馬の背にペッタリ乗っかっていた尻がグイッと後ろに持ち上がり、閉じられていた割れ目が開いて、穴まであらわになった。「ふふ。お尻の穴を見てほしいんだね」と言うや、サッと左手の中指の先を、穴にあてがった。由美子は「ああー」と言ってすぐに尻を閉じ合わせて木馬の背に戻した。が、穴にあてがわれた手はのけられない。どころか尻を閉めればよけい意地悪な手を力強く挟んでしまう。伸は穴にあてがわれた中指で尻をチロチロ刺激している。由美子は、「あっ。あっ」と言いながら、この苦しみと戦っている。由美子に穴をさわられた経験などなく、脳天まで突くような激しい刺激に全身をブルブル震わせている。何とかこの苦しみから逃げようと腰を前に出すと、伸は待ってましたとばかり、右手を秘裂にあてがい、中指を女の穴に刺し入れた。前後の穴を塞がれて、後ろの穴をチロチロと耐えられない刺激を加えられ、由美子は尻をギュッとしめ、油汗を流してブルブルと全身を震わせている。「尻の力を抜きな。そうしたらチロチロ刺激するのはやめてやるよ」由美子はそれに従って尻の力を抜いた。肛門を責められることは耐えられなかった。すると、言った通り肛門への刺激は止まった。が、指先は相変わらず穴にあてがわれている。抵抗すればまた耐えられない刺激で責められる。と思うと由美子は伸に身を任すよりしかたなかった。が、肛門に触れられている指の感触は今まで経験したことのない、つらくも甘美な官能の刺激を由美子に与えていた。いつしか由美子の前庭は、粘液が溢れていた。それを感じとった伸は、「ふふふ。さっきの威勢はどうしたんだね。君は僕をこんなにまで愛してくれていたんだね」などと揶揄する。由美子は口惜しかった。憎むべき編集長の伸に、言語に絶する責めを受け、女の恥を晒してしまった自分が死んでしまいたいほど惨めだった。「く、口惜しい」由美子は首をガックリ落としながら一言いった。「ふふ。まだ素直になれねえか。よし」と言って伸は部屋を出て銀子をつれて戻ってきた。(ちなみに銀子の名の由来は、銀行だけは日本で唯一信頼できるもの、との親の信念から掛けられて、つけられたのだった)銀子は何やら小物がいっぱい入った洗面器を持っている。タオルで覆われているので中に何が入っているかわからない。伸がうすら笑いで由美子に近づいて行くと由美子はキッとした目つきで伸をニラミ返つけ、「こ、これ以上、一体、何をしようっていうの」と怨嗟のこもった口調で言う。「別にたいしたことじゃねえさ。もう木馬も疲れたろうから降ろしてやるだけさ。」と言って屈み、木馬の横木に縛りつけられた由美子の左の足首の縛めを解きはじめた。「おい。銀子。お前も手伝え」と言われて銀子は、あいよ、と言って、伸と同じように由美子の右の縛めを解きはじめた。自由になったが由美子は木馬から降りなかった。何をされるかわからず、すくんでしまったのである。「ほら。とっとと降りな」伸にグイと、後ろ手の縄尻を引っ張られ、由美子は木馬を降りた。伸はピシャリと由美子の弾力のある尻を平手打ちし、「ほれ。とっとと歩くんだ」と言って縄尻を取りながらドンと肩を叩いた。由美子は引かれ者のようにおぼつかない足取りで歩いた。尻の二つの肉の房は、余りある量感によってムッチリ閉じ合わされ、歩くたびにもどかしそうに左右に揺れる。つい、それは、たたきたくなる衝動を起こさせる。銀子はその本能に忠実に、意味もなく、ピシャリと平手打ちした。「ほれ。とっととそこに仰向けに寝るんだ」と伸がグイと肩を押して言った。由美子は屈みこんで脚を寄り合わせ、うすら笑いで立っている伸と銀子に憤怒のこもった視線を向け、「こ、これ以上、一体、何をしようというの」と怒気のこもった言葉を投げつける。銀子は洗面器を覆っていたタオルをとると中身をバラバラと由美子の前に落とした。それを見た由美子は思わず、「あっ。あっ」と戦慄の叫び声を上げた。それは30ccのイチジク浣腸だった。20箱個くらいある。「ふふ。わかったろ。お腹の中をきれいにしてやるっていうんだ。うれしいか」こんな畳の部屋で縛られたまま浣腸される、そのおぞましい光景がとっさに頭に浮かび、縄尻を取られているのもかまわず無我夢中で駆け出した。「おい。このアマをおさえるんだ」と伸は銀子に呼びかけた。必死で逃げようとする由美子を伸がタックルして馬乗りにして、取り押さえるが、由美子は必死で脚をバタつかせている。「おい。銀子。あれを持ってこい」「あいよ」と言って銀子が持ってきた物は長さ1mくらいの頑丈な太い樫の棒だった。両端には丸い輪の留金がついている。「そいつを両方の足首に結び付けるんだ」と言って伸は由美子が脚をバタつかせられないよう足首をしっかりつかんだ。後ろ手に縛められているので身をくねらせても起き上がることも、蹴ることも出来ない。銀子は片方の足首を留め金に、しっかり縛り付ける。木馬の時の足首の縛めがすでにあるので、両方の止め金に足首を縛り付けるのは造作もなかった。「へっへっ。こうなりゃもうこっちのもんだ」足の拘束が終わると伸は由美子の体から降りた。伸はさらに両方の止め金の輪に、一本ずつ縄を結びつけると、それを棒の真中のあたりでしっかり結んだ。伸と銀子は顔を見合わせて笑い、二人して由美子をズルズルと座敷の真ん中に引っ張って行った。由美子の目の真上には天井の梁があり、それには滑車が取り付けられている。おぞましい予感が背筋を走った。伸は棒につけた縄を滑車に通すと、「ほーらよ」と言ってヨイトマケのように引っ張った。「ああー」と言って由美子は激しく首を左右に振った。幅1mもある棒で足を開かされて縛られるというだけでも地獄の屈辱であるのに、棒が引き上げられるごとに、曲げていた脚がのばされていき、女の最も羞恥の部分がにっくき敵の前にあらわになっていく。ついに脚がピンと真一文字にまでのばされると由美子は一切を覚悟したように、きつくキュッと目をつぶって顔をそむけた。羞恥のため体がブルブル震えている。目をつぶっているので彼らの視腺がどこにあるのかわからない。「ふふ。手を触れることもできなかった、憧れの君のこんなすばらしい姿を拝めるとは、長生きはするもんだな」伸が嘲笑的な口調で揶揄する。「く、くやしい」口も必死で閉じていた由美子だったがつい言葉が出てしまう。木馬に縛られていた時はまだ、それが隠すものとなれた。しかし今は脚を大きく開かされて、些少の抗いもできないほど高々と足を吊り上げられ、敵の前に胸も前後の羞恥の部分もすべてを晒しているのである。彼らは由美子の体に触ってこない。それがかえって由美子を苦しめた。彼らが自分の恥部をニヤニヤ顔で笑いながら、じっと、そこだけけに視線をとどめている姿が瞑目している由美子の脳裏に想像の映像として、明瞭に映し出されてくるからである。それを思うと意識がそこへ行って由美子の尻は自然とブルブル震えだすのであった。「きれいなピンク色ね。でも毛がじゃまして今一ね。剃っちゃうなら剃るもの持ってくるわよ」「いや。それはいい。鬼五先生の許可なく剃ったら先生にわるいからね」と言い、さらに、「もっとも剃りたい気持ちは山々だがね」と言って二人はクスクス笑った。由美子の顔が真っ赤になる。突然、足先から脳天まで突くような激しい刺激に由美子はビクッと体を震わせ、思わず「あっ」と言って、目を開いてみた。伸が毛筆で由美子の膝の裏を撫でている。「ふふ。毛筆の先が触れたくらいでそんなに反応するなんて君はよっぽど感受性が敏感なんだね。きっといい作家になれる」由美子の全身は痙攣したようにカタカタ震え出した。由美子は「あっ。あっ」と言って激しく首を左右に振り、毛筆の刺激に必死に耐えようとしている。由美子は苦しみに顔をゆがめ、眉を寄せ、油汗を流している。が、伸は頓着することなく、ほこりを払って手入れする職人のように、黙々と筆先をスッ、スッ、と下肢の付け根の方へ這わせていく。目的地に近づいてくると、そこは後回しにするかのようにわざと避ける。「そこは私が受け持つわ」といって銀子が由美子の割り割かれた尻の前に座って伸と同じように毛筆で下腿部を刷いた。伸は立ち上がって由美子の顔の真横に居を移し、首や乳房、臍、わき腹、などの部分を丹念に刷いた。無言で行う神聖な儀式のようなその行為は古の暴君が忠実な部下に行わせている拷問のようにも思え、人形のように弄ばれる屈辱に加えて、人間のもつ業の恐ろしさ、を、わが身で受けているような感覚も起こってきた。活発な由美子にとって物にされるような行為は耐えられなかった。毛筆責めは単なる苦痛とは違う魂の暗部にひそむ妖しい官能を刺激した。ギュッと目をつぶっている由美子の脳裏に、子供じみた悪戯を無言の真顔で黙々と行っている伸の顔が浮かび上がり、それは今まで経験したことのない未知の官能を誘起しはじめていた。少しでも気をゆるすと屈しそうになる自分自身を由美子は必死で叱咤した。由美子は眉をギューと閉め、歯をカチカチ鳴らしたり、食いしばったりしてこの業苦と戦った。が、官能は強靭な精神を裏切った。大きく割り裂かれてあらわになっている由美子の秘裂はいつしか潤いをおびはじめていた。銀子は手をたたいて笑い、「わー。由美子さん。濡れてるわ。由美子さんてマゾだったのね」言われても由美子はどうすることもできない。「うっ。うっ」と、うめきながらこの業苦に耐えるしかない。銀子は由美子の秘裂の粘液をティッシュで拭き取り、「ねえ。伸さん。あんまり同じ所ばかりいじめちゃかわいそうよ。私と交代しましょ」そう言って立ちあがって由美子の顔の傍らに座った。入れ替わるように伸は由美子のあられもなく開かれている双臀の前に戻って座った。責めが一時でも休止されたことに由美子は大きく一息した。が、それもつかの間。由美子の秘裂を筆先が掠めるように擦過したのである。「あっ」と由美子は反射的に声を洩らした。これからされるだろうことが瞬時に予測され、恐怖のあまりに双臀がブルブル震え始めた。再び筆先が秘裂にあてがわれると先端がゆっくりと秘裂に沿って下降してゆく。それが執拗に何度も続いた。(いけない。負けてはいけない)と自分に言いつづけながらも由美子は押し迫ってくる官能に口唇を噛み、目をかたくつぶって耐えていた。「あっ」と由美子は悲鳴をあげた。伸は矛先をかえて由美子の肛門をなぞりだしたのである。由美子は身も世もあらぬ態で首を激しく振り、ブルブルと全身を震わせている。伸は仙骨部から秘裂の上端の女の突起まで、女にとって最も敏感な双臀部の間の谷間をなぞり、それを執拗に繰り返した。いつしか由美子の女の窪地は粘稠な女の液でいっぱいとなり、ついにあふれ出てとまらないまでになった。「わー。すごいわ。由美子さんてすごいマゾだったのね」