【霊告日記】第二十二回 形而上派宣言 トルコ行進曲
ここに掲載する「形而上派宣言」はより大部の作品『形而上派宣言』の要の部分に当たり126枚の文章のいわばエッセンスである。先週掲載した「非ユークリッド文学宣言」の原型にあたる。さらに言えば「非ユークリッド文学宣言」の進化形が『来たるべきアジア主義』である。私の思想のDNAは「形而上派宣言」の中に暗号情報として完璧に保存されている。
『形而上派宣言』執筆の事情についてはすでに「好日33 札幌からの遠望」に詳しく書いた。形而下を探究する分析的な知性と形而上を探索する叡智との根本的な違いについて私は今西錦司から学んだのだが、なぜ「形而上派宣言」というタイトルで私は最初の著作を書こうと試みたのかを補足として付け加えておく。
生物学者の今西錦司がまだ存命中の頃私は一度だけその聲咳に接したことがあった。知的生産の技術研究会の公開講演会に現れて主としてその学問の方法論について今西は語ったのである。相当の高齢であったが杖をついて登壇した今西が杖を手放してすっくと立ったその姿は長年の登山で鍛えられたせいか雄姿現るといった風情でありただそれだけでも相当の見ものであった。
今西はホワイトボードにフィジックス/メタフィジックスのただ二文字だけを大きく記してその違いの説明に入った。学問の方法には二通りあってひとつはフィジックスである。研究する対象を分割してその対象ごとに学問が細分化される。細かく分けて調べていく方法、それがフィジックスである。しかし古来それだけではなくフィジックスを超えるメタフィジックスという学問があった。これは全体をつかむ学問でありだからメタという前置詞がついている。全体をどうやってつかむのか。それは直観であり洞察という方法に他ならない。私のやっているのはフィジックスではなくメタフィジックスであると述べて今西は違いを強調するかのように、そっちではなくこっち、と大きな身振りでホワイトボードの二文字を指し示したのであった。それはまさに名優の身振りであった。鮮烈な印象を刻まれて私は今西の講演を聴いた。そういう記憶が残っている。
私の生物学への興味・関心は今西のその講演を聴いた日から始まったと言っても過言ではない。今西錦司の『ダーウィン論』(中公新書)は、三木成夫の『内臓のはたらきと子どものこころ』、ジャック・モノーの『偶然と必然』と共に生物学関連の愛読書として私には特別の位置を占めているのである。
さてそんなわけで私はメタフジックスを翻訳した日本語である「形而上学」という言葉に特別の光彩を与えている。形而上とは形を越えたところにある対象を考察する学であり心霊が働くことによって成り立つ知の領域なのである。「形而上派宣言」という表題を掲げて最初の作品を書きたいと思った動機はそういうところにあった。
★ ★ ★
この宣言は、粗野な自然性を脱却して精神性へ向かうことを望
む、すべての世界の青春へ、直接肉声で語られる。貴方の愛し
ておられるもの、何でもいい、マフラー、自分の髪の毛、一枚の
絵、それらをスピーカーにして流されるところの、ヒトラーの
第三帝国打倒に立ち上がった最初の兵士の呼びかけです。
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形 而 上 派 宣 言
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1.形而上派、それは貴方のことである。
2.自分自身の情熱から出発する人間は全世界を獲得する。
形而上派宣言はその証明である。
3.形而上派宣言はアンドロメダ星雲より発注を受け作成
された地球人の頭脳研究レポートである。
4.形而上派に不可能はない。不可能という概念を消失さ
せたからである。
5.形而上派は世紀末の日本を足場に全世界を制覇する。
6.形而上派は欲望の全能を主張する。心の素直な貴方の
望むことならどんなことをやってもかまわない。
7.形而上派はすべてのもう一人の私が結集して作った欲
望の全能の王国である。
8.すべての存在が、形而上派ダンスを踊る。
9.文芸革命のための武器はすべて形而上派宣言の中に置
かれている。あとは貴方がその武器を手にする勇気を持
つことだけが問題である。
10.すべての書物は形而上派宣言一冊の中に解消した。そ
れゆえそこに入っていくことによってすべての書物を読
むことができる。
11.哲学者はもういらない。詩人ももういらない。形而上
派宣言をくぐり抜ければすべての彼らを越える知性を獲
得してしまっているからだ。
12.永遠の青空を形而上派は浮遊する。
13.感覚する能力を僕らは持っている。思考する能力を僕
らは持っている。それゆえ僕らは全能である。
14.形而上派は絶対的叛逆の黙示録の中を行動する。
15.世界は一冊の書物の中へ倒れ込むであろう。宣言の空
白の中へ。崩壊の大音響の中から黙示録の騎士の行進が
始まる。それが形而上派である。
】 霊告 【 ベートーベンのトルコ行進曲は生物進化の内在律を開示した神曲である。 北 一輝
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