かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 218(中国)

2019-04-16 20:00:54 | 短歌の鑑賞
  馬場あき子の旅の歌29(2010年6月実施)
    【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)175頁
     参加者:Y・I、T・K、曽我亮子、T・H、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放


218 杏仁水あえかに冷えてのみどゆく鳴沙山の月見しは嘘ならず

           (レポート)
 今、先生は、中華料理の後に出される杏仁水を召し上がっていられる。それは冷たく心地よい。私が鳴沙山の上に上った月を見たのは、夢ではない、本当なのだ、と信じられないような仕合わせを感じておられる。(T・H)



      (まとめ)
 出だしが、杏仁水、あえかにと頭韻を踏んでいる。あえかに、の柔らかな語感が、一首に夢のようにはかない気分を醸し出している。216番歌(鳴沙山を静かに上る秋の月砂のみを照らし来しおそろしさもつ)、217番歌(鳴沙山に怪異のごとき月出でてアメリカにうすい朝かげさすや)では「鳴沙山」に昇る怪異のごとくおそろしい月を見ていたのだが、冷たい杏仁水を食べていると鳴沙山の怪異のようなおそろしい月を見たのが、はるか異界のできごとだったように、あるいは夢の中のできごとだったように感じられたのだろう。だから「嘘ならず」と自分に言い聞かせているのだ。どこかオアシス都市に移動してからの感慨だろうか。夢から覚めて放心したような気分を、上の句の柔らかなフレーズがよく伝えている。(鹿取)

コメント
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