2023年版 渡辺松男研究 16 2014年6月
【Ⅱ 宙宇のきのこ】『寒気氾濫』(1997年)60頁~
参加者:曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放、鈴木良明(紙上参加)
レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放
135 一のわれ欲情しつつ山を行く百のわれ千のわれを従え
(レポート)
一のわれ=作者は「現代短歌新聞」“歌は時間の奴隷ではない”の中に、一のわれについて語っている。「一のわれになった時恐怖心に侵されました…。一を生きることになってしまった者として歌いたいことだけを歌っていきます……」(曽我)
(紙上意見)
われの中には百のわれ千のわれ、たくさんのわれがいる。そのときどきの環境に応じてそれに適したわれが顕れる。山行の中で、欲情(どのような欲情かわからないが)した一のわれが他のたくさんのわれを抑制して、歩き続けている。「欲情」には切羽詰まったものが感じられ、それゆえに、他のわれは黙って従うのである。(鈴木)
(当日発言)
★「現代短歌新聞」に載った「一のわれ」というのは難病の確率の話で、「一のわれ」
はALSという病気が確定された状態を表現している言葉です。だから、この歌での
「一のわれ」とは全く文脈の違う話ですね。それから鑑賞している『寒気氾濫』は1
997年出版ですから、作者がALSになられるより10年以上前の歌集です。
(鹿取)
★金子兜太に「けふはどの本能と遊ぼうか」という俳句があって、その類似形かと。
(慧子)
※後で調べたところ「 酒やめようかどの本能と遊ぼうか」が正しいようだ。(鹿取)
★鈴木さんは「一のわれが他のたくさんのわれを抑制して」と書いているけど、「従
え」は「抑制して」ではなく私は「引き連れて」と読みました。一のわれが欲情し
ているのだから百のわれも千のわれも同様に欲情しているんだと思います。(鹿取)
★百、千は〈われ〉の構成要素。でも、それは過去にさかのぼれば青年時代、少年時
代の〈われ〉にもなるし、親や先祖にもなるし、人間以外の猿やチンパンジーや、
もっと過去の海の微生物みたいなものにもなる。また、渡辺さんは「平行宇宙」と
か考える人だから〈われ〉の構成要素はそこにもあるのかもしれない。(鹿取)
(後日意見)
『泡宇宙の蛙』に「一のわれ死ぬとき万のわれが死に大むかしからああうろこ雲」がある。『泡宇宙の蛙』の自選5首に本人が選んでいる。(「かりん」2010年11月号)(鹿取)
【Ⅱ 宙宇のきのこ】『寒気氾濫』(1997年)60頁~
参加者:曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放、鈴木良明(紙上参加)
レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放
135 一のわれ欲情しつつ山を行く百のわれ千のわれを従え
(レポート)
一のわれ=作者は「現代短歌新聞」“歌は時間の奴隷ではない”の中に、一のわれについて語っている。「一のわれになった時恐怖心に侵されました…。一を生きることになってしまった者として歌いたいことだけを歌っていきます……」(曽我)
(紙上意見)
われの中には百のわれ千のわれ、たくさんのわれがいる。そのときどきの環境に応じてそれに適したわれが顕れる。山行の中で、欲情(どのような欲情かわからないが)した一のわれが他のたくさんのわれを抑制して、歩き続けている。「欲情」には切羽詰まったものが感じられ、それゆえに、他のわれは黙って従うのである。(鈴木)
(当日発言)
★「現代短歌新聞」に載った「一のわれ」というのは難病の確率の話で、「一のわれ」
はALSという病気が確定された状態を表現している言葉です。だから、この歌での
「一のわれ」とは全く文脈の違う話ですね。それから鑑賞している『寒気氾濫』は1
997年出版ですから、作者がALSになられるより10年以上前の歌集です。
(鹿取)
★金子兜太に「けふはどの本能と遊ぼうか」という俳句があって、その類似形かと。
(慧子)
※後で調べたところ「 酒やめようかどの本能と遊ぼうか」が正しいようだ。(鹿取)
★鈴木さんは「一のわれが他のたくさんのわれを抑制して」と書いているけど、「従
え」は「抑制して」ではなく私は「引き連れて」と読みました。一のわれが欲情し
ているのだから百のわれも千のわれも同様に欲情しているんだと思います。(鹿取)
★百、千は〈われ〉の構成要素。でも、それは過去にさかのぼれば青年時代、少年時
代の〈われ〉にもなるし、親や先祖にもなるし、人間以外の猿やチンパンジーや、
もっと過去の海の微生物みたいなものにもなる。また、渡辺さんは「平行宇宙」と
か考える人だから〈われ〉の構成要素はそこにもあるのかもしれない。(鹿取)
(後日意見)
『泡宇宙の蛙』に「一のわれ死ぬとき万のわれが死に大むかしからああうろこ雲」がある。『泡宇宙の蛙』の自選5首に本人が選んでいる。(「かりん」2010年11月号)(鹿取)