2023年版 渡辺松男研 15 (14年5月)まと
【Ⅱ ろっ骨状雲】『寒気氾濫』(1997年)57頁~
参加者:四宮康平、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部 慧子 司会と記録:鹿取 未放
133 ジェット気流に透かされている天つ空 恐竜はかくさみしかりしか
(発言)(2014年5月)
★あんな大きな恐竜が淋しかったように、父親もきっとさみしかったんだろうなと詠っ
ている。(曽我)
★恐竜がなんでさみしかったかというと、曽我さんが言ったように体がでっかいからな
んだろうね。あれだけでっかい体をもっているけど、ジェット気流には届きそうで届
かない。お父さんを前提に読むとさらによくなりますね。(鈴木)
★体が大きくて生臭くて、先行する何首かの父と恐竜は重なる点が多いですね。(四宮)
★お父さんの連想で 恐竜が出てきて、お父さんと恐竜は重なってはいるんでしょう
が、「かく」は「このように」だからジェット気流を通して空を見てさびしいのはま
ず〈われ〉。それで恐竜もこんなふうにさびしかったんだなあと思っている。(鹿取)
★佐々木実之さんが恐竜は引きずっている太いしっぽが痛かったので滅びたんだという
ようにうたっていて、それも痛ましい思いがしたんですけど。ついでにいうと、気象
変動で恐竜が滅びたというのは通説ですけど、断定はされてないようですね。(鹿取)
★「透かされている天つ空」ってどうも気持ちわるいんですが。「いる」、「あまつそ
ら」という音の並びが気持ち悪いんです。ウの音とツの音が続いているのが辛くて気
持ち悪い。どうして天つ空を最初にもってこないかなあと。(四宮)
★「天つ空ジェット気流に透かされている」だとだらだらした感じになるなあ。あと、
恐竜の直前に「天つ空」の語が来るのは大事なことだと思う。(鈴木)
★透かされて「おり」だったら音の続き具合はまだ納得ができる。すみません、勝手な
こと言って。(四宮)
★いや、四宮さんの言っている感覚はちょっと分かる気がします。音韻に敏感になるこ
とは詩人にとってとても大事なことで、歌作るときに役立つと思いますよ。(鹿取)
(まとめ)(2014年5月)
鹿取発言中の実之さんの歌は〈恐龍は引きずりて行く太き尾の痛きゆゑ滅びたるにあらずや〉(佐々木実之『日想』)、歌集巻頭の「日想」の章にある。ある意味荒唐無稽だが、恐龍の太き尾に仮託された自意識が何とも痛ましい歌である。
恐竜も父も大きいからよけいにさびしい、という意見が出たが、渡辺松男の「日常宇宙」(「かりん」1997年2月号)という評論に次のような興味深い記述があるのを思い出した。(鹿取)
【丁田隆の〈ざっぷりとプランクトンを食みながら淋しさをを言うことばを持たず〉に触れて「……鯨のことを詠んでいる歌である。鯨がプランクトンだけで生きているとは思えないが、小魚やその他のものと一緒に無数のプランクトンも口に入るのだろう。ざっぷりと食う、生きていることそのことに関わるような淋しさ、しかし言葉を持たぬとなれば、これは読者の痛いところを突いてくる歌だ。……(中略)……しゃべらない鯨はしゃべらない分、生きなければならないだろう。/しかしと思う。鯨のようにスケールの大きいものが、言葉なくその存在に耐えながら泳ぐからその淋しさもいいのであって、百姓の祖父の場合はかっこよくもなんともなかった。淋しいなどとは言えないし、言おうものならぶったおされた。もっと小さければどうだろう。そもそも感情移入などしきれない。ダニが耐えていたら人は笑うだろう。】
【Ⅱ ろっ骨状雲】『寒気氾濫』(1997年)57頁~
参加者:四宮康平、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部 慧子 司会と記録:鹿取 未放
133 ジェット気流に透かされている天つ空 恐竜はかくさみしかりしか
(発言)(2014年5月)
★あんな大きな恐竜が淋しかったように、父親もきっとさみしかったんだろうなと詠っ
ている。(曽我)
★恐竜がなんでさみしかったかというと、曽我さんが言ったように体がでっかいからな
んだろうね。あれだけでっかい体をもっているけど、ジェット気流には届きそうで届
かない。お父さんを前提に読むとさらによくなりますね。(鈴木)
★体が大きくて生臭くて、先行する何首かの父と恐竜は重なる点が多いですね。(四宮)
★お父さんの連想で 恐竜が出てきて、お父さんと恐竜は重なってはいるんでしょう
が、「かく」は「このように」だからジェット気流を通して空を見てさびしいのはま
ず〈われ〉。それで恐竜もこんなふうにさびしかったんだなあと思っている。(鹿取)
★佐々木実之さんが恐竜は引きずっている太いしっぽが痛かったので滅びたんだという
ようにうたっていて、それも痛ましい思いがしたんですけど。ついでにいうと、気象
変動で恐竜が滅びたというのは通説ですけど、断定はされてないようですね。(鹿取)
★「透かされている天つ空」ってどうも気持ちわるいんですが。「いる」、「あまつそ
ら」という音の並びが気持ち悪いんです。ウの音とツの音が続いているのが辛くて気
持ち悪い。どうして天つ空を最初にもってこないかなあと。(四宮)
★「天つ空ジェット気流に透かされている」だとだらだらした感じになるなあ。あと、
恐竜の直前に「天つ空」の語が来るのは大事なことだと思う。(鈴木)
★透かされて「おり」だったら音の続き具合はまだ納得ができる。すみません、勝手な
こと言って。(四宮)
★いや、四宮さんの言っている感覚はちょっと分かる気がします。音韻に敏感になるこ
とは詩人にとってとても大事なことで、歌作るときに役立つと思いますよ。(鹿取)
(まとめ)(2014年5月)
鹿取発言中の実之さんの歌は〈恐龍は引きずりて行く太き尾の痛きゆゑ滅びたるにあらずや〉(佐々木実之『日想』)、歌集巻頭の「日想」の章にある。ある意味荒唐無稽だが、恐龍の太き尾に仮託された自意識が何とも痛ましい歌である。
恐竜も父も大きいからよけいにさびしい、という意見が出たが、渡辺松男の「日常宇宙」(「かりん」1997年2月号)という評論に次のような興味深い記述があるのを思い出した。(鹿取)
【丁田隆の〈ざっぷりとプランクトンを食みながら淋しさをを言うことばを持たず〉に触れて「……鯨のことを詠んでいる歌である。鯨がプランクトンだけで生きているとは思えないが、小魚やその他のものと一緒に無数のプランクトンも口に入るのだろう。ざっぷりと食う、生きていることそのことに関わるような淋しさ、しかし言葉を持たぬとなれば、これは読者の痛いところを突いてくる歌だ。……(中略)……しゃべらない鯨はしゃべらない分、生きなければならないだろう。/しかしと思う。鯨のようにスケールの大きいものが、言葉なくその存在に耐えながら泳ぐからその淋しさもいいのであって、百姓の祖父の場合はかっこよくもなんともなかった。淋しいなどとは言えないし、言おうものならぶったおされた。もっと小さければどうだろう。そもそも感情移入などしきれない。ダニが耐えていたら人は笑うだろう。】