かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 413(中欧)

2020-05-02 19:24:04 | 短歌の鑑賞
  馬場あき子の外国詠57(2012年10月実施)
    【中欧を行く カレル橋】『世紀』(2001年刊)P116~
      参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:崎尾 廣子 司会と記録:鹿取 未放

 
413 幽閉されたき窓一つあり何の木か黄葉をきはめ実を結びをり

       (レポート抄)
 この歌は初句のみが字余りで表現されている。しかも8音である。この一首へぐんぐんとひきこまれてゆくような力感のある調べである。目線を少しあげたところに見える小さな窓なのであろう。3句の「何の木か」は美しい調べの続く下の句への「休止符」となっているように思える。日常のわずらわしさから解放され孤になりたいと思っているであろう作者の心のうちが涼しげに伝わってくる。O-Henryの「最後の一葉」を連想する窓の存在。(崎尾)


        (当日発言抄)
★レポーターが思い出したという、オーヘンリーの「最後の一葉」ってどんな小説ですか?
   (鹿取)
★女の子が窓から木を見ていて、あの木に葉っぱが付いている間は私の命もあると思っている、
 そんなお話ですよね。(慧子)
★その最後の葉っぱが落ちて、画家が少女のために葉っぱを描いてやる。画家は死ぬけど、少女
 は絵を見て元気を取り戻すという短編。(崎尾)
★この窓を作者はどこから見ているんだろう?(鈴木)
★外の道から見ていると思ったけど。目線を少しあげたところに木がある。(崎尾)
★「実を結びをり」のところは窓の内側から見ている感じがする。(鈴木)
★窓以外は黄葉で覆われている。(N・I)
★写実で言うと、窓に枝一本が掛かっているとでも歌ってくれたらイメージしやすいのに。(慧子)
★ここは大聖堂の内側から小さな窓を見て歌っているのではないか。その外に実のなった枝があ
 る。外からでは下の句が活きてこない。(藤本)
★「幽閉されたき窓」だから、この窓は低いところにはないだろう。すると窓の近くに実がなって
 いたら下からは見えないだろう。まあ、木の葉も実も下からずっと続いていて、だから実がなっ
 ているのも分かるのかもしれないけど。(鹿取)
★下から続いていたら何の木かは分かるのでは。(鈴木)
★でも異国の木で名前を知らないということも考えられる。次の歌(羊のやうに群れて歩める小さ
 き影カラードにして金持われら)は外に出ているので外かもしれない。事実は分からないが、中
 にいたら窓一つとは言わないのじゃないか。外からたくさんの塔や窓を眺め、その一つに幽閉さ
 れたいような感じを持った。(鹿取)
★「幽閉されたき」という言葉が大事。(鈴木)
★しかし幽閉されたいとは不思議な感覚ですよね。普通は脱出したいとは思っても、あまり幽閉
 されたいとは思わないだろうけど。(鹿取)
★舞台のような感覚なんじゃないですか。(曽我)


          (後日意見)
 この歌はオー・ヘンリーの「最後の一葉」には関わりがないだろう。葉は黄葉し、実さえ結んでいるのだから。しかし、オー・ヘンリーは横領のかどで服役していたことがあるそうなので、「幽閉」とは関わって面白い。もっとも彼は模範囚で、外出許可さえ出ていたそうだ。(鹿取)



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