かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の134

2019-02-05 21:56:15 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


134 はかなかるサラリーマンの癖(へき)として「宇宙ひも」など浮かべて眠る

             (レポート)
 「サラリーマンという用語は和製英語で、明治期に用いられはじめたが、その当初から給与生活者、あるいはサラリー(給与)を受けて特定の仕事に従う社会層をいう」(世界大百科事典/平凡社 一九八八年刊) 
 これは作者自身のことでもあろうしサラリーマンといわれてきた人々のことでもあるだろう。作者自身の癖としては遙かな宇宙たとえば「宇宙ひも」などを思い浮かべて眠りに入るのだという。 (真帆)


(当日意見)
★ホーキングって人が「どのようにして宇宙ができたかはおおよそ分かった」っていうのでそれな
 ら読まなくちゃとここ20年ほど彼の著作を読んできましたが、面白いけどあまり理解はできな
 いです。もちろん高度な理論である「宇宙ひも」の概念は理解できません。ネットで見ると、「宇
 宙ひも」は宇宙のはじめの密度の揺らぎに関係していると考えられていたけど、近年はそれほど影
 響が無いことが分かったと書かれています。でも、宇宙ひもを検証する場じゃありませんから、こ
 の歌はそういう宇宙のはじめの何かを思い浮かべて眠るんだと、漠然とした理解でいいのでしょう。
 私がホーキングを面白いと思うのは冒頭の記述「どのようにして宇宙ができたかはおおよそ分かった」
 の後に「なぜわざわざ宇宙が存在するのかは分からない」って言っていて、でもその「なぜ」を問う
 ていて、そのあたりの深さが好きなので分からないけど時折りホーキングの本は出してきて読みます。
     (鹿取)
★宇宙的なスケールのものとちまちましたサラリーマンを対比させる、みんな同じ造りですね。作
 歌する時の方式があるなって気がしますね。(A・K)
★宇宙ひもはものすごい重力をもっているのだそうです。それから時空に何か欠陥をもっているも
 のですよね。それで、重力に押しつぶされそうなサラリーマンを持ってくる。だから最後の宇宙
 ひもの歌を持ってきてひびきあわせた。この一連、重力でつないでいて他の歌とは違っている。
 それと、「へき」がうまいですよね。何か巨大なものを連想させる手がかりとして「へき」があ
 る。貝の紐なども連想させる面白さもある。はかなかる、へき、宇宙ひもとハ行の音も計算され
 ている。(K・O)
★「へき」ってふりがなが抜群ですね。くせだったらまったく通俗的で歌にならないけど、「へ
 き」だから飛躍できた。(鹿取)
★まったくその通りですね。宇宙ひもって欠陥があるとおっしゃったでしょう。私は蛍光灯の紐の
 ようなもので、ひっぱると電気が点くように開かれているものかと思っていました、サラリーマ
 ンの希望みたいなものだと。でも、マイナスのイメージなんですね。そうすると宇宙にさえ欠陥
 があるんだとサラリーマンは思ってるってことですね。詳しいことは分からなくても肯定的なも
 のか否定的なものかが分からないと歌のニュアンスがまったく違ってきますね。やっとわかりま
 した。(A・K)
★いや、私は松男さんが宇宙ひもを否定的なニュアンスを出すために使っているとは全く思いませ
 ん。欠陥といっても宇宙発生時に別個に出来た領域と領域の間に何か欠陥が生じたとかいう話で、
 それは人間的な価値観のプラスマイナスとはまったく違うものです。そういう価値観の問題では
 無くて、宇宙のはじめにあったらしい宇宙ひもという訳の分からない、だからこそ壮大なロマン
 のある、そういうものをイメージして解放されて眠ろうと、日々がんじがらめになっているサラ
 リーマンの習性として「宇宙ひも」を思い浮かべるんだと。もちろん、松男さん自身は「宇宙ひ
 も」の概念をしっかり把握してうたってらっしゃるかもしれませんが。まあ、いろんな解釈がで
 きるのはいい歌だということです。(鹿取)


      (後日意見)
「ブリタニカ国際大百科事典」によると「宇宙ひも」は以下のように説明されている。
  【宇宙には電磁波では観測することのできない暗黒物質があると考えられている。宇宙ひも
    は,その候補の一つとして考えられている理論上の物質。ビッグバン直後,すべての力が1
    つであったときにつくられたひも状のもので,高密度のエネルギーを持つという。銀河や
    宇宙の大規模構造をつくり出すもとだといわれる。しかし,その存在はまだ証明されてい
    ない。】
 ちなみに『泡宇宙の蛙』の後半にも宇宙ひもの歌が一首出てくるので挙げておく。(鹿取)
      宇宙ひもループをつくる塵劫(じんごう)を一億の吾が遊行してゆく

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