かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  73

2020-08-23 18:56:21 | 短歌の鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究 ⑧(13年9月)
      【からーん】『寒気氾濫』(1997年)30頁~
       参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子       
           司会と記録:鹿取 未放


73 ネクロポリスは月のかたちの石に満ち人寿三万歳のわれは行く

      (意見)
 ★実際こういった場所があるんですかね。それとも参考として書かれているような状態
  のことをネクロポリスと言うんでしょうかね。ちょっと勉強して来なかったんですけ
  ど。(鈴木)
 ★私は大都市近郊の日本の現代の墓地ということで解釈したんですけど。(崎尾)
 ★実景とか具体的な場面ではないように思いますが。実景だとしたら日本の都市近郊の
  墓地に月の形をした石が「満ち」ってあり得ないでしょう。三日月にしたってまん丸
  にしたって半月にしたって。第一〈われ〉は三万歳なんだから現実にはないでしょう。
  もちろん外国にはこの通りの巨大な墓があるかもしれないけど、旅行している訳では
  ないと思うし。でも読み手は景も〈われ〉もこの通りのものとしてリアルに受け止め
  ないといけないし、私は書いてあるとおりに受け止めるけど。(鹿取)
 ★崎尾さんが死者の都とも言ったけど、その意味の方が広がりが出ますよね。(鈴木)
 ★そうすると人間始まって以来の、それこそ恒河沙の数の人間が全部眠っている死後の
  世界。でも三万歳というのは何なんでしょうね。クロマニヨン人は4万年くらい前で
  したっけ?(鹿取) 
 ★死者の都とか月の形の石に満ちというところが、とてもいいなと思いました。それか
  ら渡辺さんはよくいろんなところへ行くなあと思いました。(笑)(高村)
 ★三万歳の字がなにか万歳に見える。そこを意識しているのかなあ。(慧子)
 ★いやあ、おおらかに諸手上げて人間万歳というような立ち位置の人でもないから、ど
  うなんでしょうね。(鹿取)
 ★前の歌では狭いところに閉じこめられて甕の中にいたけど、今度はこんなに大きくな
  って(笑)。ちまちましたところにずっといないのが渡辺さんらしい。連作で大小交
  互にきているみたいだ。(鈴木)
 ★月の形だからけっして汚くなくって。月という漢字が読み手に浮かぶように選ばれて
  いると思う。(高村)
 ★三万歳って思いついても、普通の人は読み手に受け入れられないだろうと思って使え
  ないですよね。(鈴木)
 ★こういう言葉を矯めて詩にできる力業が渡辺さん、すごいですよね。(鹿取)
 ★しかも実感がこもっている。作り物って感じがまったくしない。(鈴木)
 ★この一連の題が「からーん」で、そこも面白い。テレビで「ちゃらーん」って言って
  いた落語家がいたけど、そういう感じかな。(鈴木)


       (追記)
 Wikipediaによると「ネクロポリスとは、巨大な墓地または埋葬場所である。語源は、ギリシャ語の「nekropolis(死者の都)」。大都市近郊の現代の共同墓地の他に、古代文明の中心地の近くにあった墓所、しばしば人の住まなくなった都市や町を指す。」(一部省略)
 もしかしたら、今、〈われ〉が三万歳なのではなく、人類滅亡後の世界を透視しているのかもしれない。三万歳になった〈われ〉がいるのは、死者の都=ネクロポリス。累々と人類の墓碑が広がっているのだ。しかしこの歌に身震ふほどの怖さを感じないのは、月の形の石で、ロマンがあるからか。月によって死が清浄に感じられるからか。月の形の石に満ちた景にこそ作者の独特の思いがあるのだろう。 (鹿取)


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