かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 177

2024-01-08 10:35:36 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究22(2014年12月)
      【非常口】『寒気氾濫』(1997年)75頁~
      参加者:S・I、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、
          曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:S・I   司会と記録:鹿取 未放


177 底のなきやわらかさ恋い朧夜のあかき空気に濡れてあゆめり

     (レポート)
 朧月が遠くにかすみ、やわらかい夕闇に包まれると、行く手はおぼろとなり、浮遊しているかのような歩みとなる。その歩みは心地よく、赤みがかった春の夜気がしっとりと身体に触れてくる。ゆったりとなだらかな歌いぶりは、歩行そのものの様子を伝えて巧みである。歩行を感覚で捉えている点では、ランボー一五歳のときの詩が想起されるが、与謝野晶子の「清水へ…」の作も叙述的ではあるが、景が鮮やかであり、人々のささめき、街の匂い、といった感覚が伝わってくる。(S・I)
【参考作品】 
        Sensation アルチュール・ランボー( 訳者不明)
夏の青い黄昏時に 俺は小道を歩いていこう   草を踏んで 麦の穂に刺されながら
  足で味わう道の感触 夢見るようだ      そよ風を額に受け止め 歩いていこう
一言も発せず 何物をも思わず         限の愛が沸き起こるのを感じとろう
  遠くへ 更に遠くへ ジプシーのように   まるで女が一緒みたいに 心弾ませ
                        歩いて いこう
※清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき『みだれ髪』 与謝野晶子


      (当日意見)
★しっとりした春の闇が身体に触れてくる感じ。松男さんの歌ってこうした情景を詠ん
 でもその中に作者が入り込んでいるから、実感として読む方も味わうことが出来る。
   (鈴木)
★「あかき」は色彩の赤色ではなく「明き」と思って読みましたが、実態は結局どちら
 でもそれほど違わ ないですけど。(鹿取)
★「赤き」でもいいんじゃない、春の柔らかさが出ていて。(鈴木)(S・I)
★「底のなきやわらかさ」を恋うというのが、朧夜がまるで女性みたいでなかなかなま
 めかしくて、包み込まれるような感じなんですね。真っ暗闇じゃない「あかき」空気
 の中をゆく身体感覚が気分良く味わえます。(鹿取)


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