かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 347、348 スイス④

2025-01-16 09:35:54 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 馬場あき子の外国詠48(2012年2月実施)
      【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)173頁 
     参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
           渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子       司会とまとめ:鹿取 未放
                   

347 乾燥トマト湯に戻しをり秋は来て想ふアルプスの村の家刀自


           (当日意見)                        
★これは旅行から帰った歌。肉体的、感性で読まないと自分との関わりが出ない。(鈴木)
★土産に買ってきた乾燥トマトをお湯に戻しているところ。つましく工夫して家事を切り盛りしていたアルプスの村の「家刀自」のことを思い出している。ちなみに「刀自」は万葉仮名だそうだが、「戸主」の約で、家事を司る女性のことと辞書にある。(鹿取)                     
★「家刀自」の語がいきている歌ですね。(一同)


348 風疾(はや)きビルの谷間を行くときをアルプスの兎低く啼く声


            (当日意見)                       
★ここは帰国して都会の殺伐としたビルの谷間を歩いている時、そのビル風をアルプスの兎が鳴いているようだと感じたのだろう。旅の途中、アルプスの兎の鳴き声を聞いたかどうかは不明だが、ビル風の音を聞きながら、アルプスの兎が鳴いたらこんな哀しい声ではなかろうかと想像しているのかもしれない。歴史について、人間についてスイスで様々な苦を見てきたとは言え、風景自体は夢のように美しかったスイスの旅、ここでは都会に戻ってきた現実の苦い感慨だろう。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 345、346 スイス④

2025-01-15 10:17:11 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 馬場あき子の外国詠48(2012年2月実施)
      【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)173頁 
     参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
            渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子       司会とまとめ:鹿取 未放
                   

345 戦争を逃がれてスイスに棲まんとせし強き肩弱き足思ふ雪の峠に

             (当日意見)                         
★「強き肩弱き足」は、老若男女では動きが出ない。大人、女人、子どもを思わせ、具体を詠むことで実感が出ている。 (鈴木)
★そうですね、強い肩を持った男性も、弱い足を持った女性や子どもも難儀をして峠を越え、スイスに逃げてこようとしている様子を思いやっている。今は鉄道やバスで比較的簡単に国境の峠を越えられるけど、逃避行だからそういう交通手段は機能していても使えなかったでしょうね。島国の日本ではできないことですが。作者は今立っている峠の雪の深さに驚き、難民達はこんな雪深い峠を徒歩で越えてやってきたのかと言葉を失っている感じがします。(鹿取)


346 飴一つ含みて深く見下ろせばあな大氷河かそけく吹雪く

              (当日意見)                         
★標高差があって飴を嘗めたか?(藤本)
★飴一つということで、大氷河の大きさが出る。(曽我)
★飴一つしか口の中に入っていない物足りなさに、かえって大氷河の広がりが感じられる。(鈴木)
★峠のてっぺんに立っていて遙か下の方に大氷河が見えているのでしょうね。遠いから吹雪いていてもかそかな気配しか感じられない。その茫漠感でしょうか、飴一つ含んでいると安堵感が生まれますよね。(鹿取)

 

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馬場あき子の外国詠 344 スイス④

2025-01-14 10:50:54 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 馬場あき子の外国詠48(2012年2月実施)
      【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)173頁 
     参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
        渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子       司会とまとめ:鹿取 未放
                   

344 ヴェッターホルンの断面は窓の外(と)にありて雪しづれゆく膚かがやかす

           (レポート)
 氷河に削られ「断面」と呼びたきまでの山壁が「窓の外」にある。「しづれゆく」とは積もった雪が滑り落ちるの意。断面と呼ぶほど凸凹が浅く影が少ないのであろう。そこへ陽光がそそいで「雪しづれゆく肌」を「かがやかす」のである。(慧子)


            (当日意見)                            
★「ヴェッターホルン」は(写真持参しましたが)グリンデルワルトの景観を形作っていて、とてもシャープな山容をしていますね。3,710メートルで、富士山よりちょっと高くてとても秀麗な山です。ドイツ語で「お天気山」という意味だそうです。ホテルでしょうか、窓からヴェッターホルンの垂直のように切り立った断面が見えていて雪がそこを滑り落ちてゆく。昼の太陽の熱で雪が溶けて落ちるのでしょうね。山肌を輝かしているのは、太陽の光が断面に当たっているのでしょうけれど、山が自ずから輝いているような印象を受けます。躍動感のある土地褒めの一首ですね。(鹿取)
                

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 387

2025-01-13 14:32:24 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 渡辺松男研究46(2017年2月実施)
    『寒気氾濫』(1997年刊)【冬桜】P154~
     参加者:泉真帆、M・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:①曽我 亮子 ②渡部 慧子
        司会と記録:鹿取 未放          


 387 木の向こう側へ側へと影を曳き去りゆくものを若さと呼ばん

           (当日発言)
★自分の大事な青春をいうのに、自分の好きな木から語り始めている。(慧子)
★向こう側が若さということですか?(真帆)
★作者がそう言っているのでそうです。目の前を去っていくなら捕まえられそうだけど、木の向こう側へ行くのが捕らえられない儚いものだということかな。(慧子)
★向こう側というのが作者のキーワードの一つで、哲学的な深い意味合いを持っているようです。向 こう側へ去っていくのは光りだったり影だったりするんですが、ここは若さですから少し屈折がない感じがします。余談ですけど、小池光の「ポプラ焚く榾火(ほだび)に屈むわがまへをすばやく過ぎて青春といふ」(『バルサの翼』S・53年)を思い出しました。小池さんの青春は前を過ぎていく けどやっぱり捕まえられないんですね。(鹿取)

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渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 386

2025-01-12 19:20:02 | 短歌の鑑賞

  2025年度版 渡辺松男研究46(2017年2月実施)
    『寒気氾濫』(1997年刊)【冬桜】P154~
     参加者:泉真帆、M・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
          レポーター:①曽我 亮子 ②渡部 慧子
        司会と記録:鹿取 未放          

 

386 永劫のごとく澄みたる冬の日の蜆蝶は手に掬えそうなり

            (当日発言)
★382番歌に「久方の空澄みわたりゆえもなく元旦の日をおびえていたり」がありましたが、元旦の空も永劫のごとく澄んでいるって感じたのでしょうかね。やっぱり怖いですね。(鹿取)
★作者は野原に寝っ転がって青空を眺めているのではないかと思った。雲一つ無い青空は巨大な水瓶のように感じるときがありますが、作者もそんなふうに感じたのじゃないか。そこにひらひらと飛んでいる蜆蝶を見て、水の連想から砂に住んでいる生きものを連想して砂に手を入れて掬えそうと思ったんじゃないかな。そんなふうな意識の錯覚を起こしたのかなと。(真帆)
★私はそのまま飛んでいる蝶が手で捕まえられそうだと読んでいます。永劫にはやはり懼れとか、懼れるがゆえの怯えのようなものがあって、そこに一瞬可憐な蜆蝶がひらひらとやってくる。うまく言えませんが何かその永劫の中の一瞬に感応している歌かなと。永劫と蜆蝶の一瞬の邂逅が大事なのでしょう。好きな歌です。(鹿取)

 

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