E表現研究所の「Eから始まる」

E表現研究所所員の、E生活やE活動を自由に語り合うサロンです。

夏の思い出

2016-07-23 12:24:13 | エッセイ

梅雨が開けると、
途端にセミの声が聞こえるようになった。
マンションの2階、いっぱいに開けた窓からは、
セミのいるような木々は見えないのだけれど、
下をのぞいてみたら、
緑の垣根がずっと続いていて、
ああ、ここにセミが潜んでいるんだなあと思った。
潜んでいなければならなほど、
セミがいられる場所がないのだと思うと、
少しせつない気持ちになる。

子どもの頃、
夏休みの誰もいない神社に行くのが好きだった。
なぜ誰もいなかったのだろう。
朝早く、ラジオ体操で近所から人々が集まって来るのに。
朝ごはんのあと、
漢字ドリルと計算ドリルを1ページだけやって、
「なつやすみの友」をパラパラとめくって、
面白くなくなると、
ふと誰もいない神社に行きたくなる。

いつもの細い裏の路地に入ると、
犬のシロがいる家の前をそっと通って、
シロに見つからないように知らん顔をする。

友達のじゅんこちゃんの家の前の道を渡り、
幅の広い溝に沿って50メートルほど進むと、
セミの大合唱が聞こえてきて、
角を曲がると神社の裏手の門が見えてくる。

夏のにおいをかぎながら、
吹いてくる風にまばたきして、
自由を感じる瞬間。
本物の子ども時代は幸せだった。
何も考えず、何かを感じていればそれでよかった。

大人になった今、
家の中に入って来る夏の気配を、
セミの声、空の色、涼しい風の中に、
幼い頃をせつなく思い出しながら感じている。
何かいろいろ考えてしまって、
ただ感じるだけでは生きていられなくなった。

高校野球をぼんやり見ながら、
熱いものから遠ざかっていく私。
ふと気づくと、セミの声が大きくなる。
どこかに行きそうな私を呼び止めているかのように。

ほりかわ


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1 コメント

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Unknown (AS)
2016-07-28 02:48:27
夏は、暑さの中にどこか切なさをにじませている気がします。早く起きると、ヒグラシの声も聞こえてくるかも知れませんね。

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