緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

不安を整理するための病状説明

2009年01月15日 | 医療

前回に続きます。

漠然と不安を訴えていた患者さんとの会話
(今までの経験を集約させたフィクションです)から
病状説明が必要であることがわかりました。




ここで大切なことは
単に、今、がんはどこにどうあって、
今後どんな治療をするかというような説明ではなく、

治療前後での、抗腫瘍効果としてどう変化したか、
副作用は、どの程度今後の生活に影響していくか
効果として、得られているものが、マーカーや画像以外にないか
ある程度長期的な見通しの中で、生活を変更するべきことはあるか

などといったことに焦点を絞ることです。



家族、特にお子さん達とも一緒に
説明と双方向のやり取りができるような場を設定することがプランできます。




病状説明は、ご家族にだけするという場合があったり
ご家族が患者さんご本人には話してほしくないとする場合があります。

これは、医療者からの一方的な説明ではなく
ご本人の不安を整理するための場であること
ご本人とご家族の間の共通認識を持ってもらう場であることを
スタッフ間、家族間に理解してもらい、
話の内容も、事前に検討しておく必要があります。

日本では、この目的を事前にお伝えしておくことがとても大切です。




医師から話があると聞くと
ご家族は、どのような話なのだろうか
そのことで、さらに心が辛くなるのではないだろうかと
不安になられることがあります。

でも、病状説明には、
一方的な、厳しい現状を伝えることではなく
抱える不安を整理するための説明があることを
是非知っていただきたいと思います。

何もわからず宙ぶらりんなことほど不安定なことはありません。
立ち位置を共に確認する作業と言い換えた方がよいかもしれません。
そうすると、これから、患者さん、ご家族も共に治療チームの一員として
できることが見出せるのです。

 


前回書いた一例の場合、
患者さんの感情のフォーカスは以下と整理できます。

・ 副作用の程度
・ 効果ー抗腫瘍効果(その他の効果の存在は感覚的に実感がない)
・ 家族の一員としての、今後の自分の立ち位置が見えない

これらについて、腫瘍の縮小や生存期間という医療的側面からではなく
患者さんの生活がどのように変化するのか
よりよく生活するためには、どのような工夫ができるのか
といったことを中心に話合います。

この患者さんの生活からみた病状説明というのが
本当に医療者は上手くないのです。
よく、病気になって初めてわかったという医師がいますが
まさしく、病気になって生活の変化を実感し
その中でなにをすればよいか見出そうとするプロセスで
初めて、こういうことだったのか・・と理解するのだろうと思います。

長男がまだ乳児だったとき
母親の立場で、医療を経験することがあり、随分考えさせられました。
医療者の何気ない一言の残酷さも
日常診療の延長線上にある説明の無機質さも
これがなかったら、多分今の私はいなかっただろうと思います。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 不安な気持ちに向き合う方法 | トップ | たかが かんけり。されど ... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (nanami)
2009-01-16 11:53:12
突然ですいません。
はじめまして。

将来、緩和ケアをできる職業に就きたいと考え始めました。
ですが、大学には何学部に行けば良いのか、今何をすべきか、などがわかりません。

お時間がある時で構いません。
お返事をお待ちしています。

失礼しました。
返信する
幅広く・・・ (aruga)
2009-01-16 22:37:00
医療関係であれば限定はされません。
医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、リハビリのPT、OT、栄養士などです。でも、診療報酬上明記されている最初の三職種が深く関わることが多く、認定看護師や今年から募集が始まる緩和ケアの専門医、認定薬剤師等、緩和ケアのスペシャリストとして認められるようになります。
その他、緩和に特化したものではないですが、音楽療法士、アニマルセラピストやボランティアの方々を含めると、さらに広く関わることがわかると思います。

返信する
病状説明、その後の人生 (えび)
2009-01-17 14:14:50
ご本人にどう伝えるか、ということもそうですし、
ご家族もどのように向き合っていくのか、
ということを考えるのも大切なんですね

ご本人に伝えないと、援助したくても
出来ないケアが出てくることもある
患者さんはどんな人なのか、
医療者側もずっと向き合っていく覚悟が
求められますね

ある先生が「緩和ケアって、看護全体にあるのよ、
何もターミナルだけじゃないのよ」と
おっしゃっていたなぁと 思いだしました
返信する
えびさん (aruga)
2009-01-18 16:33:24
そうなんです。
日本では、ご家族にまず話して、説明の了解をもらうという手順にしてしまっている医師がおり、そうした時、「○○について、話すか話さないかご家族が決めて下さい」などということも少なくありません。でも、これは、医療者の逃げだと私は思うのです。難しい説明を家族に判断を求めるというのは、家族にその責任をかすことになり、医療者がどんなに難しいことでも、一緒に背負っていくという覚悟を家族に渡してしまっているような気がしてなりません。

看護師さんが「私達は、緩和ケアはやれませんから」と言っていたと聞いたことがあります。これは、緩和ケアを看取りケアと思っているか、緩和ケア病棟のようなケア(催し物を設定したりするような)と解釈してしまっているのかなあと思い、残念な気持ちになったことがあります。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療」カテゴリの最新記事