緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

未承認薬をめぐる裁判

2007年08月10日 | 医療

共同通信のこのニュース。
小さく扱われていますが
がん治療の影を感じます。

「未承認薬使う権利」なし 末期患者の治療で米高裁(共同通信) - goo ニュース

このgooニュースは短いのですが、医療系ニュースではさらに続きます。

数年後に承認されることになった未承認薬の使用が認められず、がんで死亡した娘を持つ親らでつくる市民団体が原告となって、米食品医薬品局を相手に訴えていた。市民団体は最高裁に上告する意向を明らかにした。原告は20人程度の患者を対象にした予備的な安全試験を通過した未承認薬の使用を求めていたが、判決の多数派意見では「治療上の効果が証明されていない薬によって死期が早まる危険性がある」とした。AP通信は、米議会内でもこの問題には共和、民主両党を問わず賛否両論があるとしている。

治験が終了していない薬剤の使用をめぐって
1相試験か第2相試験どまりの薬剤を
使用させてもらえなかったとして
訴えたということだったのでしょうか・・・

投与できなかったことによって
死亡した、または、死期がはやまった可能性を
訴えたのでしょうか。
これも推測の範囲です。

抗がん剤に対する姿勢は
アメリカも日本に似ているのだなあと
改めて感じました。

前がんセンター総長が言っていました。
「抗がん剤は、基本的に毒」です。

その毒の安全と効果を
いかに保証するかということが
専門家なんだと思います。

投与することによる
健康被害もありえます。
安易な未承認薬投与で
副作用による死亡の可能性だって
ぜったいないとは言い切れないのです。

日本では、アメリカ以上に
こんな状態で化学療法をするの?って
いうような場面を目の当たりにします。

おぼれそうになった時に例えて
藁をもすがる思いと
言われることもありますが
藁どころか
“おもり”の手枷になってしまうことを
忘れてはいけないと思うのです。

それには、がん治療医は
化学療法のデメリットをしっかりと
説明しなければいけないですよね。

「内心はね。効く訳が無いんだよ。
でも、治療がないと言えなくて投与している」
と影で言い切った治療医もいるのです。
この時ばかりは、きれました・・


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7 コメント

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Unknown (hrk)
2007-08-11 00:29:49
以前、神奈川で癌専門薬剤師のセミナーでご講演を伺ってから、たびたび覗かせていただいています。

ちょうど、今日お会いした患者さんの言葉を思い出しました。
その患者さんは化学療法の副作用ですっかり体重が落ちて疲れ果てていました。
「今度の抗癌剤がつらかったら、途中でも先生に言ってやめてもらおうと思っているの。枯れ木にいくら肥料をあげても、元気にはならないでしょ?弱った木でも日陰にそっと置いておいたほうが、実は元気になってくるかもしれないわよね。」

患者さんにとって、抗癌剤の治療が全てではないと思いつつ、何か治療がないかと切望される患者さんもいらっしゃる。自分がその立場になったら、何を望むのだろうと考えさせられました。
返信する
「治療がない」って言っても良いと思うのです・・・。 (ぴょん)
2007-08-11 10:46:36
極めて極論、誤解されてしまう言動かなぁと考えつつ、患者の家族だった私。
主人の場合、特殊な、あまり例のない癌だったこともありますが、「治療がない」「期待される様な効果がない。」(少し、癌の進行が遅くなる効果はあるという意味)と主治医の言葉遣いは違いますが、その様に、言われました。主人の癌、再発後。それは、始めて、癌だと言われた時から、見解は変わりませんでした。
おっしゃって良いと思います。
主人は、「治療をする。」という選択をしました。
治療法がないというのを主人が真っ向から、受け入れられなかった消極的な選択だったとも思いますが・・・。
主人の人生を考えると、本当に良い医療者に恵まれて、最後を迎えられたと思っています。あくまでも伴侶としてですが・・・。
一番困ったのは、主人の妹から勧められた、それはちょっと、信用できぬと言う、癌が治る(訳ないのですが)歯の治療。
病は気から・・・。もちろんそう言う部分もありましょう。人間は弱い物。何かにすがったり、間違った判断もするでしょう。
だがしかし・・・。
一番聞き分けがなかったのが、主人の妹二人だと思います。
気持ちは分かりますが・・・。本当に困りました。
返信する
コメントありがとうございます。 (aruga)
2007-08-11 22:22:49
hrkさん
こんにちは!お元気ですか?
>弱った木でも日陰にそっと置いておいたほうが、実は元気になってくるかもしれないわよね。
とても、優しい表現だなあと思いました。力みがなく、きっと、この言葉、他の患者さんの心にも染み入るでしょう。ありがとうございました。
抗がん治療が難しくなったら、シメチジンとNSAIDsかなあ~癌腫にもよりますけれどもね。

ぴょんさん
自己決定ができるということは、そのままの状況が上手に説明され、理解されてできることなのだと思うのです。治療がないと言われて、それを理解なさった上で、治療をするという選択をなさったのですから、それは本当によかったことだと思います。治療がないって言えないという医師に共通することは、上手な説明が苦手なことなのです。ぴょんさんのご主人に関わられた医療者は皆とてもコミュニケーションをとるのが上手だったのでしょう。本当にお幸せなことだと思います。
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ギアチェンジ (よっしぃ)
2007-08-12 09:18:36
先生がきれた気持ち痛いほどわかります。
今、ギアチェンジに関したブログ記事を作成中です。今日中には、公開予定です。TBさせていただきますね。
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よっしい先生 (aruga)
2007-08-12 23:25:11
コメント、TBありがとうございました。患者さんの立場にたては、いろいろな選択があるだろうと思うのですが、医師がその後の心理的フォローをするより、効かない抗がん剤を使っていたほうが楽だという姿勢を見せたことに切れてしまいました。医者の都合の抗がん剤だったのです・・
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治療がないとは???? (Med_Law)
2007-10-03 03:06:22
癌に対する直接の効果はなくとも、患者さんがお亡くなりになるまで治療は続きます。

痛みを治める緩和療法であるとか、食事を補助する栄養療法であるとか、精神的なケアをする心理療法とか。。。。。

素人にとって『治療がない』=『匙を投げた』であり、玄人にとっての『治療がない』=『緩和医療への変更』とは、理解に溝があります。

この溝を上手く埋める言葉の力を持たない医師は、がん患者を絶望に落としてしまうことでしょうし、言葉の力を持っている人はいつまでも信頼関係が続くことでしょう。
返信する
それぞれが使う“治療がない”という言葉 (aruga)
2007-10-03 23:45:49
ご指摘の通りです。治療がないという場合、使う人によって、がんを根治させる治療の限界が近づいた、がん治療から緩和ケアへ、がんを持った患者のすべてのケアを含む治療、いろいろな意味に使われます。これを、理解の差を生じないように説明できることが能力として求められるのだと思います。
ただ、治療の治は、やはり治ることとしてとらえたいと思うのは、人の生きることへの思いでもあるのだろうと思うのです。
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