緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

辛い・・から笑顔を取り戻したAさんのこと

2021年02月07日 | 医療
ComfreakによるPixabayからの画像 

Aさんは婦人科癌で手術と放射線治療を受け、
もう何年も再発はない状況でした。

リンパ浮腫のケアのために、
症状緩和・がん患者支援外来を受診されました。

初診時、

 足が腫れているのも辛いけど、
 もう、全部が辛い。
 体がだるくて、涙が出てきて・・
 生きているのが辛い・・・


適応障害でした。
数回程度、精神科専門医の併診を持ちました。



毎回、外来にいらっしゃると、
まずは、

 辛くて・・
 怠くて・・
 もう、死んだ方が楽・・

から始まります。


でも、リンパ浮腫のケアはご自分で取り組めていて、
浮腫みはありますが、
皮膚はしっとりするようになってきました。

ですから、
ひとしきり辛さの話を聞いた後、
その日の診察で見つけたよいこと、
ご自身で出来ていること、
を言葉にして、
数値も見てもらい、
診察の最後は、共に笑って送り出していました。


でも、次の外来になると、
リセットされていて、
まずは、
辛い・・で始まります。

これが数か月に1回の外来の度に
3年程続きました。




ある日、
一緒にケアをやってくれている看護師が、

 先生、先生、Aさん、
 婦人科に、入院になっています。
 どうも、膀胱に小さな穿孔を起こしてしまったようです。

と連絡をくれました。

ああ・・、どんなに落ち込んでいるだろう・・
膀胱バルーンが留置されているでしょうから、
また、死にたいって思っているのではないかしら・・

できるだけ、早く時間を作って、
訪室しようと思いました。



ベットのカーテンを開けたところ・・


 ああ、先生!
 来てくれたの?!
 ありがとうございます。
 なんかね、膀胱が破れちゃったの。

そして、順序良く、どんなことが体に起こって、
どのように入院になったか
話してくれました。



いつもとは違っていました。
辛い、怠い、こんなことになっちゃって・・
ではなく、
辛いことや、起こってしまったことは言語化しつつも、
表情は豊かで、笑顔もありました。




正直に私は伝えてみました。

いつもだと、お目かかった最初は、
辛い・・で始まっていましたが、
今日は、違いました。



 ふふ、
 もうね。
 諦めたの。
 しょうがないって。
 今の自分に付き合っていこうって、思うことにしたの。


何がAさんにそう思わせてくれたのでしょう?



 先生がいつも、
 出来てるよ
 大丈夫、大丈夫って
 言ってくれたから・・



海外の国籍を持つAさんは、
短いセンテンスでお話しくださるので、
本当は、色々突っ込んでお伺いしたい気持ちを
ぐっと抑えて、ただ、ただ、嬉しくて、
握手をして、その日は終わりました。

そして、
幸いにも穿孔は自然にふさがり、
自己導尿の方法をマスターして
早々に退院することができました。




このことを考えていて感じることがあります。

子育ても
成人の支援も似たところがあって
ディフェンス(守り)とオフェンス(攻め)の
バランスだなあと思うのです。

ディフェンスは
内に引き寄せて、守ること。
傷つきやすさをケアし、
危機回避をし、
安定であること、そっとしておくこと
静的な支援です。

オフェンスは
外に背中などを押して、変化を促すこと。
自信を持ってもらったり、
一歩踏み出すことを応援したり、
あるときは、冒険も含めた成長を
動的に支援します。



大体は、この2つのサポートの配分を
患者さんによって変えながら行っていきます。

私は、この背中の押しが強い傾向があるので、
時に、看護師さんが守り役を担ってくれるのも
本当にありがたいなあと感じます。


何よりも、患者さんが、
自分の中にある力に気づき、
歩み続けてくれていることに
何歳でも、どのような状況でも、
人は成長できるものだと
とても励まされた出来事でした。

コメント (13)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 見えない壁に囲まれて:精神... | トップ | メタボ脱出作戦。体重コント... »
最新の画像もっと見る

13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (m-tamago)
2021-02-07 22:45:35
ディフェンスとオフェンスのバランス、とても心に沁みました。
私も子育て、人とのお付き合いの中で、できるように心がけたい。
具体的ないいお話をいつもありがとうございます。
返信する
Unknown (ヒマヒマノキ)
2021-02-07 22:59:49
aruga先生こんばんは。
ヒマヒマノキと申します。
初めてコメントをさせていただきました。
今、誰もが不安を感じる中、医療の最前線でご尽力
されておられること、本当にありがとうございます。

これまでブログを読ませていただき、胸を打たれる
ことや気づかされることなど、多々ありました。

これまで死んだほうが楽とまで口にしていたクライエント
の方が、今回、笑顔を浮かべて、今の自分に付き合って
いこうと思いましたと語ってくれたそうですね。

専門的なことはわかりませんが、私は次のようなことを
感じました。

そのクライアントの方は、毎回診察のつど、先生から
〝ここが良かったですよ、出来てますよ、大丈夫よ”と
言っていただいていたのですね。
口にはしなかったものの、自分を認めてくれているその言葉が
ずっと嬉しかったのではないでしょうか。
その先生が、早速に入院室に来てくれた。
また優しい言葉が聞けた。先生も嬉しそうにしている。
クライエントの方は、どんなに嬉しかったことでしょうか。

先生の心のある言葉、その一言が一言がクライエント
の方の「成長」をもたらしたのではないでしょうか。
「一言のおもいやり」。その大切さに改めて気づか
された思いがしました。
返信する
Unknown (Fs)
2021-02-08 01:01:05
とても参考になります。
現役時代に役員をやっていた労働組合の組合員からの相談などで生かしたかったです。
今はもう退職しましたが、退職者会の運営に携わっていますので、まだまだ生かせることがあると思います。
ディフェンスとオフェンス役、現役のころ他の役員と役割分担をしながら実践していました。
無意識に実践していましたが、今思えばこういうことだったのだと思い当たります。
自分のこと、家族のことにでも応用したいと思います。
返信する
Unknown (ピエリナ)
2021-02-08 08:28:05
おはようございます🤗
初めて昨夜、ブログを拝見しました。

私も以前、ホスピスに勤めていました。
当時の友人達とはいまだに仲良くて定期的に会っています。
話す内容はやはり、最終的には生や死についてになります。

また、私自身、今、介護をしていて在宅、緩和ケアのクリニックにお世話になっています。
母は今、入院中で近いうちに施設か在宅かを決めなくてはなりません。
日々頭からこの問題が離れません。

これから楽しみにブログを拝見させて頂きたいと思っております。
よろしくお願い致します。
返信する
Unknown (taketo-shinagawa)
2021-02-08 11:11:25
ARUGA先生、こんにちは。
いつもご訪問、リアクション等で、応援ありがとうございます。
私のブログも、最近、プライベートの家族の、コロナ禍による感染の恐怖等により、健康、精神障害などで、家庭の平和も平穏無事な生活も滅茶苦茶な状況になり、家庭崩壊寸前まで進んでしまいましたが、医療関係の皆様のお陰様で、何とか、家族全員、落ち着いて来て、また、コロナ禍での生活に制約はあるものの、普通の時間を過ごすようになりました。
本当に、私たちに携わって戴いた、お医者さん、看護師、スタッフの皆様に感謝です。本当に有り難いことです。
・・・正に、今回のARUGA先生の、お話しは、我が家にとっても、これから、コロナの感染の恐怖からも少しずつ解放されて、健康を取り戻し、体力も付けて、普通に社会復帰が出来る、お教えになりました。
本当にありがとうございます。感謝。
返信する
Unknown (e3693)
2021-02-10 23:18:11
@m-tamago 温かなコメント、ありがとうございます。
日常の中に落とし込んでいただけるなんて、ブログを書いてよかったなあって素直に嬉しいです!!
返信する
Unknown (e3693)
2021-02-10 23:20:39
ヒマヒマノキさん
まさに言い当てて妙です!
書いたことを汲んでくださり、本当にありがとうございました。
返信する
Unknown (e3693)
2021-02-10 23:21:48
Fsさん
活かしていただけるなんて、なんてありがたいことなのでしょう!
本当に、ありがとうございます!!
返信する
Unknown (e3693)
2021-02-10 23:28:24
ピエリナさん

まあ、同志ですね!
ホスピス勤務経験者でいらっしゃるのですね。

お母さま、これから療養の場をお決めになるのですね。
共に歩んでくださいね。
11月のブログに書いた言葉ですが、どうか、無理の量を決めて、ご自身をいたわってください。

コメント、ありがとうございました。
aruga
返信する
Unknown (e3693)
2021-02-10 23:38:22
@taketo-shinagawa taketo-shinagawaさん
コロナのことで、少し大変でいらっしゃったのでしょうか。
少しずつ、前に進んでいらっしゃるご様子、お書きくださりありがとうございます。
お読みくださった方々はきっと、ホッとされたと思います。
こちらこそ、頂いた言葉に励まされました。
ありがとうございました。
aruga
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療」カテゴリの最新記事