新説百物語巻之四 2、疱瘡の神の事
2023.1
丹波国(たんばのくに:京都府の北部)の与謝の郡(舟屋で有名な伊根町など)で、ある年、村中に疱瘡がはやり、小児は残らず疱瘡にかかってしまった。
正月に至って、おおかた疱瘡も静まったが、三右衛門と言う者の子どもだけは、まだ患っていた。
三右衛門は、律儀な者であって、はなはだ疱瘡の神を敬い祀って、信心していた。
正月七日の夜、疱瘡の子も、殊の外具合が良かったので、家内の者にも、
「どこへでも、好きなところに行って遊んでらっしゃい。」と言って、お年玉などを与え、皆々近所へ出て行った。
三右衛門はひとりで、いろりの側に子を寝させて、たばこを吸っていた。
すると、夜中過ぎに、表の戸をあけて大勢のものが、家の内へ入って来た。
みなみな異形のものであって、男女老若さまざまな四五十人が入って来た。
「我々は、疱瘡の神である。越前の国の小浜の善右衛門船に乗って、今年は、この村へ来た。
三百軒ばかりの皆々に疱瘡を患わせ終わって、是れより又々、外へまわってゆく。
あまりに、そこ元にご馳走(供え物を貰った)になり、みなみなでお礼にと来たのだ。」と言った。
三右衛門は、これを聞いて、
「それでしたら、この一里奥に九兵衛と言う一家があります。
子供の二人が、まだ疱瘡にかかっておりません。お願い申しあげます。」と頼んだ。
異形の皆々が言った。
「それは、なにより易しい事である。すぐに行こう。」と言って、出て行った。
あくる日、手紙を書いて、右の様子を九兵衛かたへ知らせに遣わした。
すると、もはや夜の中より熱が出てきた、との返事が返って来た。
二人とも軽くかかっただけで、命には別条なかった。
その後、この一家、浦島氏の子孫は、今に至っても、疱瘡が軽く済む事が不思議である、と浦島の何某が語った。
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