江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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新説百物語巻之四 1、沢田源四郎幽霊をとぶらふ事

2023-01-21 22:16:09 | 新説百物語

新説百物語巻之四 1、沢田源四郎幽霊をとぶらふ事

               幽霊に来られた事              2023.1


周防(すおう)の山口に、中世の頃、沢田源四郎と言う者がいた。
十四歳であって、小姓を務めていた。
美少年で利発で、やさしい人柄であったので、男女ともに恋こがれる者が多かった。

同じ家中の鈴木何某と言う者が、大変親しくなって親友として交わっていた。
又、その城下のある寺の弟子に素観と言う者がいた。
彼も源四郎に心をかけていたが、鈴木なにがしと擬兄弟の約束をしたと聞いて、心安く思わなかった。
それを聞いた日より断食して、ついに同月余に亡くなった。
臨終の前よりさまざまのおそろしい事が起こって、死んだ時には、目をあてて見られるような顔つきではなかった。

されから、一二ヶ月も過ぎて、源四郎が寝間にあやしい事が、度々起こった。
ある時は、家鳴り振動し、又は縁の下から大坊主の形をした物が現れたりして、数日間続いた。
それから、源四郎もふらふらと患い出して、両親のなげきは、大変なものであった。
鈴木も毎日、見舞いに来て看病などした。

何分、死霊のためであろうと、貴僧高僧を頼み、種々の祈祷、読経をしてもらったが、一向に、よくならなかった。
化物も次第に大胆になり、夜がふけてだけではなく、宵から現れるようになった。
これは、きつねや狸の仕業であろうと、様々のことをしたが、止まなかった。

源四郎は日々に痩せおとろえた。
その後には、家内の者もくたびれて、近所の若い侍が代わる代わる夜伽に来た。
ある時、一人の侍が、夜がふけて目をさまし、ふと、袖に入れてきた栗を火鉢にくべて炙った。

その内に又々家内が振動して、これは、何か出てくるのではないか?と思った時に、亡くなった坊主のような姿で、恐ろしげな顔をした物が現れた。
そして、源四郎の枕もとに立ち寄ろうとした時に、丁度 栗がポンと火鉢から飛出した。
そして、そばにいた皆が、きもをつぶしたが、化物もハッと消え失せた。

どうしたわけか、その夜は、家鳴りも止んで化け物ももう来なかった。
それで、みなみな安心して夜とぎをした。

さて、又次の夜も誰彼が来て夜伽をしたが、その夜から絶えて何もおこらず、一向に化物の音もしなくなった。
それから、源四郎も病が癒えて何事もなく成人した。

思いがけずの栗の音に、化け物が来なくなったのは、不思議で、良い事であった。

 

 



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