『浪華奇談』怪異之部 1.医者が、野狐をしかる
2024.2
曽根崎村(大阪市北区)に、私の知っている医者が住んでいた。文化年間に、私がかの人の許へ行ったが、夜陰におよんで、外より柴の扉をたたく者がいた。
内より、「どちらから、来られましたか?」と問うと、「大仁村の庄屋方より来ました。奥様が、急に病になったので、診察して下さい。」と言った。
医者は、さっそく戸をひらくと見えたが、突然とがめて使いの者を叱った。
「にくい野狐のしわざかな。今宵はゆるすが、
また来たら、ただではおかないぞ。」
と立蹴にけたおし、戸を閉めて座についた。
私は、なんとも理解できなかった。
それで、「今のありさまは、何事ですか?」とたずねた。
主は、こう言った。
「只今来たのは、人ではなくて狐です。私をだまそうとしたのです。
おおよそ、村邑(むら)の医者は、こういった事を覚悟しなければ、だまされてしまいます。それで、夜に人って人が来る時は、はやくその者の手腕を握って見て、掌中にたとえば、竹の筒を握るように丸く感じたら、これはまさしく狐狸の変化です。その時は、大いに勇気を振るって、先程のように振る舞うのです。
そうすれば、もう二度と来ません。」
と。
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