大蝦蟇が人に化けて願い出る
2024.2
松平美濃守(みののかみ)下屋敷は、本所にあり、敷地内に方三町余りの沼があった。
ある年、何か理由があって、この沼を埋めるように申し付けた。
そして、近々埋め立てようとした時に、玄関に憲法小紋(けんぼうこもん)を着た一人の老人が来て、取次の侍に、
「わたくしは、この下屋敷に棲んでいる蝦蟇でございます。
このたび、わたくしの棲んでいる沼をお埋めになることを、お聞きいたしましたので、参上いたしました。
なにとぞ、沼を埋めるのを、ご中止くださるようお願い申し上げます。」
と言った。
取次の侍は、退座して、これは怪しいことだと思い、ふすまを隔てて窺い見るに、憲法(けんぼう)小紋の上下と見えたのは、蝦蟇の背中のまだらであった。
体の、大きさは、人間位であった。両眼は、鏡のようであった。
すぐに、美濃守へ報告すると、要望を聞きいれるとの言葉があった。
そして、その蝦蟇に答礼され、沼を埋める事を、中止した。
元文三年の事であった。
燕石十種 第五輯 江戸塵拾 より
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