三十路で独身の当方が意を決して「婚活パーティー」に参加したのは2016年1月のことだ。参加条件は“漫画オタク”。
開始15分前、会場である都内某所の雑居ビルの一室に入ると、既に男性3人、女性一人が雑談をしていた。戦いはもう始まっているのだ。彼等は当時放送されていたアニメ『おそ松さん』について語っていた。
「凄い人気ですね」
「1話が衝撃でしたからね」
「でも円盤買って観たら、1話が収録されていなくて驚きましたよ」
「やはりパロディーの連発で怒られたんでしょうね」
1万枚売れればメガヒットと言われるアニメ本編のBD、DVDを合わせて10万枚以上も売り上げた化け物級のコンテンツを、当方は全話視聴していた。彼等の発言には誤りがある。1話が円盤未収録であることはそれを買うほどのファンなら事前に知っていて当然の有名な話で、買って初めて気付くわけがないのだ。虚偽の話で盛り上がる彼等に疑問を抱きつつも、当方は当初の予定を変更し『おそ松さん』の豊富な知識で勝負に出ることにした。
やがて男女14人のアラサーが揃い、宴はスタート。
女A「オススメのアニメはありますか?」
男A「やはり『おそ松さん』でしょう」
開始5分で早くも来た。漫画オタクの集いなのにアニメの話をして良いのかという突っ込みはさて置き、当方にもチャンスは到来。しかし、
女B「昔の『おそ松くん』とどう違うんですか?」
男B「『くん』は六つ子を一まとめに扱っていましたが、『さん』では各人に兄弟の序列とキャラ設定が加えられ、個性が付いたんですよ。見分けが付けば更に楽しめるらしいです」
早速おかしい。「らしい」とはどういうことか。この男Bはその後も『おそ松さん』の話題が出る度に上の台詞しか言わず、それ以上の知識は無いようだった。そして今度は女性参加者が間違った知識を披露。
女C「一人だけ大学生なんですよね」
当方「否、全員ニートです。トド松がカフェのアルバイトで大学生と偽りモテようとした話はありますけど」
あの7話をどう観れば大学生だと解釈が出来るのか。この会場にはにわかが何人も居る。
その後も「1話でイケメン化した6人を出して女性人気を獲得しようとしたが、実際は2話以降の原作寄りのキャラデザのほうが受けてしまった」「カラ松を弄るギャグをやったらカラ松ガールズからの批判が殺到した」など、当方の持てる知識を最大限に引き出し、『おそ松さん』に詳しいアピールを怠らなかった。もちろん相手の話も良く聞き適切な相槌も心がけた。しかし、時間が経つにつれ、あることに気付いてしまう。
――こんな会話を続けて、何の意味があるのか――
そもそも漫画やアニメを詳しく語る男に女性は惚れるのか。逆に何度も引いていた気さえする。結局は顔と年収ではないのか。案の定、当方は誰の連絡先もゲット出来ず、参加費8000円と交通費は無駄になった。
当分、婚活パーティーに足を運ぶことは無いだろう。
(#4:1197字)
開始15分前、会場である都内某所の雑居ビルの一室に入ると、既に男性3人、女性一人が雑談をしていた。戦いはもう始まっているのだ。彼等は当時放送されていたアニメ『おそ松さん』について語っていた。
「凄い人気ですね」
「1話が衝撃でしたからね」
「でも円盤買って観たら、1話が収録されていなくて驚きましたよ」
「やはりパロディーの連発で怒られたんでしょうね」
1万枚売れればメガヒットと言われるアニメ本編のBD、DVDを合わせて10万枚以上も売り上げた化け物級のコンテンツを、当方は全話視聴していた。彼等の発言には誤りがある。1話が円盤未収録であることはそれを買うほどのファンなら事前に知っていて当然の有名な話で、買って初めて気付くわけがないのだ。虚偽の話で盛り上がる彼等に疑問を抱きつつも、当方は当初の予定を変更し『おそ松さん』の豊富な知識で勝負に出ることにした。
やがて男女14人のアラサーが揃い、宴はスタート。
女A「オススメのアニメはありますか?」
男A「やはり『おそ松さん』でしょう」
開始5分で早くも来た。漫画オタクの集いなのにアニメの話をして良いのかという突っ込みはさて置き、当方にもチャンスは到来。しかし、
女B「昔の『おそ松くん』とどう違うんですか?」
男B「『くん』は六つ子を一まとめに扱っていましたが、『さん』では各人に兄弟の序列とキャラ設定が加えられ、個性が付いたんですよ。見分けが付けば更に楽しめるらしいです」
早速おかしい。「らしい」とはどういうことか。この男Bはその後も『おそ松さん』の話題が出る度に上の台詞しか言わず、それ以上の知識は無いようだった。そして今度は女性参加者が間違った知識を披露。
女C「一人だけ大学生なんですよね」
当方「否、全員ニートです。トド松がカフェのアルバイトで大学生と偽りモテようとした話はありますけど」
あの7話をどう観れば大学生だと解釈が出来るのか。この会場にはにわかが何人も居る。
その後も「1話でイケメン化した6人を出して女性人気を獲得しようとしたが、実際は2話以降の原作寄りのキャラデザのほうが受けてしまった」「カラ松を弄るギャグをやったらカラ松ガールズからの批判が殺到した」など、当方の持てる知識を最大限に引き出し、『おそ松さん』に詳しいアピールを怠らなかった。もちろん相手の話も良く聞き適切な相槌も心がけた。しかし、時間が経つにつれ、あることに気付いてしまう。
――こんな会話を続けて、何の意味があるのか――
そもそも漫画やアニメを詳しく語る男に女性は惚れるのか。逆に何度も引いていた気さえする。結局は顔と年収ではないのか。案の定、当方は誰の連絡先もゲット出来ず、参加費8000円と交通費は無駄になった。
当分、婚活パーティーに足を運ぶことは無いだろう。
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